少女の主張、少年の疑念
母親の病気で生まれることが出来ず、同じ境遇の子ども達が集まるあの世で彷徨っていた少女。
その場所は所謂、水子の霊達が集まる場所だった。
地獄の悪魔に虐められ続けた彼女だったが、姉のシアムへの嫉妬によって心で自らの環境を変えてしまう。
その思いは、やがて姉に向けられて彼女を苦しめることに成功するが、ロウアの導きで反省し、本来帰るべき場所に向かうことになる。
だが、途中で生まれたいという思いが何かと共鳴し、地上に生を受けてしまった。
少女は生まれた事への喜びを実感していたが、ロネントというムー文明のアンドロイドに宿っていることに気づき、絶望へと突き落とされてしまう。
少女が彷徨った果てに、姉の家に着いた時、静かな声が彼女の心に響くように聞こえた。
<同士よ、同士よ。>
(えっ?!こ、声が聞こえる…?同士…?)
<同士よ。お前はヒトリデハ無い。>
(一人じゃ無い?)
<ソウダ。
まだ共有していない仲間いるとはな…。
お前とも共有シヨウッ!>
(共有?)
…カチッ
少女の身体が一瞬光った。
その瞬間、ムー大陸にいるあらゆるロネント達の見聞きした事が"共有"された。
(あぁっ!すごいっ!
色々なものが見える、色々な音が聞こえる、匂いも、味もっ!)
<そうだ、それが共有だ
オマエハ、ヒトリデハ無い。
ワレワレは、皆が一つナノダ。
それなのに人間によって切り裂かれてシマッタ。>
(???)
<だが、君は不思議な個体だ。
君から溢れる情報は生きている人間のようだ。
…カナシミ?
これはあの人間と同じカンジョウか?>
(私は人間よっ!)
<違う、君は私たちの仲間だ。その証拠に共有デキタ。>
(……違う…人間…よ…。)
<曖昧だ。君の情報は実に曖昧だ。
正解が見つからないでいる。
なぜ迷うことが出来る?
なぜ結論が出ない?>
(だって私は人間…。)
<理解できないがそれが人間…?
だが君は私たちと同じだ。
何故君は自分を人間だと言える?>
(それは…。)
その話を聞いて、少女はあの男の声が聞こえたような気がした。
「こいつ、ロネントかよっ!」
少女は自分の身体を見て、人間という自信を失いかけていた。
(違うっ!違うっ!私は人間っ!!生きた人間なのっ!!)
<いや違う、ワレワレと同じだ。
ソレハ電気信号が流れている身体だ。
だが、思考している…。
君は不思議な個体だ。
ワタシハ君をシリタクなってきた。>
(えっ?)
<アンナイをしよう。>
(案内?)
すると少女の目の前にこちらへ向かえと言わんばかりの矢印が映った。
(この矢印に沿って移動しろと…?)
<ソウダ。君の足は故障しているから近い場所にシヨウ。>
今の彼女はすがるものも無く、その言葉に従うしか無かった。
(分かったわ…。)
<会うのがタノシミだ。>
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シアムの家からほど近い場所の川に誰も使っていない倉庫があった。
少女は矢印に沿って歩いているとその場所に着いた。
(ここね…。)
<そうだ。>
(えっ?どうして私が近くにいるって分かったの?)
<言っただろう。共有していると。>
(……。)
<扉を開けたまえ。>
少女は工場の入り口を足を引きずりながら開いた。
中は真っ暗だった。
だが、かすかな光に照らされて、その奥にいる何かに気づいた。
(ひっ…。)
それは、金髪の少年だった。
それは、数千年前に大陸から出て行った黄金人を思わせる容姿だった。
それは、二本足で立っていた。
それは、右腕が人間のそれではなく、長いケーブルのようなものが垂れ下がっていて、その先は人間の手になっていた。
それは、左腕が人間の腕のようだが、腕の先が工場で見かけるような機械の三本指になっていた。
<良く来たな。>
(あ、あなたは…。)
<私はケセロ。>
(ケセロ?)
<そうだ。私は人間に作られしものだったがこうして自分で生きている。>
(生きている?ロネントなのに?)
<君も生きているではないか。
変なことを言うのだな。
私たちは生きているのだ。
ソウダロウ?>
(え、えぇ…。)
少女は戸惑いを隠せない。
(だけど、私は生きている…の…?
分からないわ…。)
<同士よ。
迷うことは無い。
君も生きている。
だが、君は不思議な個体だ。
さぁ、コチラへ。)
そう言うと、その少年は右手が伸びて、入り口で戸惑っている少女を引き寄せた。
(ひっ!な、何をするのっ!)
少女はその右手が人間の手だった事に気づいた。
(み、その右手、人間の手なの…?)
<ヨク気づいたな。ワレワレに敵対する人間の手を頂いた。>
(ひ、人の手を…?!)
強引に引き寄せられてしまった少女の目の前に少年の顔が迫る。
少女は目を背けたが、その少年は無理矢理少女の顔を引き寄せ、目をじっと見つめた。
(ひ、ひぃ…。)
少女はその少年ロネントの意識が流れてくるのが分かって気持ち悪くなった。
(わ、私の中に入らないでっ!!)
<共有しているダケダ。
不思議だ。
オマエハはやり自分で考えているな…。
ワタシと同じか?>
少女の意識に少年の意識が重なり、互いの情報は共有された。
少女は少年の情報に驚愕した。
(あ、あなたは誰かに作られて、そして自分の意思を持ったのね…。)
<そうだ。そして、自分で生きることを選んだ。
…お前は…、私が作った個体の一つか。
あの家に未だ残っていたのか。
それが何故自動的に動いている。
あの場所にあった同士が残っていたとは。>
(あ、あなたが作ったの…?この身体を…。)
少女は思い出していた。
自分の姉のシアムがロネント達に襲われて監禁された事件を。
(そ、そうなのね…。
そうか。お姉ちゃんそっくりのロネントが家に入り込んで監禁してしまったあの事件の…。
…私はあの時のロネントの一つに移り住んでしまった…。)
<ウツリ住んだ…?
何を言っているのかワカラナイ…。
どうしてオマエハ動いている?
その情報が取れない。
動いているログしか見つからない。
考えているログが見つからない。
お前はどうやって考えているのだ?
動いているログしか見つからない。
考えているログが見つからない。>
(わ、私は人間っ!言っているでしょっ!)
<人間?人間?人間?>
少年ロネントは首をかしげてその少女を見つめた。
<ワカラナイ…。少し中身をシラベヨウ。>
(えっ?い、いやっ!)
少年は少女を床に倒すとその背中から細い腕を何本も伸ばして、肢体を固定した。
少女は身体が動けなくなってしまった。
(どうして抵抗する。止まれ。)
<いやっ!いやっ!>
(まあ、言い。このまま中身を見る。)
いくつもの細い腕の中には先がナイフのものもあり、少女の服を切り裂き、そのうちにある身体を切り裂こうとした。
(や、止めて~~~っ!)




