中の人
ロウアが部室に戻った時、部員達は依頼達成の祝賀会を開いていた。
部室にはお菓子とか、ジュースが用意されていて皆が楽しんでいた。
アルとシアムはアイドル活動で部活には来ていなかった。
シイリは家で用事があるのと、姉の帰りを待ちたいという事でこの場にはいなかった。
「大勝利ねっ!アマミルッ!」
イツキナは意気揚々と声を上げた。
「嬉しいわねっ!最後は、どうなるかと思ったけど。
あんな言い方をするなんて、あの男子やるわね。」
アマミルも大喜びだった。
「お二人ともお疲れ様でしたっ!」
ツクはアマミルとイツキナの労をねぎらった。
部員達は、ツクの四足歩行ロネント、通称"子ども"を使って様子を見ていたので現地にいたアマミル、イツキナ、そしてロウアの三人と同様に緊張しながら見ていて、告白が成功したのを見て一斉に喜んでいたのだった。
もちろん、アル、シアム、シイリも見ていたので、部屋中に彼女たちの喜びの声がメッセージとして表示されていた。
「ツクちゃんもありがとうね。噂流しとか大変だったでしょ?」
イツキナも所属したばかりのツクの見事な仕事っぷりに感心していた。
ツクは現在でいうところの学校の掲示板に依頼主であるリユウの良い噂を地道に流していたのだった。
「いえいえ、とんでもないです。お二人の方が大変そうでした。
だって、実際に色々なところで噂話をして歩くのですもの…。
私にはとても…。
それに、マフメノ先輩も手伝ってくれたので助かりました。」
「えっ…、ぼ、僕はアカウントをハックしてツクちゃんに貸してあげただけだから…。」
マフメノはその巧みな技術力を活かして誰かのアカウントをハッキングしてツクの身元がバレないようにしたのだろう。
だが、それは犯罪なのではと、ロウアは思った。
(あれ?この犯罪っぽいのやり方ってどこかで見たような…。)
ロウアは誰かを思い浮かべそうだったが、ホスヰが声をかけたので思い出せなかった。
「お兄ちゃんお帰り~っ!あうんっ!」
「うん、ただいま~。」
「あら、ロウア君。」
アマミル達はロウアが戻った事にやっと気づいた。
「もう、最後、二人とも思い切り飛び出してしまうですから…。あれだと工作がバレてしまいますよ…。」
「なぁに?仕方ないじゃない。嬉しかったんだもの。」
アマミルはふんと言った顔をして開き直っていた。
「そ、そうですが…。」
ロウアはさすがご迷惑少女組だと思ったが、らしくもあり、仕方ないと諦めた。
「あの後はどうだったの?」
アマミルは最後まで見ていなかったことを後悔していたのか、その後の様子をロウアに聞いた。
「ツクのお子さんで見ていたのでは?」
「バカね、あれ以上は…野暮ってものじゃ無い?」
「僕もすぐ移動してしまいましたよ。」
「あら、面白くないわね。」
「あの場にはいられないですって…。だけど、きっとラブラブだったのでは?」
「らぶらぶ?どういう意味?少し発音しにくいわね…。
その言葉ってアルちゃん達が話していたロウア語ってものかしら?」
イツキナは、ラブラブと話したロウアに突っ込みを入れてきた。
ロウアは21世紀の言葉で話してしまって説明に困ってしまった。
(ラブラブの意味…?あれ、どういう意味だ…?
男女がそれぞれを思いながら話している…?
恋人同士が話し合っている…?
恋人同士になったばっかりか。
えっと、男子と女子が二人きりで話している状況…?
らしくない言葉を使うもんじゃないなぁ…。)
「イツキナ、ロウア君が説明出来ないって顔を困っているわ。まあ、良いじゃ無い。
私たちの仕事は完了したんだし。」
「そうね。幸せになれて…良かっ…た…わ…。」
「うん?」
ロウアはイツキナの言葉が途切れ途切れになっているので不思議に思った。
「あっ!イツキナッ!大変っ!」
アマミルがそう言うとイツキナがフラフラとし始めた。
「イツキナ先輩っ!!!」
イツキナをロウアは後ろから抱きかかえて倒れるてしまうのを押さえる事が出来た。
「あわわ…、あわわ…。」
ホスヰも突然イツキナが倒れたので慌てていた。
「ロウア君、ありがとうっ!頭から倒れたら大変だったわ…。また切れちゃったのかしら…。」
イツキナが倒れたのに意外と冷静なアマミルにロウアは驚いた。
それにアマミルの言葉が気になった。
「き、切れた…?」
ロウアは自分の腕の中で目を開けたまま意識を失っているイツキナを見て冷静ではいられなかった。
「ど、どうしたら…?」
「そうね、取りあえず、胸を掴んでいるその手を外した方が良いわね。」
ロウアは倒れそうになってしまったイツキナを支えるために思わず胸を鷲掴みしてしてしまっていた。
「い、いやっ!!こ、これは…、ち、違いますってっ!!
と、取りあえずそこの長椅子に寝かせます。」
「イツキナには黙っていてあげるから大丈夫よ?」
「だ、だからわざとでは…。」
ロウアは部室の隅にある長椅子にイツキナを寝かせた。
「それにしても、久々に切れちゃったわね。以前は良くあったんだけど。」
「アマミル先輩、冷静ですね…。」
「オロオロ…、オロオロ…。あうん…、あうん…。」
ホスヰもさっきからどうした良いか分からず、その場で慌ていた。
だが、マフメノとツクもあまり驚いてはいなかった。
「ロウアァ…、やっぱり気づいていなかったのかぁ。」
「ほら、そうでしょ?マフメノ先輩。」
マフメノとツクは何かを知っているようだった。
「えっ?どういうこと?」
ロウアはイツキナの顔を見て驚愕した。
「えっ?ま、まさか…。」
その瞳はよく見るとロウアがムー大陸に来たばかりの看護師ロネントの目に似ていて、生きている人の瞳では無かった。
「説明していなかったわね。そうよ、イツキナは全身ロネントなの…。」
「はっ?!ぜ、全身ロネントって?」
「もう、イツキナったら自分で説明しないんだもの…。
マフメノ君とツクちゃんは気づいていたのね、さすがね。」
「随分精巧なので誰も気づかないかと…。僕も初めは気づかなかったですよぉ。
始めに気づいたのは、夜の学校に潜入したときですね。
ものすごい近くにロネントの反応があったから…。」
マフメノは気づいた経緯を教えてくれた。
「さすがなんて…、私はマフメノ先輩に教えてもらいました。」
ツクはマフメノから聞いたという。
ロウアはイツキナのそばに近づいてマジマジとその顔を見た。
「精巧というレベルじゃない…、シイリよりも人間っぽいし…。ここまで高度に作れてしまうのか…。」
「れべる?また、ロウア語ね。まあ良いわ。
そうね、この身体は特別版だしね。」
「特別版?」
「うん、神官の特製ロネントだから。」
「な、なるほど…、だけど、どうして全身ロネントを使って生活するように…?」
「う~ん、そうよね、知りたいわよね…。
だけど…、私からはやっぱり説明できないわ…。」
そう話していると長椅子に横たわっていたロネントが瞬きを何度かした後、動き出した。
「…ア…マミル…、わた…しが…はなす…わ…。」
「イツキナ…、つながったのね。」
「…う…ん。段々…つながってきたわ。
この頃、ツナクの通信量を邪魔するようなことがあって、こんな風になりやすくて困っちゃう。」
「イ、イツキナ先輩っ!!」
「あうんっ!イツキナお姉ちゃんっ!!お身体だいじょうぶ?
あれ、お身体じゃないん…だっけ?
あれれ、あれれ、あうんっ?!」
ホスヰは目の覚めたイツキナを心配したが、混乱してしまった。
「うん、身体は平気よ。ホスヰちゃん、ありがとうね。
それより、ロウア君、顔が近いわ…。
一応、恥ずかしいという感情はあるのよ?」
「あっ!す、すいませんっ!」
ロウアは調べるために近づいたイツキナから離れた。
「それと胸を触った事は許してあげる…。」
「ぐあぁぁぁっ!!き、気づいていた~~っ!!わ、わざとじゃないんですっ!!」
「もう、分かっているわよ…。」
イツキナは混乱してしまったホスヰの頭を撫でながら話し始めた。
「それより…、私から説明しないとね…。」
「良いの?イツキナ…?」
「うん、みんなには聞いて欲しいから…。"私の中の人"の事をね。」
イツキナは半ば冗談で自分のことをそう言った。
「えっと、あれは5年前かしら…。」
イツキナは、少しずつ自分の過去を話し始めた。




