一の生__。
派手なアクション等はありませんが、もし生まれ変わったら「私は……。」を妄想しながら書いてみました。しばらくおつきあいいただければ幸いです。
「一条さん!! しっかりして! 聞こえる? 一条さぁ――ん!! 」
あぁぁ! 熱い__。
頭が__肩が__痛い__。
熱いぃぃ__。
「誰か!! 救急車! 呼んで! 早く――!!」
あ、赤ちゃん__。私の赤ちゃん。
焼ける__。お腹が熱い__。
助けて……アーちゃん!!
20〇〇年 9月14日
朝から身体がだるい。
あぁ、こんな日に会社に行くのはイヤだな……。
「お~い、俺の携帯どこだぁ?」
「下駄箱の上に置いてあるわよぉ。ハンカチもちゃんと持って行ってねぇ」
うちのダンナは、携帯をあちこちに置きっぱなしにしては『ケイタイ、ケイタイ』って探し回ってる。
それに付き合わされる私としては、ホントに必要なのかしらと疑いたくなるのも当然で。
まぁ、考えようによっては、その方がいいのかも知れない。
だって、友人のダンナは片時も携帯を離さないって言ってた。
『電話が掛かってきたら、いちいちベランダに出るのよぉ。どう思う?』
『なんでぇ? って、 訊いてみた?』
『仕事の話だからだってぇ。得意先からとか……』
『ふ~ん、営業職ってそんなに電話かかって来るもんなの?』
『わかんない。でも、時間外だったら掛けてくる方も遠慮しろってのよねぇ』
『ホント、ホント。うちは作業者だし、そんな事はないってか……。あの人が電話してるのって見たことないわ』
『うそぉ。全然?』
『う~ん、家の電話で話してるのは見るけど……』
『やぁだぁ~、それって節約?』
『ううん、お義母さんから掛かってくるときだけ』
『なぁんだぁ』
最近、友人に子供が生まれたので、お祝いがてら訪ねた時の会話だ。
私なら、絶対“浮気”を疑ってしまう。
友人のダンナは、たしかにイケメンだが、私のタイプではない。
友人には悪いけど、私はあんなチャラチャラした男はイヤだな。でも、あのチャラさ加減が営業に必要だとしたら仕方ないか。
現に、友人の話では支店の営業成績はいつも3位内だとか。何ヶ月か前、1位になった時ブランドのバッグを買ってもらったと喜んでいた。
「行ってくるぞぉ」
「あ、はぁい」
パタパタと玄関に向いながら、廊下の壁にかかっている鏡に映った自分の顔を横目で見る。
あちゃ、髪がボサボサ……。
両手で簡易的に髪を整えながら、ダンナのいる玄関に……。
「いってらっしゃい」
「あぁ、行ってきます」
ふと下駄箱の上を見るとハンカチが置いてあった。
「ほらぁ、また携帯だけ持って。せっかくハンカチとセットにしてあるのにぃ」
「あぁ、そうか、そうか……。ごめん、気をつけるよ」
「今度から、携帯の上にハンカチ乗せとくね」
「はは、そうだな。そうすれば一掴みだからな」
でも、きっとハンカチの下の携帯が探せなくて“ケイタイはぁ?”なんて、叫ぶんだろうけど……。
「じゃ、そうする」
「ん? おまえ、顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「え? あぁ、うん、大丈夫よ。きっと生理が近いんだと思う」
「そうか? 会社……休めよ」
「まさかぁ、そこまでじゃないわよぉ」
「そうか? 無理すんなよ」
「わかった。ほら、早く行かなきゃ」
「お、じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ダンナ様は優しい。凄く、凄く、優しい。
チョットの事でも、あんなふうに気遣ってくれる。
高卒フリーターの私が彼と知り合ったのは、バイト先の居酒屋だった__。
当時、私は2つのバイトを掛け持ちしながら、バンド活動をしていた。
私は、一応ボーカルだったけれど、キーボード担当の男子の方が歌は上手かった。
ギターとキーボードは男子、紅一点のわたしがボーカル……。
パッとしない組み合わせだったけれど、キーボードの彼のプロ志向に引っ張られ、それでも私なりに頑張っていた。
だけど、ある日、
『オレ……。本気でプロ目指したいんだ。だから、東京に行く』
キーボードの彼が言った。
私には、『お前らと一緒にいたら、いつまでたってもプロにはなれない』と聞こえた。
『オ、オレも行くよ!』
ギター担当の彼が、追いかけるように言った。
すると、キーボードの彼が私の方を見て、
『知世は? どうする?』
と言った。
『ア、アタシは……。多分、親が許さな……い、と思う』
『そっか……。そうだよな……。女の子だもんな』
『ま、一応ね……』
圭太の方が歌は上手い……。
なのに、私がボーカルだなんて……。
そんなバンド、世間に通じるハズないよ。
当時、22歳の私が『女の子』を理由に、前に進むことを諦めた瞬間だった__。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『え~、今日は新入社員の歓迎会です。新社員たちは固くならず、和気藹々で先輩達と交流を深めてくださ~い。先輩方も、あまり苛めないでやってくださいねぇ。それではカンパ~イ!』
“カンパ~イ!!”
毎年、3月、4月は、居酒屋は送迎会でごった返す。
今年も、そんな時期がやってきた。
去年、新入社員だった人が今年は幹事でカンパイの音頭を取っていたり、先輩風を吹かせて後輩に絡んでいる。
今、ペコペコ頭を下げながら杯に並々と酒を注がれている新入社員が、来年にはああなっているんだろうと、空になった食器やグラスを下げながらそう思った。
圭太とタカシが東京へ行ってから三年が過ぎた。
最初の頃は、ラインやメールのやりとりでお互いの近況報告し合っていた。
けれど、時が経つにつれ話題にズレを感じるようになった。
バイトしながらオーディションを受けまくっている彼ら。
小さな喜びと落胆の日々……。
いつもスタジオを借りる金がない、生活も侭ならないと嘆いている彼ら。
けれど、そのメールには輝きがあった。
しだいに、連絡が途切れがちになり、今では彼らの名前はラインメンバーの下の方に移動した。
私は何の為に働いているのだろう。
バンド時代はスタジオ代や、ライブのチラシ作成や、ステッカー、Tシャツまで作った。
そんなこんなで、お金は飛ぶように出て行った。
その為に掛け持ちしたバイトだが、なぜか今でも続いている。
しかも、2つとも……。
ブランドには興味がない。
服もGパンにTシャツ……。冬になったらパーカーの上にダウン。
女のクセに着たきりスズメもいいとこ。
バンドを辞めて、パチンコにハマった。
強いて言えば、パチンコの為にバイトしてるって感じ。
だけど、私って博才ないのよね……。
けれど、台の前に座っていると落ち着く。
何も考えなくてもいいこの時間が、私にはちょうど良かった。
何も考えず、ただパチンコ台の演出に魅入る。
現実逃避そのもの__。
『チィちゃん、今週の土曜日入れる?』
居酒屋の店長がシフトの空を埋めようと、相談してきた。
『土曜日は……』
『あ、あっちのバイトかぁ』
『なんですよねぇ』
『じゃ、しかたないなぁ。う~ん、予約3件も入ってるから、チィちゃんがいてくれたほうが助かるんだけどなぁ』
そう、これでも私はこの店では古株で、結構アテにされている。
そりゃ、4年も同じ事やってたら当たり前のことかもしれないけどね。
『すみません。お役に立てなくて……』
『いいよ、いいよ。チィちゃんは良くやってくれてるから、まぁ今回は他当たってみるわ』
土曜日はスナックのホステス。あまり行きたくないバイト。
圭太達が東京へ行った時、店を辞めさせて欲しいと願い出たが、女の子が足りないから次の子が入ってきたらという約束でいたのだが……。
新しい子は入って来ても、すぐ辞めてしまったりして呼び戻され……。
そんなことが繰り返されるうち……辞める事を諦めた。
今では、真実……惰性。
土曜日の朝、生理が始まった。
『クゥ。痛ぇ――!』
生理痛__。
13才から始まった月のモノ。
毎度、毎度、この痛みには悩まされ続けてきた。
おかげで鎮痛剤は必ずカバンか財布に忍ばせてある。
今ではマニアと言われるくらいの種類を所持している。
『他の目的に使うなよぉ』
『使わないよ!』
以前、鎮痛剤とコーラを飲んで、少しラリったことがあった。
それ目的ではなかったけれど、たまたま飲む量を間違えたのと、手元に水がなくコーラがあっただけ。
頭がボーっとして、眠いのかどうか分からなかった。
フワフワとしながら人の話を聞いていると、その人の顔がいきなり幾何学模様のマンガに変化した。
私は急にケタケタと笑い出したと……周りの友達が言った。
『もしもし、ママ? 生理が始まっちゃってぇ』
『ふぅ、休みたいのねぇ?』
『ごめんなさ~い』
『いいのよ。アンタには無理言ってるからねぇ』
ウォシ!
『店長、今日のシフト埋まりました?』
『あぁ、なんとかねぇ。えっ? もしかして入れるの? なら、来てよぉ。チィちゃん来てくれるんなら嬉しいよぉ』
『そっすか? じゃ、行きます。けど、ラストまでは……ちょっともたないかも』
『ありゃ、なんだアレなのか? 大丈夫?』
『大丈夫ッスよ。酒飲まされることと思えば楽勝ッス』
『そうかい? じゃ、ラス前まで頼むわ』
『ウィっす!』
時給を考えれば、スナックの方が断然いいに決まってる。
でも、仕事の内容を比べると居酒屋のほうが好きだ。
身体の調子を考えると両方行きたくないけど、一日の収入をゼロにするわけにはいかない。
昨日……パチンコ、2万負けたしな……。
さぁ! 仕事、仕事!!
『おはようございま~す!!』
―――ドン!!
店の扉を開けた拍子に、扉にもたれていたのだろう人が倒れてきた。
『うわ! す、すみません! だ、大丈夫でか?』
『い、いえ、大丈夫です。ボクが扉にもたれていたから』
ヤッパリ……。
『あ、ご予約の方ですね?』
『あ、はい。ナカイという名前で予約してあるって……』
『ナカイ様ですね……。えっと……』
予約帳をめくっていると、どうやら同僚らしき人が駆け寄ってきた。
『お~い、一条、奥だって。ここ、真っ直ぐ行って突き当りを右。オレ、ちょっとトイレ』
『あぁ、サンキュ。わかった』
その人はニッコリ笑って会釈すると、宴会場に向かった。
今年の新卒かな? にしては……年上みたいだったけど。
宴会は殆どが飲み放題だから、追加注文が半端ない。
ビールにウーロン茶、焼酎の水割り、『芋ですか?麦ですか?』何度も繰り返される会話。
飲み方題で90分__。
それが、3席一斉に始まる。
ちょっとは時間ずらしてくれないかなぁ……。
あ、ずらしても一緒か。
生ビールサーバの前で、次々に運ばれてくる空ピッチャーにビールを注ぐ。
『あの……。すません』
不意に、さっき扉でぶつかった男の人が、暖簾をたくし上げ顔を覗かせた。
『あ、どうしました?』
『すみません……。あの、バンドエイドみたいなのありますか?』
『えっ? もしかして、さっきのでケガしました?』
『い、いえ……。トイレの扉の金具で……』
『へ?』
翌土曜日。
私はスナックのバイトに入った。
『チィちゃん。今日は山崎さんとこの予約入ってるからお願いねぇ』
『はぁい。何名様ですか?』
『う~ん。7~8人って言ってたけどぉ』
『わかりましたぁ』
歓送迎会ですか……。
“歓迎”は、分かるけど……。“歓送”の意味が分からん。
喜んで送る? 送られて喜ぶ? 辞める方が喜んでいるのか、残っている方が喜んでいるのか……。
後者だったら、辞めて貰ってせいせいしたぁってとこ?
『いらっしゃいませ~』
『あ~ら、山崎さんいらっしゃ~い。今日はありがとうございます。何人さん?』
『6人だ。よろしく頼むよ』
『チィちゃ~ん。6名様で~す』
『はぁい』
6人分のおしぼりとグラス、アイスにミネラル……。
『おお! 久しぶりだな知世。珍しんじゃないか?』
『そんなことないですよ。山崎さんが土曜日に来ないから会えないんですよぉ』
『おまえ、金曜日に出勤しろよ』
『じゃ、毎週来てくれますか?』
『毎週は……』
『なら、ムリです。金曜日は命かけてますから、私!』
と、言いながらガッツポーズする私に向かって、山崎さんが二ヤッと笑って、
『これか?』
と言いながら、右手でパチンコ台のハンドルを持つ真似をした。
『当たり!!』
『ったく~。ヤメとけ、ヤメとけ! そんなもん、何の実にもならん』
『いいんですよぉ。私の心を癒してくれるのは、あの高揚感だけなの!』
『それと、同時に絶望感も味わうけどな……』
『あぁ!! それを言わないでぇ!!』
まったく、山崎さんの言う通りだ。
パチンコというのは、高揚感と絶望感が背中合わせ。
まるで、ジェットコースターに乗っているような感じなのだ。
『いらっしゃいませ。ようこそ……』
1人1人にオシボリを手渡す。
こういうとこ初めてなのかな、みんなチョット緊張しているように見える。
ん?
『い、一条さ……ん?』
『えっ? は、はい。そうですけど?』
『山崎さんの会社の人だったんですか?』
『はぁ、そうですが……。あ……の、どちら様……でしたか?』
あ……。
分からないのね……。
『え……っと、バンドエイド……』
『バンドエイド? ……え? あっ! あぁ――!』
彼は大声で叫び、私を指差しながら立ち上がった。
いやいや……。
大袈裟ですってば……。
『ひゃ~、化けるもんですねぇ』
『あ~はははは。一条、そんな言い方はないだろう』
まったくだ……。
今、やんわり傷ついたよ。
『す、すみません』
と、前置きが長かったけれど、そんな感じで私達は知り合いから友達になり、友達から恋人になった。
初めて会った時から6年目で、一条 歩は私のダンナ様になった。
彼は、某通信会社の工事者で、電柱に登って仕事をしている。
電柱なんて、今まで興味がなかったうえに、邪魔にさえ思うときだってあった。
それが、今では生活を支えてくれている。
結婚して5年__。
私達には子供がいない。
ダンナはどう思っているのだろう。
去年、弟さんが結婚した。デキ婚……。
なので、結婚して半年で子供が生まれた。
お義母さんは大喜びで……、
『知世ちゃんは焦らなくていいから』
だと。
ベェ~だ!
散々、プレッシャー与えといて。
あっちに孫ができたら、ポイかよ。
あぁ、だけど……今日はなんだか……ひどく気分が悪い。
明日、病院に行くか……。
20〇〇年 9月15日
「おめでとうございます! 5週目に入ってますよ」
「へっ? ご、5週目?」
「そうですよ。生理は不順な方ですか?」
「え、えぇ、まぁ」
「出産予定は、来年の……」
う、うそ……。
できた? あ、赤ちゃん?
私の赤ちゃん!!
やったぁ!!
オーケー! オーケー! オーケー!
キャー! 嬉しい!
えっ? ここに? 赤ちゃんが?
私はそっとお腹を擦ってみた。
う~ん。実感ないなぁ……。
でも……デキたんだぁ!!
「もしもし……アーちゃん?」
「チィちゃん、どうしたんだ? 仕事中に電話なんて……。今日、病院行ったんだろ? 大丈夫か?」
「う……ん。だから……今日は早く帰ってきて……。私……心細くて……」
「わかってるよ。さっき残業も断ったんだ。何か、食べたい物とかあるか? 買って帰るから、寝てろよ」
「食欲なくて……。アーちゃんが帰って来てくれるだけでいい」
「わ、わかった。もうすぐ終わるから、1時間くらいしたら家に着くよ。それまで、辛抱してくれな」
「うん、ゴメンね。アーちゃん」
「何、言ってんだよ。馬鹿だな」
よっしゃ~!
これでベリー・サブライズの御膳立てはできた!
テーブルに花なんか飾っちゃったよぉ。
ケーキも買ったし、今日はアーちゃんの大好物だらけ~。
これから、この子の為に頑張ってもらわなくっちゃだからね~。
アーちゃん……。
喜んでくれるかな……。
――ガチャガチャ。
あ、帰って来た!
電気、電気……を、消してっと。
あ、クラッカーっと。
――ドタドタドタドタドタ。
「チィちゃん! 大丈夫か? チィちゃん!!」
――ガラッ!! パチ。
パパパ~ン!
「おっかえりぃ!」
「へ? チ、チィちゃ……ん。何? なに?」
アーちゃんは豆鉄砲を食らったみたいな顔をして、私を見た。
「デヘヘヘェ。ちょっと、脅かしてみたかったんだぁ」
「脅かして? 俺を?」
「うん。ごめんね、ごめんね~。最近、夫婦間のマンネリを感じてさぁ。こりゃイカンと思って……って、どうしたの? アーちゃん」
彼を見ると、俯いて膝の上で拳を握りしめながら、ワナワナと身体を震わせていた。
へ? もしかして……怒った?
やり過ぎたかぁ?
「チィちゃん!! 俺がどんなに心配したか分かってるのか!! こんな真似して……俺が、俺が、俺が……」
「アーちゃん……」
彼は目に涙を溜めながら、真っ赤な顔をして私を睨みつけた。
「チィちゃんが……、おまえがいなくなったら、俺は、俺はどうやって生きて行けばいいんだよぉ」
「アーちゃん……。何、言ってんの? そんな大袈裟な……。うそ、ゴ、ゴメン……」
うそ……。
アーちゃんが、そんなふうに思ってたなんて……。
私は彼の思いが意外過ぎて、逆にあ然とした。
すると、アーちゃんが腕を伸ばしてきて、私の身体を抱きしめ、
「身体は大丈夫だったんだな? ホントだな?」
私の身体中を擦りながら、『痛いとこはないのか?』と確認した。
「うん、大丈夫! 食欲もあるし、一杯食べるよ。それに、これからは2人分食べなきゃだし」
「そりゃ、食べ過ぎだぁ。せめて俺の分くらい残せよ……って、えっ?」
「んふ♡」
私はニッコリ笑って、ピースした。
「ま、まさか……。マジ? ガチ?」
「うん! マジで、ガチで、ここにいるよ!」
私はそっとお腹に手を当てて見せた。
「バ、バ、バンザ~イ!! バンザ~イ!! バンザ~イ!!」
彼は思わず立ち上がり、万歳三唱!
それが、あまりにもお約束過ぎて……嬉しかった。
「アハハハハ……ハ!! アーちゃん、落ち着きなってぇ!」
「バカ! こんな嬉しい事、落ち着いてられっかっての! バンサ~イ!!」
アハハ……。
アーちゃん……ありがとう。
私、頑張っていい子産むからね。
翌日から、アーちゃんは大変だった。
ちょっとしたことでも私を心配したり、家事の大半をこなしてくれた。
彼がこんなに過保護になるなんて思わなかった。
子供が生まれたら、いったいどんな父親になるんだろう。
まったく、先が思いやられるよ……。
20〇〇年 9月30日
朝のゴミ出し__。
所定の場所に、ご近所の奥さんと娘さんのミチルちゃんがいた。
「おはようございます」
「あ、おはよ……ざいます。コンコン……」
「風邪ですか?」
「ええ、ちょっと頭が痛くて」
「熱、あるんじゃないですか?」
「少しだけね……。でも、大丈夫よ。それに今日、集団登校の付添いだから行かなくちゃ……」
咳き込む奥さんの横で、ランドセルを背負ったミチルちゃんが、心配そうにお母さんを覗き込んでいる。
そうだ……。
「よかったら……私、行きましょうか? そんなんじゃ無理ですよ」
「いいわよ。大丈夫よ」
「いいじゃないですか、今日くらい。ね? ミチルちゃん?」
「うん! 私、チィちゃんと行くよ、ママ」
今まで暗い顔をしていたミチルちゃんの顔が、パッと明るくなった。
「もう、この子ったら……。そう? じゃ、お願いしようかな?」
「帰ったらお家、覗きますから寝ててくださいな」
「ええ、ありがとう。気をつけてねぇ」
「「いってきま~す!!」」
ここの地区は子供が多くて、おまけに国道沿いに学校があるから、毎朝交代で親御さんたちが集団登校の見守り隊を組んでいる。
んふ♡ うちの子も将来は仲間入りさせてもらうんだから、予行演習さね。
「みんな~、ちゃんと手を繋いではみ出さないようにねぇ。大きな子は小さな子の手をしっかり持ってるのよぉ」
学校までの道のりは、殆どが道路沿いでガードレールも整備されている。
だが、一か所だけそうでない道があった。
道幅が狭いうえに歩道と道路の境目がなく、そのくせ交通量が多いせいで子供たちは壁にへばりつくように歩かなければならない。
「ミチルちゃん、気を付けてね。壮太くん、よっちゃんと手を繋いでぇ」
あと10m程で広い道に出る。
ここが正念場ってとこね。
あの角を曲がると、学校の正門が見えてくる。
その時__。
――キキーッ!!
キャー!!
ワーーー!!!
交差点に凄いスピードで突っ込んできた一台の車が、ハンドルを左に切った。
だが、その早すぎるスピードに、車は上手く回り切れず。
もの凄い勢いで、集団登校の子供たちの列に突っこんできた__。
―――あ、危ない!!
一瞬ではあったが、蜘蛛の子を散らすように子供たちは離散した。
けれど、突然のことに足が竦んでいる子がいる__。
「ミチルちゃん!!」
「「きゃー!!」」
―――ドォーン!! ガシャーン!!
「キャー!!」
「イヤー!」
「エ~ン、エ~ン……」
「きゃー!! 一条さん!! 一条さん!! 一条さーーーん!!!」
「ミチルちゃん! ミチルちゃーーん!!」
「あ~ん、ママ~!!」
「痛いよぉ、痛いよぉ」
あ……、ど、どうなったの? ミチ……ル……ちゃ……ん。み、みんな……。
あ、頭が……痛い……。
足が……、肩が……。
あ……赤……ちゃ……ん。
ピーポーピーポー ピーポーピーポー……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……。」
ん? なに? 誰か……が、話してる。
アーちゃん?
「……って来られました」
なに? 誰か来たの?
その時、頭の中でシューっと大きな音がして、目にいきなり眩しい光が射し込んできた。
わっ、 眩しい!
あまりの眩しさに、思わず目を瞑る。
そして、もう一度恐る恐る瞼を開いた__。
え……。
「……という事で、今日からこのクラスの一員になった沢田知世さんだ。みんな宜しくな。沢田さん? さぁ挨拶して」
いきなりポンと肩を叩かれた私は、何が何だか分からなかった。
「え? 私……えっ? 沢田って……」
「どうした? 緊張してるのか?」
キンチョー?
ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待てーーー!
なに? このシュチュエーション……。
沢田って……、私の旧姓じゃないの。
―――イッ!!
せ、せ、せいふくぅ?
しかも……ちゅ、中学生の……。
私は改めて隣に立っている人を見上げ、絶句した__。
こ、こ、こ、こに……小西……先……生?
「あ、あぅ……あ……ぅ」
「おい! 沢田、どうした! 気分が悪いのか? おい!」
「あ、あ、あ……」
あまりのショックにフラついた私を、小西先生は慌てて支えた。
私はその肩越しに、そっと周りを見渡すと。
こ、こ、ここは……。
中3のときの……教室。
み、皆が私に注目している__。
えぇぇ! いったい、どうなってんのぉーーーー!!!!