ラ・アヒとラ・アムの賞
研究室に戻ると、カウラはまたオサとエハを集めて説明を始めた。
「キノコだよ、キノコッ!」
「はぁ?キノコ…?」
「キノコがどうしたんですか…?」
オサとエハはカウラがキノコ、キノコと連呼するので、疲れてついにおかしくなったのだと思った。
「赤いキノコが10個並んだら、青キノコにすれば良いんだっ!」
「な、何を言っているのか分からないのですが…。エハ、説明してくれ…。」
「いや…、いつも何を言っているか分からないが、今度は今まで以上に分からない…。
お疲れのようですね…、もう少し休んだ方が…。」
「ち、違うってっ!疲れていないってっ!つまいr、こういうことなんだっ!」
カウラは興奮しながら空中にこんな図を書いた。
┌───────────────────┐
│0000000000 │
│ ↓ │
│0 10 │
└───────────────────┘
「つまり、"0"が10個並んだら、"0"10とすれば良いんだよっ!」
「同じデータが並んだ時はひとまとめにすると…。」
「確かにツナクトノから流れてくる情報は、"0"と"1"しかありませんね…。」
「それに、同じようなデータが並んでくる場合もあるだろう?」
「あぁ、なるほど。」
「そいつらも別の記号にしてしまえと。」
「そうそうっ!」
カウラが説明しようとしている内容は、21世紀の我々はとても身近なコンピューターの技術だった。
これはつまり、データ圧縮という技術だった。
そのままのデータサイズであれば大きすぎるファイルでも圧縮されれば扱いやすくなるのを経験しているだろう。
例えば、テキストファイルを圧縮することで、サイズを小さくしてメールに添付するようなケースだ。
データ圧縮には、他にも画像であればJPEG形式であったり、音楽データであればMPEG形式であったりと様々な圧縮形式が存在する。
意識しないところでは、インターネットでやり取りするデータも圧縮されていたり、携帯電話の通信データも圧縮されて送受信されていたりする。
このように我々は、ごく当たり前のように使っているデータ圧縮技術だったが、ムーの時代はこの技術が無かった。
だから、カウラの発見は画期的だった。
「イツキナ君から流れてくる情報をこの方法で小さくするんだっ!」
「おぉっ!」
「いけるかもしれませんねっ!」
オサとエハもカウラの発見した方法ならいけると思った。
「私は小さくするプログラムを作るよっ!」
この方法の結果、データ量は元のデータサイズのわずか1~2割程度となった。
「あぁ、すごいですっ!カウラさんっ!」
イツキナは、先天的な歩く、走るといった動きが出来るようになった上に、小さくなったデータによって、後天的な手を振る、飛び跳ねるなどの動きが出来るようになった。
「あぁ、やった…。やったぞ、オサ君、エハ君…。」
「やりましたねっ!私たちがプログラミングした基本的な動きに人間らしさが加わりましたよ。」
「女性らしい動きになった…。うぅぅ…。」
「何だよ、エハ…。泣いてるのか?」
「オサだって泣いているじゃないか…。」
三人はお互いの仕事を讃えて手を握ったり、肩をたたき合ったりして、喜び合った。
目の前には嬉しそうにスキップしているイツキナがいた。
イツキナは、やがて止まると目を手で拭く仕草をし始めた。
カウラは不思議に思ったが、すぐに本人が泣いているのだと分かった。
「あぁ…。そうか、イツキナ君…。」
カウラは慌ててイツキナの涙を拭いて上げた。
「皆さん…、嬉しいです…。これなら歩けますっ!走れますっ!学校にだって行けますっ!
コーチッ!ありがとう…、ありがとうございました。」
「やったなっ、イツキナ君っ!」
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カウラ達の実証実験は成功を収めた。
このロネントを使った義体技術で何らかの障害で動かなくなった身体の代わりとなるロネントが作られるようになった。
再生手術では回復できないような肢体を失った患者には義手、義足となるロネントの腕や足が作られるようになった。
また、全身ロネントを開発で使われたデータ圧縮技術は、ツナク上の通信データ量を膨大にさせる基本技術にもなった。
元々、立体映像の画像や動画など配信されていたが、そのチャンネル数が無数に同時に配信できるようになり、カフテネ・ミルのように個人がチャンネルを作って情報を発信することも出来るようになった。
これら技術によって、カウラ達のチームはムーの神官達から、「ラ・アヒとラ・アムの賞」をもらうことになった。
ラ・アヒとラ・アムは、戦争から安定したムー大陸に学校などを設立した文化、文明の貢献者だった。
同じように、ムー文明で文化、文明、もしくは、科学技術で人類に貢献した人に与えられる栄誉賞だった。
この受賞はカウラ達の研究メンバーを大陸で有名にさせた上に、大幅な予算増加となった。
「やりましたねっ!」
「オサ君、エハ君、この予算で給料も増やすことが出来るぞっ!」
「おぉっ!」
「素晴らしいっ!頑張った甲斐がありましたっ!」
「さて、余った予算は…っと。」




