二人で歩む恋の道。
「明けましておめでとう、だね、有里紗ちゃん!」
「今年も、よろしくお願いします、志乃先輩」
二人で寝ないように我慢してた甲斐があったな、初めて二人で迎える、新しい年。初めて会ったときから息が合ってたから、まだ一年も経ってなかったのがちょっと不思議な気がしてくる。
まだ、去年の今頃は、有里紗ちゃんの顔も知らなかったんだっけ。そんなのも、信じられないや。
あっという間に友達になって、ちょっとずつ踏み出して、『恋人』っていう関係。うちも有里紗ちゃんも足は早いのに、二人の関係は、かたつむりより遅いんじゃないかってくらいゆっくり進んでる。
「もう、半年くらい経つんだね、……二人で、恋人になってから」
「そうっすね、八月になる手前だから、まだ四か月くらいですけどね」
「それくらい大して変わんないよ、……でもさ」
「でも……何ですか?」
ゆっくり、恋人らしくなっていくのも、何だかんだ胸がくすぐったい。だけど、振り返ってくと、恋人らしいこと、全然してなかったなって思い返す。ちょっとだけ、もどかしいな。うちも、有里紗ちゃんも、こういうこと、思っちゃうだけで顔が真っ赤になっちゃうくらいなんだから。
「恋人同士なのに、全然そういうことできなかったよね、……ちゅーしたりとか、デートしたりとか」
「も、もう、いきなり何言ってるんですか!?」
「そういうことするの、嫌……だった?」
「その、そういうわけじゃないんですけど、なんか恥ずかしいっすし……っ」
もう、そういう事言うから、そんなのを聞いただけで顔を真っ赤にしちゃうから、全然進まないのに。そこがかわいいなんて思ってしまう。
うちも、けっこう似たようなものだけど、……試してみたいことが、一つだけ。
「ねえ、じゃあ、……うちと有里紗ちゃんの関係、もっと深くしたいって思う?」
「それは……、そう、ですけど……っ」
「じゃあ、うちも一緒だよ、まだわかんないことばっかりだけど、有里紗ちゃんのこと、恋人として、ちゃんと好きになりたいの」
顔を寄せて、言い聞かせるように話しかける。言ったそばから、ほっぺたの奥が熱くなってくる。それだけ、有里紗ちゃんが好きで、もっと、伝えたくなっちゃう。
「そんなの、……あたしだって、思ってないわけないじゃないですか……」
「へへへ……よかったぁ……」
おんなじ気持ちを抱えてくれて、一緒に歩きたいってこと、だよね。ぎゅっと抱きしめて、今できる精一杯のことを誘う。
「今日寒いから、一緒に寝よう?」
「……いい、ですよ」
やっぱり、それだけでドキドキしちゃってるんだな。もっと、知りたいな、今まで知らなかった有里紗ちゃんのこと。もっと、知ってほしいな、うちのこと。
一緒に布団に潜り込んで、二人の熱が溶け合っていく。ふわりと誘う眠気と、ほんのちょっとのいたずら心。
「おやすみ、有里紗ちゃん」
その言葉と一緒に、唇に唇を重ねる。ちゅ、っていう微かな水音が、その間で響く。
「もう、ずるいですよ、志乃先輩は」
「えー? もっと進みたいって、有里紗ちゃんだって言ってたのに」
「そういうとこがするいんですよ、……おやすみなさい」
寝返りを打って、そっぽを向いてしまったけど、……声は、怒ってるわけじゃなくて。
照れ隠しなんて、なんからしくないな。自然と笑い声が漏れそうになるのを、抑えるので精一杯だった。