表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】女騎士の婚活物語  作者: シアノ
女騎士の婚活物語
3/44


「アニエス。私、結婚やめるわ」


 レイラは友人のアニエスの部屋でグラスを傾けていた。中身は当然のようにアルコールの強い酒だ。

 夜会の後、レイラはアニエスの部屋に泊まることになっていた。お泊まり会といえばかわいらしい響きだが、要は酒を飲んで愚痴っての絡み酒をどちらかが寝落ちするまで続ける酒豪の会だ。


「え? 止めるんでしょ? ってかよくあのアホと婚約しようと思ったわね。アンタ焦りすぎなのよ」


 アニエスは侯爵夫人とは思えない口調だが、そもそもアニエス自身が女性騎士だった経歴を持つ。レイラとも同期の間柄でお互い気の置けない相手なのだ。

 そしてレイラにとって相談事を腹を割って話せる数少ない相手だ。言いにくいことでも悪意なくはっきりと教えてくれる相手などそうはいない。


 しかしそのアニエスも、幸せな結婚をしているし、2歳になる愛らしい娘もいるのだ。

 行き遅れのレイラとは違って。


「……確かにね、焦ってたわよ。だって周りはどんどん結婚していくじゃない! 私、可愛げないし、赤毛だし、訓練で散々日焼けしたからそばかす消えないし、身長はでかいし、そのくせ胸はないし腹筋割れてるし……!」


 レイラは別段不美人というわけではない。

 しかし、その容貌はこの国での美女の条件からかけ離れている。それが問題なのだった。

 また、レイラはそのせいで外見へのコンプレックスが非常に大きい。


「アンタはねー、20年……いや30年以上前に生まれてたらよりどりみどりだっただろうにね。今の流行りは金髪碧眼で、小柄で華奢、なのに巨乳だもんねぇ。でもこればっかりはしょうがないよ。王妃と王女がそうなんだもん」


 元々ほっそりと嫋やかな金髪で碧眼の美女が、この国の名前であるバルシュミーデ風として持て囃されていた経緯がある。そこに約20年前に隣国から嫁いできた美貌の王妃がまさにこの条件に当てはまるのだ。美女の条件といえばまさにバルシュミーデ風。世間の流行がそうなるのも無理はない。

 そして美貌の王妃の娘でもある王女もまた、豊かな金髪に青い目で、小柄で華奢なのに胸部が豊かなバルシュミーデ風の愛らしい女性なのだった。


 なお先代の王妃……現国王陛下の母である方は、どちらかといえばスレンダーで身長も高く、健康的で乗馬が趣味というタイプだったので、レイラがその時代にいたらきっとモテていたに違いないと、親や親戚を含め色々な人間からそう言われるのだった。

 レイラだって出来ることならその時代に生まれたかった。しかし年齢ばかりはどうにもならない。


「いくらなんでも低いところから探しすぎなのよ。いっそもっとうんと年上でも狙ったら? 結婚しそびれたナイスミドルだって探せばどこかにはいるでしょう? もしくは妻に先立たれた人とか……。とはいえこの国はあまり再婚もしないわねえ」


 このバルシュミーデ王国は、宗教上の理由もあって再婚を望む人はかなり少ない。どうしても跡継ぎが必要であるとか、大きな理由でもないと、妻に先立たれても再婚せずに一生を過ごす男性が多いのだ。

 そしてまともな人ほど再婚しないために、再婚を望む男性はほぼ見えている地雷と思っていい。そう、例えばあのドロテアを娶ったレイバン男爵のように。


「低いって……確かに身長は低かったし……オツムの程度も低かったけど、アドルフはまあ顔だけは良かったし! ……ってそうじゃなくて、私は結婚を……結婚相手を探すのを、もうやめようと思うの!」

「はあ!? アンタ、修道院にでもいくつもり?」


 アニエスは大仰に驚いて見せた。

 また、この国では貴族女性が未婚のままだなんて、普通はあることではない。

 色々問題があって修道院に入れられる女性がごく稀にいるくらいだ。


「平民なら結婚しない人だってたまにいるじゃない。私の家なんて貴族って言っても下の方だし。祖父だか曽祖父だかの代までほぼ平民みたいな暮らしだったのよ? それにアドルフを選んだのだって、あそこ家柄も良かったからだし……今から他を狙うっていったってねえ……」


 大体、レイラの実家であるショーメット家は子爵で、南方貴族と呼ばれる新興貴族の一族だ。商売を手広く行なっており、金銭には不自由していない。いわば成り上がりも同然だ。

 更に、兄は既に結婚しており子供もいて、家を継ぐことが決まっている。レイラひとり結婚しなくてもそれほど影響がない。


 一方で、アドルフの実家、ボーリュ伯爵家は、やや没落気味ながらも由緒ある北方貴族の家柄だ。結婚したら借金を肩代わりすると言う条件での婚約ではあったが、アドルフと結婚できれば玉の輿だったはずなのだ。身長は低めだが、顔だけは良かったこともあり、これ以上のいい条件の男性が残っているとはレイラには思えないのだった。


「いや、それ玉の輿って言わないから。嫁の実家に借金返してもらう予定だったわけでしょ? まったく甲斐性なしね! でも確かにアホでさえなければ相手としては良かったかもね。アホだったけど」


 アドルフ、ひどい言われようである。

 しかしこのアニエスこそ、実際に玉の輿に乗った女性なのである。

 アニエスは女性騎士をしていたとは思えないほど、そしてこの口の悪さが信じられないほどに愛らしい華奢な美女なのだ。

 公務中に偶然クレマンティ侯爵を助ける機会があり、その愛らしさと凛々しさのギャップに侯爵がメロメロになりその場で情熱的な求婚されたという経緯がある。

 そして結婚して数年経つ今もベタ惚れされている。実に羨ましいことに。


「修道院に入るつもりはないの。このまま女性騎士を続けようかなって。体が動かなくなってきたら、教官とかになってさ」

「……本気で結婚を諦めるつもりなの?」

「諦めるっていうか、私って結婚に向いてないのかもって思って。アドルフだってあの場で私がちょっと我慢すれば良かったのに、私にはそれが出来ない。かっとなるともう我慢が出来なくなってしまうの。騎士を辞めて結婚して、普通の貴族の奥方になる自分が全く想像できない。騎士の仕事はわりと天職だったと思うのよね。最近じゃ結婚しても子供が出来るまでは辞めない人もいるでしょ。私もそうしようかと思っていたけど、もういっそのこと、結婚自体を辞めようかなって。個人的な目的での夜会への出席を減らして、その分、公務での出席を増やせばそれなりに重用されるでしょう? 今夜みたいに」

「そう……ちゃんと考えてはいるのね」


 アニエスも真面目にレイラのことを考えてくれているようだった。


「……ねえレイラ。騎士を続けたいなら、いっそもっと功績が必要だと私は思うのだけど。……そして、貴方に頼みたい仕事があります」


 アニエスの口調が変わる。昔馴染みの気のおけない友人から、侯爵夫人のものへと。

 レイラは思わず背筋を伸ばして聞いた。

 強いアルコールを口にしていても、仕事が絡むと頭はすっとクリアになる。


「頼みたい仕事……? 危険なのね?」


 アニエスがわざわざ頼みたいと言うほどの仕事だ。功績につりあうほどに危険か、さもなくば面倒なのは間違いない。


「危険といえば危険かも。それより情報が少なくて、まだどうするかの結論が出ていなかったのよ」


 アニエスの説明は要領を得ない。


「どういうこと? 誰かの警護?」

「……他国に向かう王女の警護よ。王女と、身の回りの世話をする侍女がふたり、それと身辺警護の腕が立つ女性騎士がひとり必要なの」

「ちょっと……少なすぎるわ」


 アニエスはふう、とため息を吐く。


「それがね、ちょっと特殊で。王女を含めて4人までしか入国が認められないの。特に護衛は責任が重いから、誰に頼むか騎士団長が悩んでいるそうよ。貴方が功績を望むなら推薦するわ。実力は問題ないし……それに、もうひとつ条件があるのが悩みどころで」

「条件?」


「入国が認められるのは独身女性だけ、人数は4人以下。それがヒルデガルドからの条件よ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ