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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
幻化体
120/573

病室の少女

イツキナの話を聞いていた一同は、氷のように身体が固まって、言葉を失った。


「…こんなところかなぁ。その後、全身ロネントに出会って今ここにいるってわけ。」


「…で、では、お身体は…。」


ロウアは、身体のことが気になって思わず質問してしまった。

だが、それは聞いてはいけないような気がして失敗したと思った。


「ふふ、中の人は寮にいるわ。この学校も寛容よね。病室みたいな大きな部屋を貸してくれるんだから。」


「そうよね。元々あった部屋だと狭いものね。」


(イケガミ…。)


魂のロウアがしばらく黙っていたが、ようやく話しかけてきた。


(うん?)


(お前はまた知っていたのに言わなかったと言うかもしれない。

もちろん俺は知っていた。

こいつを見たとき、頭から変な線が出ているのに気づいたんだ。

それを辿っていったら、寝たきりの本人がいたんだ…。

だけど、こちらが話さないようにしていたのも分かっていた。

だから話さなかったんだ…。)


(うん、そうか…。)


魂のロウアが、らしくなく気落ちしているが分かって、それ以上は何も言わなかった。


(線…?シルバーコード?いや違うか。それなら僕も気づくはず。)


しばらくしてイツキナは意を決したようにある提案をした。


「…みんな、私の部屋に来て。」


「イ、イツキナ…!良いの?!」


それに驚いたのはアマミルだった。


「良いのよ、隠しても仕方ないじゃ無い。」


「イツキナがそう言うなら…。」


「どうかしら?みんな。」


イツキナの提案にみんな戸惑った。


「い、行きます。本当のイツキナ先輩に会いたいです。」


だが、ロウアがそう言うと皆もうんとうなずいた。


「うん、ありがとう。それなら移動しましょう。

お部屋汚いかもなぁ。あはは。臭かったりしたらごめんなさいね?」


「イ、イツキナ、無理しなくて良いのよ?」


アマミルはイツキナを気遣った。


「ううん、無理していないわ。部活のみんなには本当の私を見て欲しい。

今更かもだけどね。

う~ん、正直言うと少し恥ずかしいかもなぁ。」


こうして一同は、イツキナのいる寮に向かった。


-----


女子学生の寮なので、男子であるロウアやマフメノは申請が必要だった。

寮の入り口にいる管理人ロネントに事情を説明すると、数分待たされたが了解が得られた。

どうやら、学校にいる"人間の管理人"とやり取りをしていたようだった。


"了解が得られました。どうぞ、ナカニお入り下さい。"


「…さ、こっちよ。」


その声を聞いてみんな少し驚いていた。

何となく不安そうな声だったからだ。


(イツキナ先輩、不安なのかな…。)


(そうだろうな…。

マフメノも女子寮で興奮しそうなもんだが、黙っているな。)


(うん、そうだね…。)


イツキナは静かに着いてくるみんなの事を考えて不安になっていた。


(私、何をしているのかしら…。みんなを自分のところに案内してしまって…。

私の本当の姿を見て受けれてもらえるのかしら…。

怖がって話してくれなくなるかもしれない…。

面倒に巻き込まれてしまうのを嫌がってしまうかもしれない…。)


急に色々なことを考え始めてしまい、自分の提案したことを徐々に後悔し始めていた。


やがて一階の奥にあるイツキナと書いてある部屋に到着した。

だが、イツキナはそこで身体の動きが止まってしまった。

部員達は、通信がまた切れたのかと思ったが、そうでは無いことがすぐに分かった。


「イ、イツキナ…。」


アマミルがその姿を見て声をかけた。


「良いのよ、本当に。止めるなら未だ間に合うわ。」


「あぁ、ごめんなさい。私ったら…。やだなぁ。あはは…。

自分で言い始めたことなのに…。」


そう言うと、イツキナは震える手で自分の部屋を開けた。


…ガチャッ


そこは、まさに病室といって良いぐらいの大きな部屋だった。

部屋にはロウアがこの時代に始めて来たときに見た心音を図る装置などもあり、しんと静まり返った部屋に心音が小さく響いていた。


カーテンの閉じられた窓は、夕焼けの赤い日差しが映っていた。

真ん中には、大きなベットがあり、そこに横たわる一人の少女がいた。

部員達が、イツキナと分かるには時間が掛かった。

身体が細く、顔はげっそりと痩せてしまっているので、いつも見ている全身ロネントのイツキナとは似ても似つかなかったからだった。

誰もがその姿を見て言葉を失い、扉から入ったところで止まってしまった。


その少女は目を細めてこちらを見ていた。

だが、首が回らないのか目だけがこちらを見ているような状態だった。


┌───────────────────┐

│こっちに来て大丈夫よ?        │

└───────────────────┘


ピッという音と共にメッセージがベットの上に表示された。

その言葉で、ロウア達はベットの横に立った。


ロネントは、寝ているイツキナのそばに移動すると上半身を持ち上げて、首を少し動かしてロウア達が見えるようにした。


┌───────────────────┐

│驚いちゃったかしら。ごめんね。    │

│身体はこの通り動かないわ。      │

│かろうじて動くのは目とまぶただけ。  │

│困ったものね。            │

│自分で自分の世話をしているの。    │

│変な感じよね?あはは。        │

└───────────────────┘


ベットにはイツキナのメッセージが表示されていた。

それは彼女の思ったことをメッセージにするこの時代の技術を使った"言葉"だった。


「イツキナ先輩…。」


┌───────────────────┐

│ロウア君、そんな顔をしないで。    │

│これでも自由に動けるようになって   │

│嬉しいんだから。           │

└───────────────────┘


(自由?)


イツキナの話した"自由"という言葉にロウアは違和感を覚えた。

この状態でどうして自由と言えるのか。

彼女の苦しみ、絶望は想像に難くない。

ロウアは涙が流れそうになってしまった。


ホスヰはベットの横に立ち、イツキナの手を握っていた。


「イツキナお姉ちゃん…。ウゥ…。」


┌───────────────────┐

│ホスヰちゃん、ごめんね。       │

│ビックリしちゃったね。        │

└───────────────────┘


「あうん…。そんなこと無いよぉ~。ウワ~~ンッ!」


┌───────────────────┐

│あらあら。ごめんね、ごめんね。    │

└───────────────────┘


イツキナがそう話すと、ロネントはホスヰの頭を撫でた。


マフメノとツクは棒立ちになっていたが、全身ロネントについて知っていることを話した。


「…全身ロネントの話は聞いたことがあります…。ロネントでも最新の技術だって。

思いをそのままロネントに伝えて動作させる技術…。

それが一般化し始めていると。

だけど実際にお目にかかれるとは思ってもいませんでした…。

最初に気づいたときはまさかと思いました…。」


「私は、マフメノ先輩に聞いて、調べました。

思いとの連動は相当大変だと聞きます。」


┌───────────────────┐

│さすが勉強家ね。           │

│最初は指一本動かすのすら大変だったわ。│

│ね?アマミル。            │

└───────────────────┘


「そうだったわね。ちなみに、その最新技術の第一号者がイツキナなのよ。」


アマミルはイツキナについて話すと一同は驚きの声を上げた。


「えっ?!」

「なんと…。」

「そうなんですか…。」


┌───────────────────┐

│そうなの。第一号というのは光栄よね。 │

│頑張った甲斐があったわ。       │

└───────────────────┘


「学校に行けるようになるまで一年ぐらいかかったっけ?」


┌───────────────────┐

│そうそう、それぐらい。        │

│だけど、このロネントがあって良かった │

│わ。                 │

│これが無かったらベットに寝たままだも │

│の。                 │

│あれ、正確には今でも寝たままなんだけど│

│ね。ふふふ。             │

└───────────────────┘


イツキナは目を少し細めていたから、笑っているように見えた。

彼女の言葉は、自分の身体をあまり気にしていないようにも見えたし、気丈に振る舞っているようにも見えたし、みんなに心配しないでと言ってるようにも聞こえた。


(イツキナ先輩…。僕らに気を遣っている。すごいなこの人は…。)


ロウアはイツキナの気遣いに驚いていた。

だが、イツキナの次の言葉でロウアはさらに驚いてしまった。


┌───────────────────┐

│全身ロネントをカウラさんが発明して  │

│くれなかったらみんなと活動できなか  │

│ったんだから。            │

└───────────────────┘


「カウラ?カウラって言いましたっ?!」


ロウアは知っている名前が出てきたので驚いてしまった。


┌───────────────────┐

│カウラさんを知っているの?      │

└───────────────────┘


「僕の兄じゃないかと…。」


┌───────────────────┐

│え?                 │

└───────────────────┘


「えっ!!そうなの?あのカウラさんと…?すごい偶然ね。」


┌───────────────────┐

│そう…、あなたのお兄さんだったのね  │

│確かに弟さんがいるって話していたわ。 │

│それがロウア君だったなんて。     │

│お名前を聞いておけばよかった。    │

└───────────────────┘


「そうね。顔は似ていないのね。気づかなかったわ。」


┌───────────────────┐

│ロウア君、お兄さんにまたお会いして  │

│お礼をしたいわ。           │

└───────────────────┘


「そうね。イツキナ。」


「分かりました、兄に伝えてみます。」


┌───────────────────┐

│ありがとう。             │

│ロネントで行った方が良いのかしら?  │

└───────────────────┘


「い、いえ、つ、連れてきますからっ!このままで大丈夫ですっ!」


┌───────────────────┐

│そう?                │

└───────────────────┘


カウラは、池上の過去世の姿だった。

そのカウラはロウアの兄であり、池上は未来から飛んでくるとカウラでは無く、ロウアに宿った。


ロウアは、カウラが神官として働いていると知っていたが、こんな仕事をしていたとは思ってもみなかった。


(これは、過去の自分がやっていた仕事ということ…。)


(ん?そうか、お前が大昔にやっていた仕事って事か。

それにしても、兄貴の名前が出てくるとはな。

何やってるか話さないから知らなかったぜ。)


「だけど、どうして兄が?」


「そうね、それも説明するわ。私と全身ロネントの出会いのお話。」


イツキナはロネントの操作に戻りカウラとの出会いを話し始めた。


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