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AAA(トリプルエー)  作者: 海辺胡蝶
3/7

2

「面白いんじゃない」

 鬼塚涼介が光の話を最後まで聞いて、笑顔でそう言ってくれた。


 話はさかのぼるがAAAトリプルエーと特待生の初めてのミーティングが、帝国ホテル内の一室で行われていた。

 ちょっと豪華な会議室風の部屋で、AAAトリプルエーと特待生の自己紹介と簡単なスピーチが順番に行われている最中だ。


 現在AAAトリプルエーは五名おり、俳優でクラブDJの鬼塚涼介、服飾デザイナーの速水聡はやみさとし、日本一のベストセラー作家の林博臣はやしひろおみ、IT企業社長の戸塚華子とづかはなこ、スーパーモデルの南条愛なんじょうあいという面々だ。

 特待生は二十名おり性別も年齢もまちまちだ。

 最高齢は九十歳の大学院生の老人で、特待生の中では特に目を引いた。


 最初はAAAトリプルエーの面々がそれぞれ自己紹介して、次いで特待生が自己紹介する流れだ。

 鬼塚涼介は「コンビニに急ぎすぎて、階段もエレベーターも使うの忘れちゃった鬼塚涼介です。」と短く自己紹介して、その場の笑いを誘った。

 涼介は万事控えめで、他のAAAトリプルエーの面々を立てる言動が印象的だった。


 そうこうしているうちに、光の順番が回ってきた。

「池袋第二エリア中学3年の寺門光です。スピーチが思いつかなかったので、先日見た夢の話をさせてもらいます。夢の中では自分は自分ではなくなっていて、女の子になっていました。キャバクラで赤に黒の縁取りのリボンがついた、上品で奇麗なドレスを着て、男性客相手に接客していました。それが面白いお客ばかりで、楽しくて楽しくて朝まで続きました。皆さんのスピーチを聞いていて、その夢を思い出して、これが朝まで続けばいいのになと思ってました。ちなみに僕は女の子になりたいと思ったことはないし、キャバクラに行った経験もありません。テレビなどのメディアで、断片的にキャバクラの存在を知っているだけで、本当はどんな場所なのかも知りません。徹夜をした経験もないので、実際は起きていられるかどうかも怪しいと思います。実際に経験したら、どんなふうだろうかと考えてしまいました。」


 すると鬼塚涼介が「面白いんじゃない」と言葉をかけてくれたというわけだ。

 それに続く様にデザイナーの速水聡が手早くデザイン画を起こして、「そのドレスってこんな感じ?」と光たちに見せてくれた。

 光はそのデザイン画を見ると、がくがくと頷き「そうです。こんな感じでした。」と興奮気味に言った。

「作ってあげようか?」と、デザイナーの速水聡が言った。

「え……良いんですか?」光は戸惑いを隠せなかった。

「作ってもらいなよ。」と、鬼塚涼介が口添えするので、光は「よろしくお願いします」と頭を下げた。


「若い子に夜遊びのルールを教えるのも、僕ら大人の役目だと思います。良かったら有志でキャバクラに行きませんか?どうせなら日本で一番のキャバクラ嬢のいる店にね」

 鬼塚涼介が提案するとざわめきが起きたが、IT企業社長の戸塚華子が「私、キャバクラって行ったことないの。ぜひいってみたいわ。女性でも入れるのかしら?」と問うと静かになった。

「女性でキャバクラ遊びする人も多いので大丈夫ですよ」と、鬼塚涼介が応じると、自分もと応じる人数が増えはじめた。


「寺門光くん、君は当然行くよね?」と鬼塚涼介に問われて、光は「はい、よろしくお願いします」と頭を下げた。

 光のスピーチが発端なのだから、いかないとは言えないし、いってみたいと思ってもいた。

 光は意外な展開に驚きつつも楽しいと感じていた。

 一度は辞退しようとした特待生だったが、滑り出しから面白い経験ができそうだった。


 デザイナーの速水聡にメルアドを聞かれたので、光は速水としばらく会話を交わした。

 メルアドを交換しSNSでフォローしあった。

 そして、どうせだったら着られるドレスを作りたいからと速水が言うので、体のサイズを測定された。

 いつもポケットにメジャーを入れているらしく、至って手際が良かった。

 流石にプロだなという気持ちと、軽い違和感を感じた。

 だが光が違和感の正体を見極められずにいるうちに、鬼塚涼介に声をかけられ会話が途絶した。


 鬼塚涼介ともメルアドを交換しSNSでフォローしあった。

 光はドキドキしてまともに顔を見られず、挙動不審になっていたかもしれない。

「寺門光くん、顔赤いよ。大丈夫?」と涼介に言われて曖昧に返事を返した。

 そして「先日は握手ありがとうございました。僕、お礼も言わないで気になっていたんです。今日も色々フォローしていただいて、嬉しかったです。」 と、光がやっとの思いで言うと、涼介は光の肩をポンと叩いた。

 そして、見惚れるほどきれいな笑顔で応じてくれた。

 光は動悸が止まらなくなり、知らず知らずにうつむいてしまう。

 鬼塚涼介が相手だと平静ではいられなくなる。

 いつか慣れる日が来るのだろうかと心の中でひとりごちた。






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