実証実験
ある日、アマミルがいつものようにイツキナの病室に向かう途中だった。
"あの部屋を見るんだよ。"
(えっ?)
イツキナは、何か声が聞こえたような気がして、頭をキョロキョロとさせた。
(あれ、誰もいない…。疲れているのかな…。)
アマミルが不思議に思っていると、視線を動かした先の廊下の奥に研究室と書かれた扉があって、かすかに空いている事に気づいた。
アマミルは何かに導かれるように、扉の隙間から中を覗いてみた。
(何やってるのかしら私…。うん?あれは…何かしら?)
そこには、頭に何かを付けた青年が、遠く離れた腕を動かしているところだった。
「よっと。」
青年が声を出すと、ロネントの腕が動き出す。
意思のままに身体を動かすという実験をしているようだった。
「うん、大体動くようになってきた。」
青年は一緒に研究していると思われる二人の青年に話しかけた。
三人とも現在のような作業服を着ていて、看板のような研究室の研究員には見えなかった。
「カウラさんの研究通り、思いでロネントを動かす技術が確立してきましたね。」
「ここまで上手くいくとは思いませんでしたよ。」
「えぇ、そりゃないよ…、エハ君…。」
「すいません。カウラさんの研究だから上手く思っていましたが、ここまで完成するとは思っていなかったという意味ですよ。」
「本当かなあ…。オサ君はどうなんだい?」
「実は僕も…。」
「たはっ!君もか…。」
「でも、カウラさんに付いてきて良かったと思います。」
「おぉ、ありがとう。うん?あれ、何だかなぁ…。」
「しかし、ツナクに伝わる"思い"を応用するなんて。
これで身体が不自由な人を助けることが出来ますねっ!」
身体が不自由な人と聞いて、アマミルは胸が躍った。
「君たちの協力があったから、ここまで来たんだ。感謝しているよ。」
「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございました。」
「私も感謝しています。勉強になりましたよ。」
「さて、あとは実証実験だけだと思うんだが。」
「そうですね。対象者を探さないといけませんね。」
「医療ロネントに探させてみるか…。」
「そうですね。」
アマミルはこの三人を会話を聞いていて、もしかしたらと思った。
だが、いきなり入ることも出来ず、ただ眺めているだけだった。
"ほら、入るんだよ。"
(えっ?何々…?!また声が聞こえた…?)
アマミルは後ろから何かに押されるように研究室に入ってしまった。
「あ、あのっ!!(わ~、どうしよう…。)」
アマミルは思わず、声をかけてしまった。
その声を聞いた三人の青年が振り向くと、女子学生がいたので驚いてしまった。
「えっ?えっと、き、君は…?」
カウラという青年は、戸惑った顔で名前を聞いた。
「(え~いっ!頑張れ私っ!!)
わ、私はアマミルと言います…。
突然、ごめんなさい…。
その実証実験を、わ、私の友達で出来ないでしょうか…?」
「えぇっと、アマミル君の友達で実証実験…?」
「そ、そうですっ!わ、私の友達は…。」
アマミルは自分の友達イツキナのことをこのカウラに話した。
「そうか…。それは大変だな…。」
「カウラさん、全身となると難しいのでは…。身体の一部からの方が…。」
エハという青年は、さすがに全身というのは無理では無いかと考えていた。
「いや…、言い方は悪いが、良い機会かもしれない。全身で出来れば身体の一部なんて簡単だろ?」
「そうですが…、いきなり全身は…。」
もう一人の青年、オサも難しいのでは無いかと考えていた。
「ま、まぁ、話だけでも聞いてみようよ。」
「えぇ…。」
「また始まった…。」
オサとエハは、カウラがこうなると止まらないのを知っていたので、行きたくないと思った。
「…ともかく、君の友達を紹介してくれ。あと色々調べさせてもらわないとな。
あ、ツナクは身体に埋め込んでいるのかな?」
「はいっ!!右手に埋めていますっ!!」
「おお、そうか。そうか。」
「あぁ、もう断れないぞ…。」
「そうだね、エハ…。」
二人はあきれ返っていた。
ともかく、三人はアマミルの案内でイツキナの病室を訪問する事になった。
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イツキナは突然、作業服を着た男性が三人も入ってきたので驚いてしまった。
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│えっ?アマミル、この人達は? │
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「カウラという人なの。きっとあなたを助けてくれるわっ!!」
アマミルは未だ何も決まっていないのに興奮気味にイツキナに話した。
「えっとね…。」
アマミルは、実験室でカウラが行っていた実証実験を説明した。
補足するようにカウラも説明した。
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│そんなこと出来るんでしょうか? │
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イツキナが疑問に思うのは無理も無かったが、カウラは正直に説明した。
「正直言うと、検証がやっと終わったところなんだ。
そしてこれから実証実験をしようとするところだった。
イツキナ君が協力してもらえると助かるんだが…。」
「あぁ…。」
「言ってしまったよ…。もう戻れない…。」
オサとエハは、協力のお願いまでしてしまったカウラに呆れた。
そんな二人をよそに、カウラは熱意のこもった目でイツキナを見つめた。
アマミルも同じように目を輝かせていた。
イツキナはそれに答えるような力強い瞬きで答えた。
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│はい、頑張ります! │
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「よしっ!ありがとうっ!それじゃぁ、君の個人番号から…。」
オサとエハは、イツキナという少女が断ってくれればと思っていた。
だが、カウラがやる気になった以上、付き合うしか無い。
「あはは、室長には困ったもんだ。」
「そうだなっ!準備を始めるか。」
オサとエハは困った室長、カウラに呆れていたが内心は決意を新たにしていた。
こうして全身ロネントの実証実験は開始された。




