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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
幻化体
118/573

絶望の淵で

彼女が病院に搬送されてしばらくしてアマミルは彼女の病室を訪れた。

ベットに横たわる彼女は、活発だった姿を思い出せないような姿だった。

思わずアマミルは、彼女の姿から目を背けてしまった。


身体が動かなくなってしまったイツキナのベットの上に彼女からのメッセージが表示された。


┌───────────────────┐

│聞いたわ。              │

└───────────────────┘


メッセージだけでは周りの人間が気づかない場合もあるため、ピッという小さな音も鳴った。

アマミルはその音でイツキナの方を向いた。


「イ、イツキナ…、その…、あの…。」


アマミルは何かを言おうと思うのだが、どんな声をかけて良いのか分からない。

声は聞こえていると医療ロネントから聞いていた。


┌───────────────────┐

│身体が動かなくなるなんてね。     │

│こんな酷い事ってあるのかしら。    │

└───────────────────┘


唯一動くまぶたと瞳が彼女の悲しい意思をアマミルに伝えた。

アマミルは感極まって、動かなくなった彼女の手を握った。


「こんなの…。こんなの…。ごめんなさい、イツキナ。あの時の怪我よね?

階段から落ちたって話していた…。

私があの時、病院に連れて行けばこんな事には…。」


┌───────────────────┐

│止めてよ。あの時病院に行っても同じよ。│

│脊髄の怪我だもの。          │

└───────────────────┘


「だ、だけど…。私、私どうしたら…。」


┌───────────────────┐

│あなたが手を握っても何も感じない。  │

│何も感じない。何も感じない。     │

└───────────────────┘


「あぁ、あぁ…。」


文字は淡々としていたが、その感情は抑えきれないものがあるのだろう。

彼女の目には涙が浮かんでいた。


「イツキナ~~~ッ!ウウッ…。」


┌───────────────────┐

│帰って。               │

└───────────────────┘


「えっ?」


┌───────────────────┐

│帰って下さい。            │

└───────────────────┘


「イツ…キナ…。」


┌───────────────────┐

│一人にして。             │

└───────────────────┘


「イツキナ…。分かったわ…。」


アマミルは彼女の涙を拭いてあげると病室を後にした。


「また来るね…。」


イツキナの頭上には彼女の悲しみのメッセージが永遠と表示されていた。

それと共にピッ、ピッ、ピッと電子音も永遠と鳴り続けていた。


┌───────────────────┐

│こんなのあり得ない。         │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│何で私が。              │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│どうしてどうして。          │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│走りたい、歩きたい。         │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│学校に行きたい。           │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│悔しい、悔しい、悔しい、k□y□s□□  │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│くそう、くそう、k□s□□       │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│ちくしょ   │

│う、ちく   │

│しょう、   │

│くそう、   │

│くそう、   │

│たすけて   │

│、たすけ   │

│て               │

└───────────────────┘


最後にはイツキナ悲痛な思いが、ツナクが変換できず、システムエラーのようなメッセージが永遠と表示されていた。

アマミルはそれを見ていられなくなって病室を後にした。


-----


別の日に部員達が集まって彼女にお見舞いに訪れた。

部員達はアマミルと同じようにイツキナの変わり果てた姿を見て誰もが絶句した。

イツキナはアマミルにそうしたように、みんなに冷たくあたった。


┌───────────────────┐

│私をバカにしに来たのでしょう。    │

└───────────────────┘


「イ、イツキナ…。そんな…、みんなあなたのことが心配なのよ…。」


アマミルはイツキナに部員達の想いを伝えたつもりだったが、イツキナからは思ってもいないような言葉が出てきた。


┌───────────────────┐

│嘘、嘘、嘘。             │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│もう私は歩けない、うごけない。    │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│身体が動かない。一生、一生、一生。  │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│みんなは何も分からない。       │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│私の気持ちなんて分からない。     │

└───────────────────┘

┌───────────────────┐

│帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ。│

└───────────────────┘


イツキナは涙を流していたが、彼女を励ます言葉を部員の誰もが持っていなかった。


やがて、部員達は彼女に見舞うことを止めてしまった。

イツキナは誰も拭いてくれない涙を流す日々を送った。


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