プロローグ
ある日、アライト大陸の中心地に異変が起こった。
無限に広がる空に穴を開けようとするかのようにそびえる不吉なほどに黒く、凄まじい高さの塔が出現したのだ。1フロアおよそ50メートルほどでそれが推定100フロア分あり、それぞれのフロアが迷宮のように入り組んでいる。それだけでなく、凶悪なモンスターが発生し続けているが、莫大な富を生み出し、それを求める者に試練を与え続け、その命を奪っていく。
それでも、富だけでなく名声、出会いなどを求め多くの者が塔を登っていく。
塔の誕生から20年。現在の最前線は26階。それが塔「ダンジョン」の現状だ。
***
牛男が必殺の威力を持った刃を俺めがけて振り下ろす。俺がそれをステップで回避すると、敵の両手剣がその重量も相まって、床を抉り石の破片をとばす。上段に振りかぶった大技を回避され隙ができた胴体に右手の剣で斬りつける。
既につけたいくつかの傷跡の1つに正確に当てたため、牛男が苦悶の声をあげる。
「ブモオオオォォォ!!」
次の瞬間すぐさま引き戻した剣を力任せに振り回した牛男からバックステップで距離を取る。
それを見た牛男は、血走った目でこちらを睨みつけ、再び上段に剣を構え雄叫びとともに突進してくる。
「ボオオオオオォォォ!!」
「……っ……!」
俺は、その疲労と出血でスピードの出せない隙だらけ逞しい体の胸元に剣を突き込んだ。その結果、剣が肉を突き破り、心臓に剣が達したことで力を失い倒れる牛男から剣を引き抜き、完全に死んでいるのを確認し周囲にモンスターがいないことを確認してから剣を鞘に収め、売れそうな部位を剥ぎ取る。
それほど長く戦闘をしていたわけではないが一日中死と隣り合わせの状況にあったため、今すぐに座り込んでしまいたいが、そうもいかない。なぜならここはどんな者でも気を抜けば命を落とす「ダンジョン」の中なのだから。
俺は深く息を吐き、「ダンジョン」26階の転移板を目指し歩いて行った。
***
転移板
「ダンジョン」の入り口と各層をつなぐ魔法具。各層の転移板に触れたことがある者のみ、その階にいける。