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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
幻化体
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告白タイム

ナーガル校の裏手には森林が広がっていて、生徒達はもとより周辺住民にも開放されていた。

ナーガル校から延びた道は、森林を突き抜けて反対側の海岸沿いまで抜けていた。

その大きな道から枝分かれするように公園がいくつか存在していた。

その一つ、森林のより奥に存在する小さな公園は、人にあまり利用されていないためかベンチに木の葉が落ちたままになっていたり、木で出来た机も汚らしく残ったままとなっていた。


そんな誰も使わないような公園に、女子生徒が男子生徒に告白をしようとしていた。

その告白タイムをじっと観察するように、アマミルとイツキナ、そしてロウアが木の影にいた。


「今回の依頼は面倒だったわね…。」


アマミルはこの二人を見ながら、やれやれと言った顔をした。


「面倒というか、工作を繰り返して達成感がないというか…。」


「そうよね…。」


霊界お助けロネント部が請け負った今回の仕事は、この今にも告白をしようとしている女子生徒からの依頼だった。

女子生徒の依頼は、自分の片思いの男子生徒に想いを伝えたいという内容だった。


「だけどね。恋の悩みなんて、自分でどうにかして欲しいわ。」


「それは同感だわ。それぐらいの勇気を持たないでこれからどうするかって話ですよ。

厳しい社会で生きていけるか心配だわ。」


(イツキナだって学生なのになっ!)


魂のロウアは、イツキナの話した矛盾に気づいてつぶやいた。


(……。)


ただ、ロウアはそこ言葉の裏に隠れた思いがあるような気がして何か違和感を感じた。


「大体、お助け部の仕事じゃないって言うのよ。」


「そうよね。」


ロウアは二人が愚痴を続けてるのでうんざりし始めていた。


「もう、二人とも止めて下さいよ…。

というか霊界お助けロネント部ですって…。」


アマミルは、自分の主催していた"お助け部"が、ナーガル校で伝統のあるロネント部を乗っ取ったことを忘れているようだった。

それにロウアの霊力を加えたから、"霊界お助けロネント部"になったのだ。

霊力とロネントを使ってナーガル校の生徒の悩みを解決するというのが部活の活動目的だった。


「バカねっ!分かっているわよ。」


「全く…、さ、始めますよ。」


ロウアは、再生術で戻った白い右手に付けたツナクを通して女子生徒に語りかけた。


"リユウさん、頑張って下さいっ!私たちは後ろで応援していますよ。"


リユウのシャツの襟には親指ほどの小さな四足歩行ロネントがくっついており、リユウに指示を送れるようになっていた。

この小さなロネントは部員であるマフメノとツクの二人で作った新作ロネントだった。


"はい…。が、頑張ります…。"


リユウの思った事が言葉となってロウアのツナク上に表示された。

モジモジとしていたリユウは、ロウアからの指示で意を決して顔を上げた。


三人はリユウが告白するのを後ろで固唾をのんで見守ってたが、ここに至るまでの苦労を思い出していた。


霊界お助けロネント部の部員達は、リユウの良い噂を学校中に流して印象を良くしようとする工作を数ヶ月続けたのだった。

その工作は、学校で彼女の良い印象をそれらしく話をしたりとか、学校の掲示板のようなツナク上のサイトに彼女がいてくれたから勉強が助かったとか、彼女のお陰で部活の試合に勝つことが出来たとか、そんな噂を流す事だった。

それだけでは足りないとみんなで彼女を含めたグループで遊びに行く企画を練ったりもした。


そこにロウアを入れて女性陣達の目を全てロウアに向けさせ、リユウだけは目的の男子生徒と話が出来るようにする工作も行った。


そんな工作が続いた後、いよいよ告白する事になった。

リユウは始め、告白をツナクのメッセージでやると言ったのだが、アマミルに言葉は直接伝えなさいと、強く言われて今日に至った。


"さっ、頑張ってください!"


「あ、あの…、色々遊んでくれて、あ、ありがとう…。

えっと、あの…、その…、す、す、す、す…。」


木の裏の三人はゴクリと唾を飲んだ。


「す、好きでしたっ!」


「えっ?!ほ、本当に?」


リユウは顔を真っ赤にして下を向いていた。


「そ、そうか…、ごめんね。」


「えっ?!」


それを聞いていた三人はガックリとした。


「何てこと…、失敗みたいね…。」


アマミルがつぶやくように話した。

それを聞いてイツキナもがっかりして同様につぶやいた。


「そうね…。残念…。何がいけなかったのかしら…。」


「二人とも結局応援していたんですね…。」


「バカねっ!当たり前じゃないっ!」

「ロウア君、私たちをバカにしているの?」


「いや、いや…、さっき二人は文句を言ってたじゃないですか…。」


ロウアは二人に怒られて戸惑ってしまったが、ふと少女の方を見ると今にも泣きそうな顔をしていた。


「あぁ、リユウさん、泣いてしまいましたよ…。」


リユウは顔をくしゃくしゃにして手を目に当てて泣き始めてしまった。


「グスッ、グスッ…。」


だが、それを見た男子生徒は慌ててしまった。


「リ、リユウ…?ち、違う、違う、違うっ!

えっと、君に告白をさせてごめんねって意味。

ほ、ほら、本当なら男から言わないとだろ?」


「え…っ?!」


「も、もちろん、僕も好きだよ、君のことが…。」


リユウは頬が赤らんで男子生徒を見つめた。

男子生徒はそう言うと鼻の頭を指で掻きながら上の空を見て、真っ赤になった顔を見られないようにしていた。


「ほ、本当にっ!!!」


リユウはがっかりした瞬間に逆のことを言われたので思わず、疑いをかけてしまった。


「もちろん、本当だよ。今日は、君から呼ばれてすごく嬉しかったんだ。」


「わ、私もすごく嬉しいっ!!」


リユウは嬉しさのあまり、思わず男子生徒の手を握ってしまった。


「あっ!ごめんなさい…。」


「ううん。」


そう言うと男子生徒はリユウの手を握り返して、やっぱり顔を赤くしていた。

リユウも顔を赤くして二人とも無言になってしまった。


それを聞いていたアマミルとイツキナは思わず、草から飛び出して喜んでしまった。


「やったわ~っ!!!イツキナッ!」

「ヒャ~~ッ!!ヒャッヒュッヒャッヒュッ!」


「(ふ、二人ともっ!!てか、イツキナ先輩変な声出さないで…。)」


誰もいないと思っていた公園だと思っていたのに、突然声が聞こえたので告白が終わったばかりの二人は振り向かざるを得なかった。


「あちゃ~…。」


ロウアはまだ隠れたままだったが、アマミルとイツキナの軽率な行動に頭を抱えた。


「し、しまった…、じゃない、えっと、そ、そうね…、散歩、そう、散歩していただけよ…?ね、イツキナ?」


「そ、そうよ…ね。そ、それに、草むらに入るのって、た、楽しいわね…。」


「じゃ、じゃあ、あとはお二人で…。えっと、何も見てないのよ?

うん、何も見てないわ。その…、そ、そのままで良いわ。」


「そ、そうね。い、行きましょうね…、アマミル。

あっ、私たちのことは、いなかったことにしてね。」


アマミルとイツキナは苦し紛れの言い訳を言いながらそそくさとその場を後にした。


男子生徒は噂のご迷惑少女組がその場にいたことを不思議に思ったが想い人と両思いだった喜びでそんなことはすぐに忘れてしまった。

そして恋人となったリユウと座って色々と話を始めた。


後に残されたロウアもそっとその場を去って行った。


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