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【コミカライズ】女騎士の婚活物語  作者: シアノ
女騎士の婚活物語
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「ヒルデガルド!?」


 驚くレイラにアニエスは頷いてみせる。


「そう。さすがに脳筋のアンタでも『孤高の国ヒルデガルド』は知ってるわよね? 20数年ぶりにかの国からの招待状が来たってわけ」


 孤高の国ヒルデガルド。それは国の面積だけならば、さほどの大国ではない。

 南海に浮かぶ大きい島といった程度の規模の国だ。しかしこの国はただの国ではない。



 島全域に──いや近隣の海にまでぐるっと結界が張られており、許可がない限り上陸することができないようになっている。

 元々島国ということもあり、他国とのやりとりがほとんどないまま発展してきた国で、珍しい品や独自性の高い物が多数あるという。かつては一流の操船技術がないと渡れない海の果てにあるとされていた国だ。

 それゆえに孤高の国と呼ばれている。操船技術が上がった現在でも、ごく一部の国としかやり取りがないのだ。


 そして、中でも魔光石の産出される数少ない国でもある。

 魔光石とは、この大陸だけでなく諸外国でも広く燃料として使われている魔法石の上位版である。ほんの小さなかけらで魔法石の数倍の力を持つのだという。どの国も喉から手が出るほど欲しがっている。勿論このバルシュミーデ王国でもそうだった。


 しかしながらこの国は他国との交易をほとんどしない。それこそ結界を張るほど頑なに。

 それ故に魔光石は世に出回ることが少なく、非常に高値でやりとりされているのが現状である。


「それで、ヒルデガルドに独身女性ひとり入国させるごとに1回交易をさせてくれるんだって。だから限度の4人を送り込みたいってのが国の考え」


 アニエスは肩をすくめた。


「で、結局ヒルデガルドに招待って、要件はなんなの? まさか、お見合いパーティーとか? なーんちゃって……」


 自分の言った冗談に笑うレイラに、アニエスは真顔のままである。


「それがそのまさかよ」

「は?」


 レイラは目を見開き、対称的にアニエスは頭が痛そうに目を閉じ、溜息を吐いた。


「なんでも、ヒルデガルドの国王は、最近即位したばかりだそうで若くて独身なの。ついでにイケメン高身長って噂。それで……ヒルデガルドはその国土の特異さのせいもあって、国民が少ない。しかもどういうわけか男女比が6:4なんですって」

「……ちょっと、貢物扱いになるならこの話パスよ」


 アニエスはそれを否定するかのように手を振った。


「それはない。いくらなんでも王女様を貢物として差し出すわけはないでしょ。国王陛下が目にいれても痛くないってくらい可愛がっているのに。だから『お見合いパーティー』なのよ。独身女性限定なのはそのせい。若き国王の正妃を決める催しが大々的に行われるのですって。……それでアンタが護衛役なの。わかる? 各国からやってきた餓えた狼の群れに、最高級肉をひとつだけ投げ入れるんだから。我が国の子狼が踏み潰されないように守りなさいってことなのよ」


 なるほど、合点がいった。女の園は何が起きてもおかしくはない。


「一行には王女がいるとはいえ、一応アンタも参加者になるから、何着かドレスを持って行って。ううん、任せて。私の方で新しいの頼んであげるわよ」

「え? 待ってよ、そんな」

「だってアンタのドレス似合わないのばかりなんだもの。いつもの騎士服の方がなんぼかマシよ」

「そ、そんなにひどい……?」

「ひどい。金かければいいってもんじゃない。ってか店選びから失敗よ。私のコネで似合うのを作ってあげるから、今回の件、受けてくれる?」

「まあ、大変そうだけど、行くわ。別に王女が選ばれても選ばれなくてもいいのよね? 私の責任は王女を守るってことだけで」

「いいわよ。とりあえず4人を行かせれば、交易枠が4回もらえるんだから、それだけで面目が立つし、十分功績になると思う。万が一うちの王女が選ばれたら、ついでにアンタも大出世できるかもね。まあ無理じゃない? 怪我とか毒殺とかには気をつけて無事に連れて帰ってくれさえすればいいわよ」


 アニエスはどういうわけか王女に辛辣である。

 レイラはそれを少しばかり不思議に思った。


「なんか、王女に辛辣じゃない? ……って、まさか性格がありえないほどひねくれてるとか?」


 レイラは公務で王女に会ったことは何度もあるが、噂通りに見目麗しく愛らしい女性だったと思う。


「性格は、うーん、まあ普通? 一般的な王族よね。ちょっと甘ちゃんで夢見がちだけど、若いからしょうがないし。そうじゃなくて見た目よ」

「え? 見た目? だってうちの国で最も美しいんでしょ? 金髪に青い目の美女で、小柄で華奢で、だけど胸が大きいってさぁ……」


 胸が大きい、の部分をジェスチャー付きで表すレイラ。


「そんなのあくまでうちの国だけの流行よ。そりゃ美人だとは思うけど、それが他国で通用するとは限らないってこと! 何より、都合つく限りの美女が各国から集まるんだから」


 美人博覧会よ、と言うアニエス。

 レイラはそれもそうかと納得した。きっと各国の美女が並ぶのは壮観であろう。


 そしてむしろ却って気楽になった。

 公務で夜会や、公の場に出るのも慣れているし、普段通り王女を守って帰国すればいいだけだ。


「……行き帰りと滞在期間を含めると、半年くらいにはなるでしょうね。そうするとこのシーズンは社交への参加は無理よ。アンタの年齢だと、1シーズンを棒に振るのはますます厳しくなるでしょうね。だから行くなら本気で未婚人生を歩む可能性が高くなるけど……本当に構わない?」

「構わない。もう行くって決めたから。あ、うちの両親の説得だけは手伝ってくれるわよね!?」


 レイラは気楽そうにいい、先程から空になったままだったグラスに手酌で注いで一気に煽った。胃の腑がかっと熱くなる感覚に、細かいことはどうでもよくなる。


 アニエスはそんなレイラを見てため息を吐き、同じように自分のグラスに酒を注いだ。


「本当にわかってるの? 万が一、いえ億が一かもしれないけど、自分が選ばれる可能性だって、なくはないでしょうに」



 アニエスの言葉は、気持ちよく酒を飲むレイラの耳には全く入っていなかった。


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