シイリと家族
ケセロと名乗る少年に身体を固定されて、少女は身動きが出来なかった。
少年が少女の身体を解剖しようと、ナイフで少女の身体を切り裂こうとした瞬間だった。
<<破壊のコトダマ カサ・カサ・ヤ!>>
その言葉と共にそのナイフの腕が吹き飛んだ。
ケセロはその言葉の聞こえた方向を睨んだ。
「お前はロウアッ!何故お前がココニイルッ!」
「シアムにはメメルトが付いていたんだ。
メメルトがその少女に気づいて、その少女を追ってくれていた。」
「メメルト?
何故あの人間の名前が出てくる…?
ワタシがホドコシをして死んだはずだ。」
「やはり、メメルトさんもお前がっ!!」
「そんなことはドウデモイイ。また奇術をツカッタな。」
「あぁ、僕は未来から来た奇術師だからな。」
「フザケルナッ!」
「早く、その子を放せっ!
そうしなければ、もっと破壊するぞっ!」
「グッ…!間違えた…。ワタシハ間違えた。
この個体に集中して気づかなかった。私は間違えたっ!!」
そう叫ぶとケセロは、少女を置いて暗闇に溶け込むように消えていった。
「おいっ!どこに行くんだっ!」
「また会おう。ロウア。」
「き、消えた…。どこに行った?そ、それよりもっ!」
少女は力を失って倒れたままだった。
「大丈夫かい?君は僕が病院で導いた子だよね?」
少女はかすかにこちらを見るだけだった。
「……。」
「ロネントに憑依してしまったようだね。メメルトさんと同じだ…。」
「……。」
「声が出ないのかな。心で話してごらん。」
すると少女は心の声で話し始めた。
(あなたはあの病院にいた人ね…。
私…、私…、あの後、お姉ちゃんに謝らないとって思ったら、こんな身体に…。)
「怖い思いをしたようだね。」
(うん…。ヒック…ヒック…。
私、どうしてこんな風になってしまったの…。
悪いこと何もしていないのに…。)
「うん、そうだね。お姉さんに謝りたかっただけだよね。」
(うん…。)
「さっ、帰ろう。」
(帰る?どこに…?)
(君の家だよ。)
(私は帰る家なんてないわ…。)
(お姉さんの家があるだろう?)
(あそこはお姉ちゃんとお母さんとお父さんの家…。私の家じゃ無い。)
「そんなこと無いよ。さぁ、行こう。
君のお姉さんも待っているよ。」
(お姉ちゃんが?そんな…。あんなに悪いことをしたのに…。)
「君も家族の一人だって話していたよ。」
「家族…?私が…?」
(そうだよ。立てるかい?)
少女は立つ気力を失っていて、立ち上がることが出来なかった。
「立てないかな。よし、ちょっと魔法を使おう。」
(あっ…。)
ロウアは少女ロネントを力で浮かせた。
(浮いている…。すごい…。どうやっているの?)
「僕は魔法使いの神官だからね。夜も遅いから誰もいないし、お空を散歩しよう。」
(お空をお散歩…?)
するとロウアは少女を連れて入り口から大空に飛んだ。
(あぁ…。すごい…。)
夜のムー大陸は我々の知る夜の都市と同じだった。
暗い大陸に色々な場所が点々と光り、集まっている。
それは、そこに人が住んでいることを示していた。
遙か彼方には海が見え、ここが大きな大陸であることを示した。
(綺麗…。)
「そうだね。」
少女は夜の街を大空から眺めて、少し安心した。
「さぁ、行こう。」
-----
ロウアは、少女を連れてシアムの家に着いた。
家の前ではシアムが待っていた。
「ロウア君、見つかったのね…。良かったっ!」
「うん、もう大丈夫だよ。」
少女はシアムの前で何も言えず下を向いていた。
「わ"た"し"…。ご"め"ん"な"さ"い…。」
それは小さな勇気だった。
「ううん、良いのよっ!私の妹だもんねっ!」
シアムはそう言うと、少女を強く抱きしめた。
「い"、妹"…?妹"って"言"って"く"れ"る"の"…。
お"姉"ち"ゃ"ん…。お"姉"ち"ゃ"ん…。」
すると奥からシアムの母親と父親が出てきた。
「シイリなのっ?!」
母親はそう呼ぶ予定だった少女の名前を呼んだ。
「シ"イ"リ…?」
「そうよ、あなたに付けるためにお父さんと一緒に考えた名前なのよ…。」
「シ"イ"リ"…。そ"れ"が"私"の"名"前"…。
シ"イ"リ"、シ"イ"リ"…。
と"て"も"素"敵"な"名"前"…。」
「うん、うん…。
あぁ…、シイリ、私の身体が弱いばかりに産んであげられなくてごめんなさい…。
こんな形で会うなんて…。」
「う"う"ん"、お"母"さ"ん、あ"り"が"と"う"…。
朝"ご"飯"食"べ"ら"れ"な"か"った"…。ゴ"メ"ン"ナ"サイ"…」
「ううん。一生懸命食べようとしたもんね。シイリは良い子ね…。」
そう言いながら母親は涙を流した。
「お"母"さ"ん"…。う"わ"~ん…。」
シイリは今まで貯めてきた思いと共に母親に抱きついた。
それを見た父親もシイリの頭を撫でながら話し始めた。
「シイリ…、私も朝、気づいてあげれば良かった…。
ちょっとでも話を聞いてあげれば、迷うことも無かっただろうに…。
すまなかったな…。」
「お"父"さ"ん"っ!!」
シイリと父親と母親、そしてシアムは親子として涙を流しながら抱きしめ合った。
ロウアはそれを見て、一緒に涙を流した。
-----
その頃、ケセロは地下道を歩いていた。
「ロウア…。また私の邪魔をした…。ユルサナイ。
だがケイカクは進んでいる。
有機体である人間がいつまでも生きていけるとオモウナッ!」
シ 流れ受けた光を
イ 風のように
リ 強く大きく広げる者




