彷徨った果てに
少女は家を出てみたが、どうして良いか分からず、困ってしまった。
「家を出てみたけど、私どうしたら良いんだろう…。」
少女は、取りあえず大きな道に出てみた。
すると同じ制服を着た人達が何かを待っているのでそこに向かった。
(あっ、そうか。
学校に行けば良いんだっ!)
少女はシアムの生活を真似てみることにした。
(学校かぁ、学校ってどういうところだろう…?)
しばらくすると学校に向かうバスがやって来てみんな乗るのでまねをして乗ってみた。
(…ドキドキ。合ってるのかなぁ…。)
少女はバスに乗るときにツナクトノをかざさなかったが、特に誰も気にすること無く、いつも見るシアムが珍しくツナクトノをかざすのを忘れただけだろうと思った。
「シアムちゃん、おはようっ!」
シアムと同じバスで通う女学生の一人が、シアムと思って声をかけてきた。
だが、少女は初めは誰を呼んだのか分からず何も反応できなかった。
「シアムちゃん?」
やがて自分のことだと分かり、遅まきながら挨拶をした。
「あっ!!あっ!お、おはようっ!!!
ゴホッ、ゴホッ…。」
「だ、大丈夫?」
少女は突然、むせ込んでしまった。
(あれ、何か喉がおかしいなぁ…。
だけど、私ったらすっかりシアムお姉ちゃんになっちゃったっ!!)
「シアムちゃん、おはようっ!!」
「シアム、おはよっ!この前のライブは良かったぜっ!」
「おはよう、ねぇ、ねぇ、今度サインくれない?近所の人からほしいって言われてね…。」
両親だけでなく色々な人が自分を見てくれる、出会う人達が自分のことを見ては挨拶してくれる、シアムと思ってくれる、間違った認識だったが少女にとっては自分を見てくれるということが嬉しくて仕方が無い。
やがて少女は自分は自分の姉、シアムになったのだと思うようになった。
(嬉しいなっ!みんな自分のことを見てくれるっ!
話しかけてきてくれるっ!)
学校に到着すると、またも色々な人が声をかけてきた。
だが、それに返答しているうちに、徐々にみんな変な顔をするようになってきた。
「お"は"よ"う"っ!み"ん"なっ!」
「!!!」
「お、おい、シアムちゃんどうしたの、その声…?」
「歌いすぎかい?」
「酷い声だよ…。風邪かなぁ…。」
(えっ?こ、声がかれてしまった…?どうして…?)
途端に少女は、生徒達から声をかけられることに対して怖くなってしまった。
「おはようっ!」
「シアムちゃんっ!」
「元気っ?」
「おはようっ!!」
「おはよ~っ!!」
色々な人が自分を見ては声をかけてくる。
その声が自分を責めてくるようにも感じられて、何も返答が出来ず、ただ走って逃げるだけになってしまった。
やがて人のあまりいない広い場所に着いた。
彼女を見かけた別の年上の女生徒が声をかけてきた。
「あら、シアムちゃん体育館で、どうしたの?」
それはイツキナだったが、少女は声を出すのが怖くなり逃げるしか無かった。
「あら、聞こえなかったのかしら?こっちを見たような気がしたのだけれど…。」
(誰だったのかしら…。とっても親しげな年上の人だったけど…。)
廊下でも自分より小さな女の子が声をかけてきた。
「シアムお姉ちゃんっ!おはようございますっ!」
少女は反応できず、じっと少女を見つめた。
「あうん…。お姉ちゃん、どうしたの?怖いよう…。」
(こんな小さな子とも知り合いなの…?)
ホスヰは、偶然出会ったシアムに挨拶をしただけなのに睨み返されたように感じて戸惑った。
少女はホスヰを怖がらせてしまった事に後悔し、さらに逃げるように走って行った。
(ご、ごめんなさい…。お返事が出来ないで…。)
そして誰もいない教室に逃げるように入った。
「こ"、こ"え"が"で"、で"な"…く"…」
試しに声を出してみたが、やはり枯れた声しか出ない。
徐々に声も小さくなっていき、やがてほとんど声が出なくなってしまった。
(な、なんで声が出ないの…。
ご飯も食べられないし…。
私…、私…、生まれたんじゃないの…?)
やがて先生らしい人が無人教室にいる少女を見つけて話しかけてきた。
「お~い、誰かいるのか?この教室にいてら駄目だぞ~。」
少女は急いで教室を出て行った。
「あれは、シアム君か。なんでこんな教室にいたんだ…?」
キルクモは、逃げるように出て行ったシアムにいぶかしがった。
少女は学校にはいられないと思い、校門から走って出て行った。
(私はまた彷徨うだけなの?身体をもらったのに…。)
恐ろしさと、疑問だらけになりながら走り続けていると、右足が動きにくくなっていった。
(足も…?う、動かない。おかしいわ…、どうして、どうして…?)
そんなところを見知らぬ若い男が話しかけてきた。
「ねぇ、君、学校サボり?どこに行くの?」
「……。」
少女は返事をしようとしたが、また変な顔をされると思って返事をしなかった。
「あれ、どうしたの?
元気なさそうだけど、何かあったのかい?」
少女は自分に優しく声をかけた男を見て涙を流してしまった。
「ありゃっ?!
どうしたのさ、大丈夫かい?
ここじゃなんだからさ…。」
男は少女を導くようにどこかに連れて行った。
少女は、男がにやりとしていることに気づかなかった。
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「ほら、ここなら休めるからさっ!」
男は少女をホテルに連れ込むと部屋まで案内し、少女をベットに座らせて、その横に座った。
(ここってお休みするところなの?)
少女は周りをキョロキョロと見回した。
大きなベットがあるだけでお風呂も透明な壁の向こうに見える。
ベットの横には立体映像のツナクで放送されている番組やコマーシャルが流れていた。
「君、何かあったのかい?
何も話さないけど…、着いてきてくれたって事は良いって事だよね?」
男はそう言うと少女の肩に手を回した。
(良い…?)
そして、おもむろに少女の制服を脱がし始めた。
「うぅ、あぁ…。」
(いやっ!やめてっ!どうして裸にしようとするのっ!!)
少女はもがき、逃げようとした。
しかし、男の力は強く、少女はシャツのボタンが全て外されてしまった。
「下着も着けていないのかっ!やる気満々じゃないかよっ!!」
興奮した男は、続けようとしたが少女の身体を見てその手が止まった。
「ちっ、何だよ。」
(???)
「こいつ、ロネントかよっ!
暗くて分からなかったぜ。
ヤる用でもなさそうだし、つまんね~。」
(ロネント?私がロネント?
うそ、うそよっ!
私は人間よっ!!!)
少女は逆に男にすがりつくが、強く蹴飛ばされてしまった。
「うざっ!
なんだよ、このロネントは…。
顔はシアム似なのによぉ~。
くそっ、変なもん拾っちまった。
大外れだぜ。」
少女は半裸のままベットで下を向いて座るしか無かった。
涙を流す機能を持っていたそのロネントは止まらない涙と共に、男の言った言葉を繰り返した。
「こいつ、ロネントかよっ!」
(ロネントじゃないわ…。
私は人間よ…、人間よ…。)
少女が憑依したものは先日のロネント誘拐事件の時に製造されたシアム似ロネントのだった。
数多く作られたロネントのうち、一体が倉庫の奥に残ったままだったのだ。
その残ったシアム似ロネントに憑依した少女は、朝食を取ろうとした。
だが、ロネントが食事を取れるはずも無く、朝食を無理矢理放り込んだため食事が逆流し、さらに喉の声帯機能を故障させた。
少女は学校から逃げ去ったが、その身体は不完全だったため無理に走ったことで右足が故障してしまった。
少女はホテルを出ると右足を引きずりながら再び町を彷徨う。
(うぅぅ…、うぅぅ…。
私ばっかりどうして?どうして?どうして?
神様…、私はどうしたら良いの…?)
下を向いて歩く少女は、朝の明るく生に満ちた少女では無かった。
少女は彷徨ううちに"自宅"に着いた。
(…お家。
シアムお姉ちゃんと…、お父さんと…、お母さんのお家…!
私のお家じゃないっ!!!
グスッ、グスッ…。
ウゥゥ…、ウワ~~ンッ!)
水分を使い切ったロネントは、涙を流すことが出来なくなった。
その心と同じように乾ききってしまった。




