予算の使い道
ある日、カウラ達三人がイツキナの病室を訪れた。
病室には、イツキナの他に、アマミルも来ていた。
「あっ!コーチッ!オサさんにエハさんもいらっしゃいっ!」
イツキナの操作するロネントがカウラ達の訪れを喜んでくれた。
「やぁ、皆さん。こんにちは。」
「こんにちは。」
「こんにちは。」
皆それぞれが挨拶をし終えると、カウラは「ラ・アヒとラ・アムの賞」を受賞したことを報告した。
「おめでとうございますっ!さっきツナクのニュースで大々的に流れていましたよ。ね?イツキナ。」
「うんうんっ!素晴らしいですっ!!でも、コーチはステージの上で転びそうになっていましたね。」
「は、恥ずかしい…。緊張していたんだよ…。」
アマミルとロネントのイツキナはカウラ達を讃えた。
ベットに横になっているイツキナは、ロネントを操作するヘッドギアをかぶっていて表情が読めないが、嬉しそうな目をしているのが分かった。
「あぁ、今日いらっしゃると分かっていれば、アマミルと一緒に何かプレゼントしたのにっ!」
「いやいや、良いよ、良いよ。君がこうして歩いているだけで嬉しいんだ。それに…。」
「それに…?」
「君が入れてくれたお茶…。」
「お茶ですか?そんな大したものでは…。」
「違うんだ。君が入れてくれたということが嬉しいんだ。な、二人とも。」
「はいっ!」
「上手く操作できているようで嬉しいよっ!」
「あぁ、そんな…。皆さんのおかげですよ。」
「私からもお礼を申し上げます。」
アマミルもイツキナをまた話が出来るようになったことが嬉しかった。
「あの時、アマミル君が部屋に来てくれなかったらどうなっていたことか。
君の小さな勇気がここまでの成果となったんだよ。ありがとうね。」
カウラはアマミルの勇気に感謝をした。
「そうな…。あの時は必死で…。」
アマミルは思わぬカウラからの言葉で照れてしまった。
「そうよね、ありがとう。アマミル。」
イツキナもアマミルに感謝した。
「でも、コーチが来た時は驚いちゃいました。知らない男の人なんですもの…。」
「あははっ!それはそうだよね。
だけど、イツキナ君の頑張りにも感謝しているよ。
君の貢献でどれほど他の人達が助かったことか…。本当にありがとう。」
「い、いえいえ…。でも他の人達にも貢献できたなんて…、コーチ、嬉しいです。」
「も、もうそろそろ、コーチは止めようか…。」
「あぁ、つい…。すいません。カウラさん。」
「う、うん…。」
「だけど、このロネントって少し不思議な感じです。自分が目の前にいるんですもの。」
イツキナロネントは自分自身を眺めながらそう言った。
それは動かしている本人ではないと感じられないような不思議な感覚だった。
自分は動けないが、目の前にいる自分そっくりのロネントが自分の意思で、動いているのだ。
「そうだよね…。私も試してみたが不思議な感覚だった。」
「でもね。身体に色々な線が入っているでしょ?」
イツキナは自分の操作するロネントがメンテナンス用に"蓋"を開けられるようになっている事を話した。
「この線のお陰で操作しているって気がするから大丈夫なんですよ。」
「あぁ、そうかぁ…。」
カウラは少し困ったなという顔をして、オサとエハの方を見た。
二人も困り顔をしていた。
「どうされたんですか?」
イツキナは三人が何故困っているのか分からなかった。
「いやぁ…。えっとね…。う~ん…。今日はイツキナ君の誕生日だろ?」
「そうですね。よくご存じですね。」
「だから、ちょっとしたプレゼントを…持ってきたんだ。
持ってきたというか連れてきたって言えば良いのかな?」
「連れてきた…?」
「さぁ、入りたまえ。」
カウラがそう言うと、入り口が開いて綺麗な女性が入ってきた。
その顔はまさにイツキナそっくりであった。
だが、その機械的な動きからロネントであることは明白だった。
「えっ?」
「まぁ、イツキナそっくりっ!」
これにはイツキナもアマミルも驚かざるを得なかった。
そのロネントは今使っているロネントよりも綺麗な肌をしていて、腕や足もより綺麗だった。
それに、イツキナの話したような"線"は消えていた。
「困ったことに、そのメンテナンス用の"線"は無い個体なんだ。
つまり、これは…。」
カウラ達は嬉しそうな顔をした。
「は、はい…。」
イツキナはまだピンときていないようだった。
「そうっ!これは、新しい君のロネントだよっ!喜んでもらえるかなぁ…。」
「えぇっ!!!」
「す、すごいっ!」
カウラ達は増えた予算の一部を使って新しいイツキナ専用のロネントを作ったのだった。
「で、でも良いんでしょうか?
こんな綺麗な…。人間みたいな肌と髪と瞳…。」
「うん、是非もらって欲しい。メンテナンスの線だらけだと学校に行けないだろう?」
「は、はいっ!!嬉しいですっ!」
イツキナは思わずカウラを抱きしめてしまった。
「あわわ…。」
カウラは女性に抱きつかれた事が無かったので慌ててしまった。
「イッ、イツキナッ!カウラさんが困っているよ…。」
「あぁ…、私ったら…。」
ロネントだから顔を赤らめることは無かったが、本体である人間の方は顔を真っ赤にしていた。
「さぁ、オサ君、エハ君、切替を…。そうだ、君の頭に付けている制御装置ももっと簡易なものにしたよ。」
新しいロネントはカウラ達の感謝の気持ちだった。
イツキナは自分の新しい身体に感動していた。
「すごいですっ!軽いです。腕も足も身体も頭も全部、全部、軽いですっ!
ありがとうございましたっ!!!」
「そうか、そうか。喜んでもらえて嬉しいよ。
顔の表情なんかも細かく出来るようになっているんだ。」
「なるほどっ!」
「良かったね、イツキナ。」
「うん、アマミルもありがとうっ!それに可愛い服っ!」
「うん、その服もプレゼントだよ。」
「あれっ?!もしかして、その服ってカウラさん達が着せたんですか?」
アマミルは思わず突っ込みを入れてしまった。
「えっ!あ、あの…。そ、その…。」
「あうあう…。」
「え、えっと…。」
研究員の三人はしどろもどろとしていた。
アマミルがイツキナの上着を除くと下着も着けていた。
スカートをはいているが、少しめくってみると下もちゃんとはいていた。
「きゃっ!アマミル何するのよっ!」
「これも?」
「……。」
「……。」
「……。」
三人は何も言えなくなってしまった。
「も、もうっ!良いじゃ無いっ!!わ、私は大丈夫よっ!操作していなかった時だものっ!」
「あら、イツキナその割には顔を真っ赤にしているわ。
すごいわね、この身体。顔まで赤くなるなんて。」
「もうっ!!!にゃにちゃらっといいいててるるるるっ!!!」
「…最後何を言っているか分からないわ…。」
「あぁ、感情が高まると上手く情報送信できなくなるのかもしれないな…。
け、研究しないとなっ!二人ともっ!」
「そ、そうですね…。」
「ど、どこの情報がつ、詰まってしまったの…か、かなぁ。」
三人はしどろもどろしながら汗だくになっていた。
「さぁ、えっと、わ、私たちは、け、研究があるから、か、帰るとするか。」
「は、はい。」
「えぇ、か、帰りましょう。」
アマミルのするどい突っ込みで焦った三人だったが、言い忘れていた事を思い出した。
「えっと、あぁ、そうだっ!誕生日おめでとう…。」
「あっ、そうでした。おめでとう、イツキナ君。」
「おめで…とう…。ふ、古い機体は私たちがひ、引き取るから…。」
カウラ達はそう言うと、お古のロネントを連れて早々に病室を立ち去ってしまった。
「ぷっ!」
「ふふふっ!」
残された二人は顔を見合わせて大笑いをするのだった。
これ以降、イツキナの感情が高ぶったり、興奮したりすると、意味不明な奇声をあげるようになったのが、致命的な問題でも無いので、取りあえずそのまま運用する事になった。




