表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
ドッペルゲンガー少女 シイリ
104/573

初めてのおはよう

少女の思いは何かを引き寄せた。

引き寄せたというより、引っ張られたと言った方が正しいだろう。

やがて、少女は"それ"と一体となった。


「グスッ…、グスッ…。

お姉ちゃんに謝らないと…。」


少女は自分を包んでいた天使がいつの間にかいないことに気づいた。


「…あれ…?

あれ、あれ?

あの綺麗な人は…?」


少女は涙を拭くために手を目に当てていたが、その手が重く感じる。


「…うん?何だろう。

手が重い…?

身体も重い…?

わ、私…、どうしたの…?」


少女は周りを見回したが、自分がどこにいるのか分からなかった。


「ど、どこ?ここはどこ?

真っ暗で周りがよく見えないわ…。」


少女は立ち上がると、歩いて色々なところを見て回った。

その時、何かに引っかかり転んでしまった。


「あれ…、私何かにぶつかったの…?

どうしてぶつかったの…?」


今まで何かにぶつかったことなど無かったので何が起こったのか理解できなかった。

だが、一つだけ思い当たることがあった。


「わ、私もしかして…肉体に宿っている…?

まさか、まさか…!

私…、お姉ちゃんみたいに生きている?

生まれちゃったのっ!?」


少女は再び立ちあがり、また部屋を歩いてみた。


「…歩いてるっ!

歩いてるっ!!

歩いてるっ!!」


さっきは気づかなかったが、足に地面を感じて確かに歩いていた。

少女は、肉体を持って生まれた事に感動した。

そして嬉しさの余り、暗い部屋で飛び跳ねた。


「わ~いっ!わ~いっ!」


「シアムッ!倉庫で何してるのっ!早く支度しなさいっ!!!」


それはシアムの母親の声だった。

だが、それは少女には自分を呼んでいるように感じた。


「お母さんっ?!

お母さんだっ!!

お母さんだっ!!

うんっ!分かった~~っ!!!!」


その少女は"母親"に呼ばれてとても嬉しかった。


「お母さんが呼んでくれたっ!!お母さんが呼んでくれたっ!!」


少女は倉庫の扉からわずかに光が差していることに気づいて、扉を開けた。

すると朝の眩しい光が部屋に差してきた。


「眩しい…。眩しいわ…、目が開けられない…。これも初めての経験…。」


その光が目に入ったため、眩しくて思わず目を閉じてしまった。

やがて目が慣れてくると少女は自分が裸であることが分かった。


「えっ!

は、裸だ…。恥ずかしい…。

ど、どうしよう…。」


少女がキョロキョロと周りを見回すと、倉庫の奥にも光が差し込んでいた。

そして、そこに制服が掛かっていることに気づいた。

それはシアムが予備で買っていた制服だった。


「おぉっ!!これは学校の制服ではっ?!」


少女は急いでそれを着ると意気揚々と倉庫から出てきた。


「えへへ、似合うかなぁっ!」


窓に近づくとさらに明るさが一層眩しくなり、彼女をより明るく照らした。


「朝っ!朝よっ!鳥が鳴いてるっ!外がと~っても明るいっ!」


朝の光の眩しさ、鳥の鳴き声、少女が今まで感じることの出来なかった感覚だった。

それは生きているということを少女に強く知らしめた。


「何て素晴らしいのかしらっ!!!」


「早く、朝ご飯を食べなさいっ!」


「は~いっ!」


"母親"の声の方に歩いて行くと、ダイニングテーブルがあり、朝食が並べられていた。


少女はソワソワしながら食卓に着くと、周りを見渡した。

そこにはシアムの母親がもいたが、父親も朝食を取っていた。

少女はシアムの父親、母親を見ただけだったが、自分の両親がそこにいると思った。


(お父さん、お母さんだ…。)


「おはよう、シアム。

どうしたの?食べないの…?」


母親は椅子に座った娘が何もしないで下を見ているので不思議がった。


(あ、あ…、ど、どうしよう…。)


少女は、直感的に挨拶をしなければと思った。

そこで、小さな勇気を絞って初めて自分の母親に挨拶をした。


「お、お母さん…、お、お、お、おはよう…ございます。」


少女は上手く話せなかった。


「う、うん?

今朝はやけに丁寧ね。」


母親は変だとは思ったが、少女を見つめてにっこりと微笑んでいた。

少女は、それだけでも天に昇るような気持ちになった。

だから、父親にも挨拶をした。


「お、お父さんっ!おはようっ!!」


今度は元気に挨拶が出来た。


「お、おはよう、シアム…?

丁寧だったり、元気だったり、今朝は一体どうしたんだい?」


父親も少女を微笑みながら見つめていた。


少女はニコニコしている両親を見て自分も嬉しくて仕方が無かった。


「だって、だって、朝の日差しが眩しかったのっ!!

それに鳥さんの声も聞こえたのっ!!

ちゃんと歩いてるのっ!」


「あははっ!

そうか、そうか、良かったなっ!」


父親は急に子どものようなことを話す娘を見て、幼かった頃の姿を思い出した。


「何だか、急に子どもになったみたいだな。」


「私は、お父さんとお母さんの子どもよっ!!」


「そうだったな。」


「うんっ!」


シアムの父親と母親は、改めに子どもであると言われて違和感を感じた。

だが、元気であることには違いなく、それ以上は何も気にしなかった。


「さぁ、朝ご飯を食べてしまいなさい。」


「はいっ!!」


少女は改めにて朝食を取ろうした。

だが、お腹が空いていない事に気づいた。


(お腹空いてないなぁ…。

で、でも、せっかくお母さんが作ってくれたんだから食べなくちゃ。)


「ムシャ、ムシャ…。」


押し込むように食べていると、少女はいきなりむせてしまった。


「ゴホッ、ゴホッ…。」


「あ、あら、大丈夫?」


「だ、大丈夫…。」


少女は続けて朝食を食べ続けた。

だが、どうしてもむせてしまう。


「ゲホッ、ゲホッ…。」


「シ、シアム…?」


むせ方があまりにも変なので母親は心配してしまった。


「…ムグッ。」


少女はむせて吐き出しそうになってしまった。


(…どうしよう、口から今にも出てしまいそう…。)


少女はこのままではどうすることも出来ないと思って、急いで外に出ることにした。


「ん…、行くのか。」


少女はうなずくしか無かった。


「い、いってらっしゃい…。気をつけ…て…。」

「シアム、本当に平気…。」


両親は娘を心配したが、声をかける間もなく飛ぶように出て行ってしまった。


「ウッ…ウゥッ…、ウゥ…。」


少女は外に出た途端、玄関の隅に食べたものを吐いてしまった。


「ハァ、ハァ…。

あ、あれ…。おかしいな…。

どうして食べられないの?

おかしいな…、おかしいな…。」


少女は不思議に思いながらもここにいられないと思い、どことも行くとも無く、とにかく移動する事にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ