ロウアルーム
ロウアの部屋は、二階にあった。
扉を開けるとその部屋の広さに驚いた。
(何て広いんだ……。こ、これは落ち着かないかも……)
トイレとお風呂は無いものの、12畳はあろうかというぐらい広かった。
しかも天井まではかなりの高さがある。
狭い部屋にしか住んだことが無いロウアに宿った池上は落ち着かない。
部屋の角にベットがあるが、これがまた空中に浮いている。
(う、浮いてる……。だけど、これなら部屋が広く使えるな……。しかしどうやって浮いているんだ……?)
<なんか、部屋とベットを見て感動しているけど……。まあ、座りたまえよ>
<ふふふっ、アルちゃん、自分の家みたいっ!>
ロウアは座ってみるとそのフローリングのような床は、少し暖かった。
(冷たくないのか……。すごいな)
それは床がある程度、温かくなるような仕組みを持っている事を示していた。
服といい、家といい、何でもかんでも周りの温度に合わせた快適な温度を保っている。
三人は、床に座ると、突然、アルが話し始めた。
<ロウア、喜びたまえっ!>
(……何だ?どうした!?)
アルは、どうだっといった感じで偉そうな口調で話し始めた。
<私とシアムちゃんが、君の先生になってあげようっ!!>
<アルちゃん、ごめんね……。私が昨日話しちゃった……>
<な~っ!!先を越されたっ!>
「センセイ……か」
ロウアは、先生という単語は理解できたので、繰り返してみた。
<おぉ、発音は何か変だが、そうだよ。先生だよ>
シアムは補足するように説明してくれた。
<昨日もお話ししたけど、ロウア君が記憶喪失だから私とアルちゃんで色々と教えてあげることにしたの>
「ありがとうっ!」
ロウアはとっさにお礼を言うが、日本語であったので、また二人をいぶかしげさせた。
<それだよ、その言葉がよろしくない……>
<えっとね。初めはナーガル語から教えてあげるからね>
二人は、ナーガル語と呼ばれるムー大陸の言葉を教えてくれると言ってくれた。
それは、ロウアにとってとてもありがたいことだった。
ロウアは二人の優しさに少し涙ぐんでしまった。
<やだやだやだ~~~っ、ロウア何泣いているのぉ~~っ!>
<(キュンッ!)だ、大丈夫だからね。私たちが夏休みの間教えてあげるから>
(夏休み……。今は夏休みなのか……、そうか、登校日って話していたな。……あれ、登校日があるのか。
だけど、今は、一体、何月何日なんだろう。出来れば年も知りたいけど、西暦じゃないよなぁ……)
そんなことを考えていると、母親がお茶とお茶菓子を持ってきた。
<あら、アルちゃん、シアムちゃん、ありがとうね……>
<いえいえ、おばさん、私たちが付いているからには、夏休み前にはすっかり元通りになっていはずですっ!>
(適当なところは、21世紀のとっきょにそっくりだなぁ……)
<それは頼もしいわっ!>
<おばさん、私も頑張りますっ!>
<シアムちゃんもありがとね>
そう言うと、母親は腕時計をロウアに渡す。
<ほら、ロウアのツナクトノだよ。病院の先生が調整してくれたやつだよ>
(これが僕のツナクトノ……。これでどんなことが出来るんだろう)
<右手と共に無くなってしまったのだ。忘れたのか、忘れているよね>
(右手と共に……。そうか元々持っていたツナクトノはこの前の事故で無くしたのか……。
腕と共に無くしたと思うと若干気持ち悪い……。イタタ……、話に釣られて右腕が痛くなった)
<ロウア君は右利きだけど、今は治療中だから、左手に付けてあげるね>
<あぁ、シアムちゃんに付けてもらえるとは、幸せものだなぁ!>
シアムは少しむっとした顔をして、アルをにらむと、丁寧にツナクトノと呼ばれる腕時計を付けてくれた。
丸い円盤だけど、平らで竜頭も無い。
(どうやって操作するんだろう……)
ロウアが色んな角度からツナクトノを眺めていると、アルが話しかけてきた。
<ほら、触ってっ!>
ロウアはアルの勧めるままツナクトノの表面を触る。
すると、ツナクトノの上に小さなディスプレイが表示された。
(すごいっ!こんなに小さいのに空中ディスプレイか……)
そして起動ロゴのようなものが表示されると、四角の文字が動いて、何かバックグラウンドで動作しているのが分かった。
<しばらくは待っていないとダメだよねぇ>
<ツナクと同期しないとね>
(ツナク?)
<えっと、ツナクトノの説明は後にするとして、まずは、この特製の教科書を使って説明しようではないかっ!>
アルとシアムは透明な薄い板を出すと画面をタッチする。
すると、手書きのような説明図が表示された。
(おお、すごいっ!)
<ダメだ。どうでも良いことに感動しているよ……>
<ふふふっ、でも、ロウア君らしいっ!>
<んじゃ、仕組みの方から説明した方が良いのかなぁ>
<そうねっ!ロウア君、この表示されている文字とか絵は、ツナクトノに保存されているんだよ>
(……!)
<ホラホラ、目がキラキラしちゃっているよ~~>
アルは、少し呆れた顔をしている。
<それでね……>
二人の説明では、ツナクトノと呼ばれる腕時計にはデータをいくらでも蓄積できるということだった。
そのデータはツナクを介してラ・ムーの首都にあるツナクトノのセンターに集積されているということだった。
だから、紛失した場合はそのバックアップから情報を戻せば良いとのことだった。
<でも、ロウアはツナクの情報とつながらなくなったって、病院の先生が話していたよね>
<調整したって、さっきおばさんが話していたけど、昔の情報とつながるようにしてくれたのかな>
<そっか、なるほどね>
(ツナクというのは情報網のようなものかな。つまり、インターネットみたいなものか。
……うん?ツナク……、つなぐ?日本語に似ているな)
このツナクトノは、他にも通信装置としても働く事が出来るということ。
また、個人情報を管理するID端末としても使えるとのことであった。
<ツナクトノはお家の鍵にもなるし、色々なお買い物にも使えるよっ!
お小遣いは大切にしないといけないけどね>
シアムは丁寧に教えてくれた。
(あぁ、あの車はタクシーであって、自宅の住所を教えたり、支払いにも使ったということか)
<学校の教科書も色々な本も全部このツナクトノを通して読むことも出来るんだよっ!
ちゃんと覚えるようにっ!>
<お、アルちゃん、本当に先生みたいっ!>
(す、すごい。便利だっ!)
ロウアは、池上だった頃の科学者の性格から、その仕組みに感動してしまった。
<ツナクトノは、置いといて、まずは、ナーガル語の初歩からだぞ……>
<うん、え~っとね……>
この後、二人はロウアにナーガル語を教え始める。
まずは、挨拶から始まり、お礼の仕方、言葉よりも、生活に密着した内容だったのでとても分かりやすかった。
(しかし、この説明図は、手書きかな?
もしかして僕のために……?
特製って話していたな)
手書きのようなかわいらしい絵で、漫画のような吹き出しに色々な挨拶が書いてあった。
日本のような、おはよう、こんにちは、こんばんはといった、時間帯によって挨拶は変わることはなく、一つの言葉だったので覚えるのは楽だった。
しかし、不思議だったのは、そのお礼の仕草だった。
(ま、まさか……、この絵の通りだと……)
<こうだよ~、ロウア君。覚えているかなぁ>
<こんにちは>
<こんにちは>
と、二人は、声を会わせて、"お辞儀"をした。
まさに、日本式のお辞儀だったので、非情に驚いた。
<ロウアが、なんか驚いているんだが>
<声がぴったりだったからかなぁ>
<まあ、いいか。続き、続き>
この講義は、夕方まで続いた。
ロウアは、このナーガル語を勉強していて気になることがあった。
(この言葉……。濁点こそ無いけど日本語にそっくりなんだけど……。
母音と子音の組み合わせで48の文字が出来ている……。
これはまさに平仮名……。
少し違うがほとんど同じ発音だ。
ただ……、ただ……、何だこの言葉は……。
記号の組み合わせで出来ているだけど、一文字一文字にすごい力が宿っているのが分かる。
あぁ、そうか……、これは……、コトダマなんだ……。
太古の言葉はエネルギーに満ちあふれていて、とても力強い)
ロウアは、ナーガル語に興味が尽きることが無いため、アルとシアムの二人がクタクタになってしまった。
<ロウア、すごい真剣だなぁ>
<うんっ!教え甲斐があるねっ!>
ツ 様々な智慧や知識が集まり
ナ 一つになりながら
ク 循環するような情報網
2022/10/08 文体の訂正