シイリの思い
全身ロネントで生活していたイツキナの事をツナクで知ったアルとシアムも、イツキナの部屋を訪れた。
そして、皆と同じように本人を見て絶句してしまった。
「……。」
「……。」
「や、やだなぁ、アルちゃん、シアムちゃん…。
大丈夫よ、私はこの通り学校にも行ってるんだからっ!」
「は、はい…。そうですよね。」
「す、すいません。私ったら、あの…、うぅぅ…。」
落ち込んでしまったアルとシアムをロネントの身体で励ますという不思議な光景となった。
「大丈夫だってっ!あははっ!」
イツキナは、やっぱりみんなには言わなかった方が良かったのでは無いかと思い始めていた。
(失敗したかなぁ…。)
そんなイツキナの思いとは関係なく、部員達はイツキナにある提案をしてきた。
「えっ!私の部屋に来るっ?!わ、私のせ、世話をするっ?!な、何を行っているのよ?」
「イツキナ、これは部員全員で決めたことなの。」
そう言ったアマミルの後ろには決意を決めた部員達がイツキナを見つめていた。
「はぁっ?!もう何を…。だって、このロネントを操作すれば自分で何でも出来るのよ…?」
「いや、ですが掃除とか洗濯とか大変ですよね。リハビリも一人だと大変だと聞きましたよ。」
ロウアがアマミルをサポートするように話した。
「そ、そうだけど…。え、えぇ…。でもなぁ…。」
イツキナは断っていたがみんなの思いに根負けしてしまい、自分の介護を受け入れることにした。
これ以降、霊界お助けロネント部のメンバーは、一旦活動を休止してイツキナのところに集まるようになった。
その甲斐あって、まずは部屋が綺麗になった。
実のところ、イツキナの母親も寮までは遠すぎて通えなかった。
イツキナ自身が、自分の世話をしていたと言っても手が回らないものも多数あり、とても助かった。
「はぁ、手が回らなかった掃除をやってもらえた助かったわ…。」
「そうよね、私も限界があるからなぁ。」
「部活優先でやってたものね。」
「そうね。」
「でも、部活も続けて欲しい…。」
それはイツキナの強い思いだった。
「う~ん、そうですね…。部員も多くなってきましたから、分担しましょうか。」
ロウアは分担を提案した。
「そうね。分担表を作るわ。」
こうして、部員の半分はイツキナの介護をして、半分は部活動を続けるようになった。
ホスヰもこの活動には加わっていたが、元々面倒見も良いのか、みんなが気づかないところにも気づいて、色々と自分で掃除をしたり、布団を干して上げたりと人一倍頑張っていた。
「わ、分かったから、ホスヰちゃん…、お、おむつは、い、良いからっ…。
そ、それは自分でやるわ…」
「あうんっ!?」
ホスヰがおむつを交換しようとしたのでそれはさすがにとイツキナが止めた。
授業の時間は、シアムの妹であるシイリが彼女の部屋に訪れた。
シイリもホスヰに負けないぐらい頑張って介護をしていた。
┌───────────────────┐
│シイリちゃん、ありがとうね。 │
└───────────────────┘
「いいえ、私もお手伝いさせてもらえて嬉しいです。
学校にも行けないし、みんなと一緒に何も出来なかったから…。
イツキナお姉ちゃんには失礼かもしれませんが、皆さんと一緒に何か出来て嬉しいですよ。
あっ、メメルトさんも一緒にいますよ。」
シイリは少し霊体質のため、メメルトを見ることが出来た。
┌───────────────────┐
│そうなのね。メメルトもありがとう。 │
└───────────────────┘
「"何も出来なくてごめんなさい。"と話しています。」
┌───────────────────┐
│ううん、いてくれて嬉しい。 │
└───────────────────┘
「"ありがとう。"と言ってますよ。」
部員達は身の世話などをしながら、イツキナのマッサージも始めた。
指先から腕の上まで、そして足の指先から股までをマッサージするだけだったが、この刺激で回復しないかとみんなで丹念にやるのだった。
┌───────────────────┐
│ロウア君と、マフメノ君もマッサージ │
│して良いのよ? │
└───────────────────┘
「い、いやいや、それはちょっと何というか…。」
「えっ、ロウアァ…。い、良いのかなぁっ!」
「だ、駄目に決まってるだろっ!!!」
ロウアもマフメノも焦ってしまった。
イツキナはシャイな男子達をからかうためにそう言っただけだった。
「イツキナ…。止めなさいって…。」
アマミルはイツキナの悪ふざけをとがめた。
┌───────────────────┐
│ふふ! │
└───────────────────┘
マッサージは部活をやりながら交代で毎日毎日繰り返した。
アルやシアムも時間があればイツキナの部屋に来てマッサージに参加した。
そんな部活動が、半年も続いた。
医師ロネントの話では、腕なら少し動かせるはずとのことだったが、全く動く気配を見せなかった。
当のイツキナは、6年近くも動かなかった手足が今更動くとも思えず、いらだちを覚えることもあった。
今日は、アマミルとシイリがマッサージをしていたが、ついにイツキナの不満が爆発した。
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│止めてよっ!!無駄なの!! │
│今まで自分でも散々やってたのよ!! │
│何も感じないの!! │
│動かないの!! │
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これにはアマミルもさすがにカチンときてしまった。
「イツキナッ!みんながこんなに協力しているのに何てことを言うのっ?!
初めの頃に戻っちゃったみたいじゃないっ!!
あなたがみんなに自分の事を知って欲しいって言ったんでしょっ!!」
┌───────────────────┐
│ううぅ…。だって、だって…。 │
└───────────────────┘
イツキナは涙を流していた。
「あなたが何て言おうと関係ないわっ!!勝手に私たちは頑張るからっ!!」
アマミルはイツキナの勝手な言い分にムッとしていたが、いつもは大人しいシイリも大声を上げて驚いてしまった。
「イツキナさん、私はあなたがうらやましいっ!
だって生身の身体があるじゃないですかっ!
何で諦めちゃうんですかっ!
身体が…あるじゃないです…か…。
私だって…、私だって…。こんな身体じゃなかったらみんなと学校に行きたいっ!!
みんなと部活をやりたいっ!!
治るかも…しれない…じゃない…です…か…。
うぅぅ…、グスッ、グスッ…。」
シイリが隠していた気持ちがアマミルとイツキナに伝わって、二人は心が痛んだ。
┌───────────────────┐
│うぅぅ…。ありがとう…。 │
│ありが…とう…。うぅぅ…。 │
│こんな私のために…。 │
│ごめんね、シイリちゃん…。私頑張る…。│
└───────────────────┘
イツキナはシイリの気持ちを考えなかった自分のわがままを後悔するのだった。
アマミルとシイリはイツキナを抱きしめた。
「頑張りましょうよ、イツキナお姉ちゃん…。」
「イツキナ…。今更、バカなこと言わないで…。」
┌───────────────────┐
│分かったわ…。 │
│ごめんね、二人とも…。 │
└───────────────────┘




