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【コミカライズ】女騎士の婚活物語  作者: シアノ
女騎士の婚活物語

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11

 それから1週間ほどの間に他の参加者の令嬢達は、そのほとんどが集まったとシプリアから聞いた。

 離宮内もずいぶんと賑やかで華やかさが増していた。各国の令嬢だけではなく、彼女らの身の回りの世話をする女官や、兵士も増やされたことで、閑散としていた頃の離宮とは大違いだった。

 とはいえ国の位置の都合上、到着の遅れている令嬢もいるようだったが。


 レイラの祖母の祖国でもあるダーランの令嬢もまた遅れているようだ。

 しかもタイミング悪くイグナーツからヒルデガルドまでの航路が嵐で荒れているらしく、更に数日は遅れるだろうとのことだった。

 レイラは自分の外見特徴が祖母似によるものではないかと両親からも言われていたので、ダーランの令嬢に会って話をしてみたかったのだが、その知らせに少しだけガッカリしたのだった。




 レイラは庭園でヨアニスと出会って以来、暇な時は庭園をぶらつくようになった。


 ヘンリエッテからも、四六時中護衛をする必要がないと改めて言われたし、体を動かすのは気持ちがいい。外の空気を吸うだけでも気分がすっきりするからだ。

 また、居間で顔を合わせるとクラリッサに睨まれるということもある。

 おそらくヘンリエッテから言われた、クラリッサよりもよほどレイラの方が美しいという言葉が、気位の高いクラリッサには我慢ならなかったのだろう。ずいぶんと根に持っている様子だ。


 そのヘンリエッテはヤスミンと共に外交と称して、毎日忙しく他国の令嬢とお茶会をしている。

 シプリアもヒルデガルドの人間が立ち会うと話しにくいことがあると察してくれたようで、自由にお茶会をすることができるようになった。

 ヘンリエッテもブラウリオとのお茶会を経験した上でレイラが常に側につく必要はないと判断したようだ。おかげでレイラも好きに行動できるのはありがたい。

 クラリッサもその危うさが外交の邪魔になるからか、排除されていることも多い。ブラウリオとのお茶会を顧みれば当然かもしれない。……そのせいか、余計に頑なになっている気がしないでもないレイラなのだった。

 


 それに、たまにではあるが庭園でヨアニスに会うこともある。


 大抵は薪割りをしているが、レイラに気がつくと手を止めて雑談をする仲にはなった。

 ヨアニスも中々に忙しいらしく、薪割りもいつも同じ時間にしているわけではないので、いつ会えるかはわからない。

 だからだろうか、会えた時にはレイラはなんとも言えない嬉しさがこみ上げるのだ。


 きっと、令嬢と違い、話をしていても気を使わないせいだろう。また武官だったからか物事を広く知っているようで、ヨアニスとの会話はレイラにとって、非常にためになることばかりであった。

 武器の話、馬の話、それから酒の話である。男女というよりもまるきり男同士のような会話であるが、レイラは元々女性同士の会話は得意ではない。ドレスにも興味が薄く、流行にも詳しくはない。甘い菓子は嫌いではないが、酒の方が好みである。それ故に、レイラはヨアニスに会えることを心待ちにしているのだった。




「狩り大会、ですか?」


 その日も偶然にヨアニスに会えた時のことだった。


「そうだ。ご令嬢たちはお茶会やらなんやらを毎日やっているらしいが、レイラ様みたいに外が好きな方もいるだろう? 希望者を募って狩りにでも行って来い、とシプリアからも言われていてな」

「いいですね、私はあくまでスポーツとしての狩りでしたら経験があります」


 バルシュミーデでは増えすぎた害獣を馬や獣で追ったり、弓で射止めたりする狩りは貴族の間でもスポーツとして盛んだ。ただし女性で狩りをしたがる者は少ないので、喜んで参加をするレイラのようなタイプを野蛮だと非難する令嬢も少なくはなかったが。


 しかし害獣は放っておけば増えすぎて、畑の作物を食い荒らすこともある。そして狩りの後にはちゃんと仕留めた害獣は食べるし、レイラは無駄に命を奪う行為だとは思っていない。一応は騎士としての鍛錬にもなるという建前もある。


「ヒルデガルドでは山に入るんだ。放っておくと山の恵みを食い荒らし、増えたやつらが山里に降りてくる。そういうやつらは凶暴でな、そうなる前に数を減らしておくんだ。この離宮から少し行ったところにも小さいが豊かな山があってな」


 ヒルデガルドでもバルシュミーデとそう変わらない状況のようだ。


「ヨアニス殿も参加されるのですか?」

「ああ! シプリアにも言われたし、狩りでの指揮は俺が取るつもりだ。それで……他にもヒルデガルドから独身の男共が何人か参加する予定なんだが……」


 ヨアニスは少しばかりばつが悪そうに頭をかく。

 なるほど、とレイラは思った。

 ヒルデガルドは女性の割合が少ない分、どうしてもあぶれてしまい結婚できない男性が少なからずいるのだろう。


 今回は国王陛下の正妃を決めるための婚活イベントとはいえ、他国から見目麗しい令嬢が多く逗留している。そこで狩り大会だなんだと名目をつけて会わせ、男女の自然な出会いを演出したいということなのだろう。

 もし、自国の令嬢が陛下に見初められなかったとしても、ヒルデガルドの貴族男性と結婚することで多少は縁もできる。むしろそちらを望んでいる令嬢だって、いてもおかしくはない。ヒルデガルドは国自体がかなり裕福なのだから。


 レイラはそういった事情には関係なく、ただ狩りに行きたいと思ったのでヘンリエッテに確認を取ってからとなるが、と了承することにした。




 ヘンリエッテは諸手を挙げて歓迎し、狩り大会へ参加する許可をくれた。


 しかしながらヘンリエッテとヤスミンは行かないという。この狩り大会はひとりで馬に乗れることが参加条件ではあるが、ヘンリエッテたちは馬に乗れないからだ。そもそもあまり狩りに興味もないようで、お茶会の方がよほど楽しそうである。

 クラリッサは、と一応聞けばツンケンと断られてしまった。しかしあれほど馬車に酔いやすいことを考えると馬に乗れるとも思えない。


 バルシュミーデでは狩りを好む女性はレイラのようなごく一部だけなので当然かもしれないが。





 そして狩り大会当日、集合場所にズラリと揃った10代から30代の見目麗しい美男子――20人はいるだろうか。壮観を通り越して美男子博覧会、という言葉がレイラの脳裏をよぎる。


 一方で100人前後はいるであろう今回の参加者の女性陣の内、ひとりで馬に乗れるという参加条件がネックであったためか、10人ほどしか集まっていなかった。


 あのハングリー精神旺盛なブラウリオの4人も来ていたが、彼女たちとレイラを抜けばわずか5人程度しかいないのだ。

 ひとりで参加した令嬢は狩りに興味を持って参加したものの、若干不安げだ。


 しかしながら、美男子博覧会の彼らは喜色満面で、中には感動したように打ち震えている者もいる。他国であれば引っ張りダコであろう美男子でも、男の方が余るヒルデガルドであればモテない男性に成り下がってしまうということなのだろう。なんとも気の毒な話である。




「レイラ様! 本当にきてくれたのか。感謝する」


 ヨアニスから声をかけられ、レイラは思わず顔がほころぶ。


 ヨアニスは今日もラフで動きやすさを重視した服装だった。

 他の美男子は狩り用の服ながらも小洒落た格好の者も多いというのに。

 しかしむしろ洒落っ気のないヨアニスの方がレイラには気が楽で接しやすい。


「ヨアニス殿。今日は久しぶりの狩りなので楽しみにしてきました。しかし、すごいですね。彼らは皆ヒルデガルドの貴族男性なのですか?」

「ほとんどはそうだ。あとは武官で俺の部下だった者もいる。こちらは大陸共通語を話せるやつが条件での参加なので、客人方も安心してほしい。ちょっと人数が多くなっちまったんだが、麗しい客人を拝むだけでもいいって言われてしまってな」


 ヨアニスの台詞は他の令嬢に聞こえており、クスクスと笑い声が漏れ、一方の美男子達は気恥ずかしそうにしているが、あくまで和やかな雰囲気であった。




 集団でぞろぞろと馬の繋いだ場所に向かう頃には女性ひとりに男性が2、3人付き、もう楽しげに話している組み合わせも多い。


 ブラウリオの4人などもバラバラに別れているし、おとなしげで儚げな黒髪の令嬢や、褐色の肌の蠱惑的な令嬢など、ひとりで参加して最初は少し不安そうだった彼女たちも、今では男性に囲まれて愛らしい笑顔を浮かべている。

 それを見てレイラも安心した。


 普段は狩りを嗜む令嬢にとっても、ここは全く知らない場所で、獲物の種類も異なるのだ。サポートをしてくれるであろう男性が多いことは、むしろよかったのだろう。


 レイラはヨアニスと話してばかりだったせいか、気がつくとヨアニスとふたりきりの組み合わせになっていた。勿論レイラには不満はないが、ヨアニスの出会いを減らしてしまったようで、却って申し訳ないくらいだ。

 しかし、ヨアニスは狩りにも造詣が深く、話していてためになることばかりなので、内心では喜ばしく思っていた。



 用意されていた馬に乗って出発し、山の麓の林にはすぐに着いた。


 馬に乗れるのを最低条件にしたせいか、他の令嬢も危なげなく馬を走らせている。




 林では他の狩りをする者と近いと誤射の可能性も上がって危険なので、レイラ達はなるべく広く距離を開けた。他の組み合わせも十分にバラけているだろう。


 しかしあまり山の方に入ると大型の獣が出ることもあるそうだ。

 なのであまり斜面の方には向かわず林の中での狩りをするに留めた。

 大型の獣は、人間が話し声や物音を立てていれば滅多なことでは寄ってこないらしいが一応安全のために、狩りの参加者には周知してある。


 林には土が肥えているからか、緑も豊かで鳥や小動物がそこかしこにいるのが確認できた。


「山の方まで行くと犬を使って追い込んだりもするが、ここいらにもたくさんいるから、適当に罠を仕掛けたり、弓でも簡単に取れる」

「よく肥えていますね。土がいいのかな。あ、あちらにも大きな鳥が。ヤケイでしょうか」


 レイラの指差す方向には、ヤケイのような丸々とした鳥がバサバサと羽音を立てている。


「あれは、飼ってた鶏が逃げて野生化したんだろう。この辺りじゃ逃げた家畜が野生化して山で増えることも多いんだ。あれを狙おう」


 美味いぞ、とヨアニスは少年のように笑う。

 レイラも笑顔を返した。





 僅かな間に野生化した鶏を3羽仕留め、鹿も見かけたが子連れだったので見逃した。

 犬に似た小型の生き物もいたが、食用には適さないと聞き、これも見逃した。

 その後は兎と鴨のような鳥を1羽ずつ仕留めたが、さすがに獲りすぎるのはよくないと、そのあたりで集合場所に引き返した。



 集合場所には半数以上が戻ってきており、獲った獲物をさばいたり、調理したりしている。

 怪我人もなく、特に問題も起きなかった様子だ。


 中には狩りのはずが、食べられる野草やキノコを採取していたり、沢を見つけて魚を釣った組もいる。

 かなりの大物の鹿を狩れた組み合わせもいた。


 皆が狩った量を合わせれば、さすがにその場で食べきれる量ではない。その場で調理した分は食べ、捌き切れない分は手分けして持ち帰った。今回来ることができなかった令嬢にも美味しく食べてもらえるだろう。




 少人数のグループに別れたのがよかったのか、令嬢もすっかり打ち解けたようだったし、中にはすでに若干の甘い雰囲気を醸し出している組み合わせもいる。


 ヨアニスの目論見は中々上手く行ったようだ。



 そしてレイラも久々の狩りに充足感を覚えていた。


「レイラ様は弓も上手で驚いた」

「そんなこともないのですが、騎士としては必須技能なのと、ただの趣味ですかね。久々の狩りは楽しかった! あの野生化した鶏も美味しかったですね、身が締まっていて」

「飼っている鶏よりも硬くなるから好みもあるが、味はかなりいい。餌が違うのかね。骨ごとスープにするといい出汁が出るんだ」

「スープもいいですね。持ち帰った分はスープにしてもらいましょうか?」




 楽しい時間はあっという間と言うが、レイラもご多分に漏れず、楽しい時間は瞬く間に過ぎて行った。


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