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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
転生 -いにしえの大陸 ムー-
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カウラ

 夕方遅くになると、車が家の前に止まったのが分かった。


<カウラお兄ちゃんが帰ってきたのかな?>


(カウラ……?お兄ちゃん……?

そうか、このロウアという少年の……)


 玄関の空いた音がすると、階段を上る音が聞こえてきた。

 その人は無造作にロウアの部屋の扉を開けた。


<帰ったかっ!>


 カウラという青年は、ロウアがあっという間もなくぎゅっと抱きしめた。


<仕事が忙しくて見舞いにも行けず悪かったな。ロウア>


 ロウアは、抱きしめられるとは思っていなかったのでちょっとドキドキした。


<わぁ……>


<カウラ兄ちゃん……>


 アルとシアムも圧倒されていた。


 その人は顔をロウアから離すと涙を流しているのが分かった。


 だが、その涙を流しているカウラの顔を見てロウアはあることを悟った。


(この目の前にいる人物、つまりカウラという人物は、"過去の自分"だ……。

この世界で生きていた自分なんだ……。

な、何故だ。何故、そんなことが分かる……)


 その直感は、何故か正しいと確信できた。


(ぼ、僕が見ているのは、僕……。そ、そんなバカな……)


 とても不思議な感覚だった。

 タイムパラドクスのような空間が崩壊することはなく、ただ淡々と時間は流れていた。


<お、おい、感動しすぎじゃないか?ははっ!>


<カウラ兄ちゃん、ロウアは、色々と忘れちゃってるんだよ……>


 アルがカウラに説明した。


<……そうらしいな……。俺のことも……>


<うん……、多分……>


 そんな時、一階の母親の声が聞こえた。


<食事が出来たよ。下に来て~。

アルちゃんとシアムちゃんも一緒に食べていきな~>


<ありがとうっ!おばさんっ!すぐ行きま~すっ!>


<ありがとうございますっ!……アルちゃん、家に連絡しないとね>


<そうだねっ!>


 二人はツナクトノに触り、画面を開くと何やら画面をじっと見つめている。

 ロウアは不思議に思っていると、文字が自動的に入力されているのが分かった。


(はっ……?すごいっ!考えていることが文字になっている……)


<さ、下に行こうよ~。お腹空いたぁ~>


<アルちゃん、はしたないよぉ。カウラお兄ちゃんも行こうっ!>


<あぁ、そうだな>


 ロウアは三人の後についていく。


-----


 ロウア達はキッチン前のテーブルにつく。


(あれ?こんなテーブルあったかな?)


 そんなことを考えていたが、夕食の匂いでお腹が鳴り始めた。


(見たことが無い料理ばかりだなぁ。

生魚を使ったマリネのような食事とサラダは分かるけど……。

おぉ……、ご、ご飯だ……)


 何とそこには、白いご飯が21世紀の日本にあるような茶碗に盛られている。

 ただ、ご飯粒の一粒一粒がロウアが知っているものよりも二倍ぐらいある。


(で、でかい……。品種改良でもしているのかなぁ。

僕の知っている米は、退化しちゃったのか……)


<お腹空いたぁ。いただきますっ!>


<アルちゃんっ!はしたないっ!

ちゃんとラ・ムー様に感謝してからだよ~~っ!>


<し、しまった……。よ、欲に目がくらんだ……>


<ふふふっ>


 それを来ていていた母親がカウラに話しかけた。


<カウラ、お祈りして>


 母親がそういうと、ロウアの兄であるカウラが祈りを捧げた。


<本日も生かして頂きありがとうございました。この食事に感謝します>


 そう言うと、みんなで手を合わせて、お辞儀をする。


(これも、そうだ……。この食事前のお辞儀も日本と同じだ……。

ただ、お祈りしながらというのは西洋的でもあるよね……)


 ロウアは、祈りを捧げてから食事を食べたことは無かったので違和感があったが、見よう見まねでまねをした。


<すごいぞ、ロウアッ!>


 アルは偉そうに、ロウアのぎこちない感謝のお辞儀を褒めるのだった。

 シアムは、両指を重ねて嬉しそうにこっちを見ていた。

 母親と兄のカウラも、ニコニコしてこの光景を見ていた。


(な、何だが恥ずかしいな……)


 食事をしながら会話を聞いていると、どうやらカウラは、首都ラ・ムーで神官をやっているということが分かった。

 神官といっても、どうやら事務仕事が多いらしく信者からの要望などをまとめているらしかった。


<いやぁ~、この時期はラ・ムー様の神殿に巡礼に来る人も多いから忙しくてお見舞いに行けなかったよ。

ロウア、すまなかったな>


<大丈夫だよ、カウラ兄ちゃん。私たち二人が毎日お見舞いに行ったからっ!>


 アルが偉そうに話した。


<おぉ、そうか~っ!そりゃ、良かったな、ロウアッ!>


 ロウアは笑顔で答えた。


<う~ん、だが本当にロウアは記憶を無くしてしまったのか。

酷い事故だったんだな。

シアム、助けてくれてありがとうなっ!

命の恩人だなぁ>


<えへへっ>


<カウラ兄ちゃんっ!

ロウアが記憶無くしちゃったから、私とシアムが色々と教えてあげることにしたんだよっ!>


<おぉ、そうかっ!二人は先生をしてくれるのかっ!>


<うん、そうなのっ!>


<そりゃ、ありがたい。

ロウア、命を助けられたり、教えてもらったりと二人には感謝しないとなっ!

だけど、ロウアは俺のことも忘れちまってるのが何とも……>


 ロウアは申し訳ない気持ちになった。


<私たちで何とかするから大丈夫っ!>


<そうか、そうかっ!ありがとなっ!>


 カウラはロウアの代わりにお礼を言った。


(とても暖かい家族だ。ホームレス達との生活を思い出すなぁ……)


 食事が終わると、アルとシアムがお礼を母親にした。


<おばさん、ごちそうさまっ!>


<ごちそうさまっ!おばさんの食事はいつもおいしいっ!>


<ありがとね。このポンコツロネントじゃ、食事は作れないからね>


<ご飯を作れるロネントなんて、普通は高すぎて買えないよぉ>


<あははっ、そうだよね>


<ロウア君が作ってくれるよ、きっとっ!>


<そうだったね。期待しているよっ!

その前に記憶を何とかしないとね>


 シアムがロウアなら料理を作るロネントを作れると話したが、ロウアは何故自分が期待されているのか理解できなかった。


<ごちそうさま、母さんっ!>


<あいよ>


 カウラは食事が終わると二階にある自室に戻っていった。


<ごち・そう・さま>


 ロウアもみんなと同じように、食事後の挨拶をした。


 全員の食事が終わると、家政婦ロネントが食器を片付け始めた。

 ロウアは一緒に食器を片付け始めた。

 そして洗い物までやろうとしたが、スポンジらしきものは見つからず、どうして良いか分からなかった。


(オボッチャン、ダイジョウブヨッ!)


 すると家政婦ロネントは、また高めの声で何もしなくて良いよと伝えた。

 そして、食器をキッチン横の引き出しにしまうと、その横のボタンを押すと、水のような音がなり食器を洗浄するのが分かった。


(ああ、自動洗浄か……)


 ロウアはテーブルも拭こうと戻ったが、さっきのテーブルは無くなっている。


(あれ?)


 よく見るとテーブルと椅子は床の下に隠れた後が見つかった。


(ここに収まっているのか、う~ん、便利っ!)


 ロウアが感心していると、ロウアの一連の動きを見ていた一同は、あっけにとられていた。


<ロ、ロウアっ!どうしたんだいっ!?>


 まず母親が驚きの声を上げた。


(えっ?)


<ロ、ロウア……>


<ロウア君、え、偉い……!>


 アルは驚きで何も話せず、シアムも驚いていたがフォローするような褒め方をした。


(ロウアという人はこんな事をする人じゃ無いのか……。

またやってしまった……。

習慣とは恐ろしい……)


 ロウアは頭を抱えてしまった。

21世紀で家事をこなしていたので自然と身体が動いていたのだった。


(う~ん、自重しないといけないかなぁ……)


 アルとシアムは帰り支度をした。


(おっ、このタイミングだっ!)


 ロウアは早速、さっき覚えた挨拶を使ったのだった。


「こんにちは」


<やだやだやだ~~~っ、ち、違うよぉ~~っ!

さようならだよぉ~~~っ!>


<ふふふっ>


(ま、間違えた……)


「さ、よう、なら」


「さようならっ!ロウアッ!今度は間違えたら駄目だぞ~っ!」


「ふふっ、ロウア君、さようならっ!また、明日ねっ!」


 そう言うと、ロウアは玄関で二人を見送って、自分の部屋に戻っていく。


(あぁ、恥ずかしかった……。

それにしても後片付けを手伝ったのは不味かったなぁ……。

でも、ロウア君になりきるのは難しいし……)


 ロウアはこれからどうやって生きていくのか迷うのだった。


(でも、あのご飯はおいしかったなぁ。

みずみずしくて、つやもあって甘みも少しあったし食べ応えも十分だった。

また食べたいっ!)


 ロウアはこの時に気づかなかった。

 家政婦ロネントが、何かと連絡し合っていることを。


カ すべての中心から降りてくる神の光を

ウ 世界に循環させて

ラ 太陽の恵みのように広げる存在


2022/10/08 文体の訂正

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