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リプレイ~君を探して~  作者: テイジトッキ
9/27

二の生~歩~__彼女の元へ。

「いらっしゃい! ……と、いやぁ~久しぶりだねぇ」

「あ、どうも。覚えてますか?」

「覚えてるよぉ。で? 人探し……やってる?」

「はぁ、まぁ……。振り出しに戻った感じですが……」

「ま、できる事は協力するからさ。で? 生ビール?」

「あ、はい」

「はい! カウンター席、生一丁!」


 チィちゃんの実家に行ってきた。

 いきなりチャイムを鳴らす事なんてできない。

 しばらく家の前をうろついてみたが、誰にも会えなかった。

 表札はお義父さんの名前だけで、郵便受けにも家族の名前が書いてなかった。


 チィちゃんは、本当にここにいるんだろうか………。


 そう考えると、不安で不安で堪らない。

 せめて一目だけでもと、何度も家の前を行き来するが、成果は得られなかった。


「で、就活は? 順調?」

「え? はぁ、まぁ」

「何? こっちに来るの?」

「まぁ、行く行くは……そうなるかなぁ?」

「けど、ここいらにそんな会社あるかい?」

「大丈夫です。ちゃんとありますから」

「何てとこ?」

「それは、まぁ受かってからで……」

「あははは! そうかい? ま、頑張って! で、何食べる?」

「あ、ゲソとヤッコを……」

「あいよ! カウンター席、ゲソ、ヤッコ!」


 ハァ……、半年経って収穫なしか。

 ま、まず身の周りを整理する必要があったからな。

 次に、ここに来れるのはいつになるだろうか……。

 そろそろ、内定が決まる。

 これを貰えなければ、洒落にならない。


 クソ!


 焦りと不安が、俺の胸の中を掻き毟る__。


「あの……。これを」


 俺はチーフに1枚の紙を手渡した。


「ん? 沢田……。あ、この前の」

「はい。あんまり大っぴらには困るんですが、新しいバイトさんとかに聞いて貰えませんか?」

「分かった。いいよ」

「すみません。なんか……」

「……、大事な人なんだろ?」

「えぇ……。本当に大切な人なんです」

「いいねぇ。今時、そんな言葉は聞いた事がないや。で、お替りは?」

「あ、生ビールを……」

「あいよ! カウンター席、生一丁!」


 とにかく、『沢田』という家があった事だけでも、今日は良しとしよう。



「お~い! 一条。内定もらったんだって?」

「あぁ、なんとかな」

「いやぁ、急に通信系に変えただろ? 何かコネでもあった?」

「いや、全く……」

「そうなのか?」


 コネは頭の中にある。

 もうすぐ、各家庭にインターネットが普及し、幼児でさえキーボードを平然と叩く時が来る。

 そんな未来をリアルに語れるのは、多分俺しかいない。

 それを、さも自分が作り上げる未来だと熱弁する事なんて容易く、それは会社側のビジョンと合致する。

 現に2次面接では、重役らしき人が目を丸くしていた。


 貰った__!


「けどよぉ、最近変わったよなぁ、お前」

「そうか?」

「う~ん。急に何か大人びたって感じ?」


 多少、歳食ったからな。


「なぁ、久々に飲みに行くか」

「あぁ、いいな」

「実は明後日、合コンに誘われてんだ。お互い内定も貰った事だし、いっちょパアッとさ」

「あぁ、俺そういうのは……」

「なんだよぉ~。優香と別れて寂しいんじゃないのぉ? ってか、もしかしてお前! 他にイイ子ができたとか?」

「馬鹿馬鹿しい……」


 できたんじゃねえよ。元々いたんだよ。


「とにかく、合コンなら行かない」

「ちょ、ちょっと! おい、一条!」


 必死で呼び止める大崎を置き去りにして、俺はバイトに向かった。


 **** **** *******


「明けましておめでとう!」

「叔父ちゃん! あけましておめでとうございます!」

「おめでとう。良くできました。はい、お年玉」

「ぅわ~い! パパ、ママ、叔父ちゃんからお年玉もらったよぉ~!」

「ごめんなさいねぇ、歩くん」

「いやぁ、アハハハハ……」


 正直、このタイミングで正月はやめて欲しい……。

 なんて言えないけど……。

 就職の為に、スーツや靴、パソコンやら色々買ったし……。

 加えて、お年玉なんて……い、いや叔父としては当たり前の責務……なんだ。

 だが、しがないバイト生活で、これはキツイ。

 おかげで、未だチィちゃんとこに足を運べずにいる。


「へぇ、珍しいな。お前がお年玉なんて?」

「兄貴……」

「ムリすんなよな」

「んにゃ、あんな可愛いけりゃ、ムリもし甲斐あるって」

「お、お前……熱でもあるんじゃないのか? 去年は布団に潜り込んで顔も見せなかったクセに……」

「あ? はははは……は。そ、そうだっけ? ま、まぁ就職も決まったことだし……な?」


 お、俺は何て小さい男だったんだ……。

 恥ずかしい!!

 ってか、甥と姪が小っこ過ぎて笑える。兄貴も若いし……。

 そして、何より両親が元気で若々しい。

 年老いた両親を知っているだけに……何だか嬉しい。


 俺は42歳で死んだ__。

 年老いた彼らは、どれだけ悲しんだだろう。

 親よりも早く逝ってしまうことは、どんな事よりも親不孝だと聞いたことがある。

 だけど、それは俺が望んだことではない。

 しかも、孫まで……。


「パパ……。ちょっと……」

「ん? どした? ……えっ!」


 義姉さんが、兄貴に何か耳打ちしている。

 途端、兄貴の顔色が変わった。

 兄貴は、俺の横にドスンと座るやいなや、怪訝な顔をして話し出した。


「おい……。お前、どうしたんだ?」

「何が?」

「お年玉だよ!」

「え? なにか?」

「一万円って……。しかも二人共、同じ金額って……」

「え? 何? 同じじゃダメだった?」

「バカ! 違うよ! あんなガキに一万円って、多過ぎるだろ?」

「そ、そうなの?」

「お年玉ってのは、金銭感覚を養うのに大きな影響があるんだぜ。お前知ってる?」

「え? そうなの? 知らなかった」

「去年、お前が布団の中に雲隠れしたのは、正直いただけなかったが……。あれはあれで、金ってのは簡単じゃないって事を、ガキらはそれなりに学ぶんだよ」

「そ、そう言うものなのか?」

「あぁ。まぁ、今年は貰えてうれしいけど……。だけど、奴らが欲しいと思っていた物が、やっと買える程度の金額でいいんだよ。それ以上は……」

「へっ、親が没収?」

「な! ったりめぇじゃんか! け、けど、つ、使い込まないぞ!」

「アハハ、分かってるって。ゴメン……これからは、気を付けるよ」

「あ、いや……。すまん……せっかくの……」

「いいんだよ。俺……何か、兄貴を見直したよ」

「な、何言ってんだよ! 気持ち悪い」


 そうか……。

 時間(とき)は、それなりの時にそれなりの事をさせるんだ。

 身の丈……ってことなんだな。

 俺が覚えている甥達は、もっと大きかったな。

 ふっ……中学生だったか?

 欲しがる物だって、かなり高額の物だった。

 俺からの年玉で『やった! 叔父ちゃん、これで買えるよ!』って、喜んでいた。

 その嬉しそうな顔を見ると、散財し甲斐があると思っていた。

 だけど、その金額も、今のあの子達の身の丈には合わないってことか……。


 俺も、身の丈に合わないことしたんだって事が分かった。

 所詮、俺は23歳って事だ__。


 正月も終わり、就職前の休みの間にもう一度あの居酒屋に行ってみた。


「お!! やぁ、やっと来たねぇ」

「こんばんは」

「いやぁ、俺は馬鹿だったよぉ。兄ちゃんの連絡先聞いてなかったのがイケなかったぁ」

「は? 連絡って……」


 ま、まさか!


「わかったんだよぉ。この、『沢田』さんって家が」

「家?」

「そうだよぉ! 凄いだろう?」

「ま、マジッすか?」


 こ、ここは驚いておこう……。

 家は知ってるんですってば……。


「でね。知世ちゃん? いたんだよぉ」

「え……。チ、チィちゃん……が?」


 ドクンッ!


 心臓が跳ね上がった__。


「そ、それは……本当で……すか」

「あぁ、ちょっと前に入って来た女の子がねぇ。お~い! ゆっき~! ちょっと来い」


 チィちゃんが……見つかった……?


「は~い。なんすかぁ?」


 厨房の奥から一人の……女の子? が出てきた。

 ショートカットで色黒の……彼女の体つきはまるでスレンダーな男の子のような……。


「いやぁ、これでもれっきとした女の子ッスよ。彼女、ソフトボール部でねぇ。高校時代はずっと刈り上げだったらしくて、その名残りらしいんだよぉ」


 にしても……ずっとそのまんま?

 い、いや……そんなことは、どうでもいい。


「おい、ゆっきぃ。この間の話、もっかい聞かせてくれよ」

「この間? あぁ、チッチの事ッスか?」

「チッチ? そ、その子、沢田知世っていう名前ですか?」

「ん? そうですよ。うちら一緒の学校でしたから」

「え? 学校一緒だったの?」


 チーフが、いきなり引いた。


「もう! チーフ、この前そう話したじゃないですかぁ」

「だって……お前の学校って……」

「何ッスか? なんか文句あるってんッスカ?」

「あ、いや……別に……文句なんて」

「え? 学校が……何か」


 なんだ? チーフの様子が何かおかしい?


「ウチらの学校って、ここいらじゃ相当悪い女子高だったんすよ」

「え? そうなの?」

「そうだよ。って言っても、チッチは大人しいほうだった。ウチが部活ダルくなって辞めたあと、ずっと一緒に遊んでたんだぁ。ディスコとかもよく行ったよ」


 そんな話、聞いたことがない……。


「んでぇ、今はなんとかってバンド組んでさ、週末に路上ライブやってるらしいよ」

「路上ライブ?」


 そう言えば……音楽をやってたって聞いたことがある。


「うん、たしか男の子2人と……って、ウチは行ったことないんだけどさぁ」

「ゆっき、行ったことないのか? 友達甲斐ないヤツだなぁ」

「知らなかったんッスよぉ! チッチって……何かいつも違う事考えてるみたいな……一緒にいてもいないみたいな感じの子だったんだよぉ。こう……ふわぁっとした感じで……」

「掴みどころがないみたいな?」

「そう! そんな感じ! チーフ、さすがッス!」

「ふむふむ……」


 なんで……そこ、ドヤ顔になる必要が?


「で、卒業してからは、誰も連絡してなかったらしいッスよ?」

「それ程の仲でもなかったって事か?」

「わかんないッス。いい子だったってのは覚えてます。う~ん、なんか……ウチ的には、お姉さんみたいな……」

「同い年なのに?」

「ウチが勝手にそう思ってただけかもだけど。結構、好きでしたよチッチのことは」

「そうですか……。ありがとう」

「い、いえ……こんなんで良かったッスか?」

「うん。十分です。ありがとう!」

「良かったねぇ、兄ちゃん。で、何飲む?」

「え? あぁ、生ビールを……。チーフも飲んで下さい」

「えぇ! マジでぇ? じゃ、遠慮なくいただきますぅ! カウンター席、生二丁!!」


 そうか……。

 この世界に、チィちゃんはいるんだ!


 俺はカウンターの下で、小さくガッツポーズした。


「で、どこでライブやってるか知ってますか?」

「そこまでは……」

「そうですか……」

「ま、今度来るまでに調べとくよぉ。で、何食べるの?」

「あ、ゲソと……揚げ出し豆腐を」

「あいよ! カウンター席、ゲソ、揚げ出し!」


 春__。

 入社式を経て、俺は社会人になった。

 研修の為、3ヶ月ごとに各県の支店を回り、想像以上の多忙を極めた。

 レポート、議事録、改善、キャリアシート……。

 学生時代以上に、報告物が多い。

 毎日、会社でも家でもパソコンの前に釘付け。

 週休2日なんて無いも同然で、ましてや自分の時間なんて無かった。

 チィちゃんが、この世界に存在すると喜んだのも、ほんの束の間__。

 それに、チィちゃんがいると思い込んでいるだけで、俺は彼女の姿を見た訳でもない。


 本当に、チィちゃんなんだろうか?


 確かめに行けない分、またもや俺は不安に駆られ出した。


「ふぇ~、キッついなぁ」

「あぁ、ホントだな」

「学生時代が懐かしいよ。マジで」

「全くだ……」


 馬鹿野郎……。

 お前らがヌルイんだよ。

 これからは、もっと不景気になって……。

 あと3~4年もすれば、会社は組織の編成を重ね……約15年後、縮小することを余儀なくされる。

 今、団塊の世代と言われる人たちが、中心になって会社を盛り上げていた時代がもうすぐ終わる。

 融通の利かない、怠惰な人間たちの退職を、会社側は今か今かと待つようになる。

 一握りの新卒と大勢の派遣社員で会社を回し、やがて大量の派遣切りが行われ……。

 労働運動や裁判を経て……少数の人間とシステムだけで会社を運営することになる。

 恐ろしい時代が来るんだ__。

 人は、便利な機械化を進め、どんどん人を排除し、失業者が溢れ……。

 そんな時代に生き残るためには、今やっておかなければならないことが山ほどある。


 だが……そんなことより、俺にはもっと……。


「これで、いくつ支店廻った?」

「3つだ……」

「やっと、本社に戻れるなぁ」


 3つ……。約9ヶ月。

 一年近く、俺は働き詰めだった。


「休みらしい休みが、やっと貰える。お前、どうすんの?」

「俺は……やりたい事があるから」

「へぇ、何? 女? ってか、いるの? 彼女」

「いや……。まだ、そこまでは」

「ふ~ん。でも、いるんだ」

「まぁ……な」

「けどさ、こんなんが続くと絶対フラれるよな? 『私と仕事、どっちが大事なの!』なんてな」

「あははは」


 やっと、行ける。

 今週末、チィちゃんに会えるんだ。

 だか、果たして本当に彼女なんだろうか?

 いや、やめておこう。

 何も分からないうちから、あれこれ考えても時間の無駄だ。

 金曜日に出発して、まず居酒屋へ行く。

 チーフには、ライブをしている場所を調べて貰うようにお願いしておいた。

 ホテルの予約もとってある。

 金曜日の夜と土曜日の二日間で、彼女を見つける事だけを考えよう。


 そして金曜日、定時に退社した俺は、彼女の元へと急いだ__。


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