光の柱と後悔と小さな願い
悪意に満ちた少女は姉となるはずだったシアムを苦しめ、病院に送ることが出来た。
(ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ!
ヒー、ヒッヒッヒッ!)
少女は姉の不幸を見て高笑いをした。
(あ~~はっはっはっはっ!!!!
やった、やったっ!!)
憎むべき姉を不幸にしたはずだったが、心は満たされなかった。
(…なんかむなしい…。)
少女は、ベットで起き上がったばかりのシアムのそばにいる右腕の白い少年が、何故か自分を見ているように感じた。
(…な、何だろう…、この人は…。まさか、私が見えるというの…?)
少女には少年が輝いて見えた。
その光が自分に何かを問いかけているような気もして気持ち悪くなった。
「…ちょっと、彼女に話してみるね。」
その少年は二人の幼馴染みと話した後、心の声でシアムに取り憑いている少女に話しかけてきた。
(君はどうして彼女のそばにいるんだい?)
(!!!
やっぱりあなた私が見えるのねっ?!)
(うん…、何か見えちゃうんだ。
…それで、どうしてシアムのそばにいて彼女を困らせるんだい?)
(どうしてって私のお姉ちゃんだからよ。)
「…ん?あ、そうなの。」
(しまった、口で会話してしまった…。
えっと、少し君のことを教えてね。
ワ・キ・フメト…。)
ロウアは心の声でコトダマを唱えた。
すると、コトダマの一つ一つが光と共に彼女を包み込んだ。
(な?何々?)
そしてコトダマが彼女から少年の元に戻っていくと少年の胸の中に静かに消えていった。
(何をしたのよっ!)
少女は自分の全てが見透かされるような気がした。
(やっぱり、君はシアムの妹になる予定だったんだね。)
(えっ?妹になる"予定"…?違う私は妹よ…。あれ…。何か変…。)
(君は生まれる前に亡くなってしまったから死んだことが分からないみたいだね…。)
(生まれる前…?生まれるって…?)
少女は少年の話で自分の生い立ちを思い出してきた。
(…私は生まれる前、お母さんのお腹に宿っているときに命を失った…。
あれ、何でそんなことが分かるの…。
そう…、そしたら何故か水袋の中にいて…。)
(君のお母さんは病気がちだったみたいだね…。
君をお腹に宿したまま病気が酷くなってしまって…。
死んだときのイメージがそのまま水袋の姿となって彷徨い続けてしまった…。
君のいた世界は所謂、水子の霊の世界…。可哀想に…。)
(いやっ!いやっ!
うそよっ!うそよっ!
何よ水子ってっ!!
私はここにいるじゃないっ!)
(そうだね。魂は永遠に生きるから。
さぁ、本当の安らぎの世界に戻るんだ。)
(いやよっ!
私はお姉ちゃんのそばにいるのっ!!)
「…でも、彼女驚いちゃってるよ。」
(また口で話してしまった…。
お姉ちゃんのそばにいたら駄目だよ。
そんな苦しい世界にいては駄目だ。
君はもっと安らぎの場所に帰ることが出来るんだよ。
君を導いてあげるから少し待ってね。)
(導く…?)
(今、天使さんを呼んであげるから。)
(えっ?天使?)
<<導きのコトダマ タタヤユ・キ・ヤッ!>>
ロウアが今度は両腕を使ってコトダマを空中に切ると、病院の天井から光の柱が降りてきた。
その中にはうっすらとだが人影が見えた。
(あぁっ!!!
眩しい、眩しい…。
き、綺麗な人…が…いる…?)
少女は徐々に目が慣れてくると美しい金髪の女性を光の柱の中にいることが分かった。
その背中には白い大きな翼が生えていて、そのまなざしは優しく自分を見つめていた。
(あぁ…、あぁ…。
私、私…。
私…、酷いことをしてしまった…。)
哀れな少女は圧倒的な光の前で、憎しみの気持ちが自らを醜くしていることを悟った。
(私は何てことをしてしまったの…。)
そして水袋の中の同じような子ども達にしたことを後悔し、自分の姉にも酷いことをしたことを後悔した。
(神々はあなたをとっくに許していますよ。
さぁ、元の場所に帰りましょう。)
天使は微笑みながらそう言うと、翼を広げて彼女を包み、そのまま空に飛び立っていった。
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少女はムーの時代の天使達に導かれて空に帰ったはずだった。
「お姉ちゃん…、酷いことをして…ごめんなさい…。」
「安心しなさい。あなたは許されていますよ。
さぁ、もうすぐあなたの故郷に…。」
だが、その道中で少女は強く思ってしまった。
「お姉ちゃんの謝らないと…。謝るためには私も生まれないとっ!!」
その強い思いは何かと同調した。
少女は何かに引っ張られるように地上に落ちていった。
「あぁっ!何てことでしょう…また…戻ってしまうなんて…。
こんな事は初めて…。
あの方にお伝えしなくては。」




