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プロローグ 始まりと夢物語

 それは昔々の記憶……雨の日に見た幻なのか、子供のただの錯覚なのか、分かりはしないが今少し、お付き合いして、いただきます。


不思議の国の少女の話、この前母から聞いたけど、多分ここのことだろと、少年は一人心の中で、つぶやき深い森を行く。


しとしと寂しく降る雨は、大人にとっては肌に触れ、うっとうしいとつぶやくものだが、子供にとっては雨さえも、空から水が落ちてくる……奇跡のような大きな不思議。


どうしてそうなるのかはわからない。


分からないからこそ面白い……少年はそれを楽しんでいる。


それほど彼は幼くて……それほど彼は無知だった。


~戻っておいで、迷子になるよ~


親切過保護な森たちが、迷子を止めよと枝葉を揺らすが、子供に声は届きはしない。


形を変える小さな道は、色を変えてく不思議な花は、道行き踊る茶碗や壺は、子供にとっては宝箱。


恐らくきっと帰らずに……恐らくきっと帰れない。


たどり着くのは小さな集落、田んぼがあって畑があって、お空は色をあくせく変える。


住んでるものは少し怖くて、だけどもとっても暖かい。


角が生えてるおじいさん、手がたくさんあるお兄さん、ベロが長くて首も長くて。


みんな違って面白い。


炎がうなる鉄の家、古びた家のお姉さん。 狐の姉さん火の玉操り、スズメと遊ぶ鬼ごっこ。 

忘れちゃいけない大家さん……彼はどれだけいただろう。


彼はどれだけ遊んだだろう、止まった時のその中で。


彼は記憶を募ってく。


子供は一人無邪気なままに、神に愛され神隠し。


そんなある日の出来事だった……彼はとうとう鬼に合う。


その時子供は一つを貰い。


その時鬼は、全てを捨てた。


さぁ……もう目を覚ます、時間だよ。


                忌み無し荘へいらっしゃい

                    ◇


「また……あの夢か」


そう僕は呟き、電車の窓の外から田園風景と背の高いビルの入り混じった光景をみる。


眠っていた時間はほんの数分だけだったのか……それとも眠っている間だけ電車が止まっていたのではないかと思うほど、あいも変わらず目前には代わり映えのしない風景が広がっている。


都会であれば、窓の外の景色というものはすぐにその表情を変えるというのに、目前に広がる光景はゆっくりとその表情を変えていき……僕は少しうんざりして窓から目を離し、ポケットにある携帯電話に手を伸ばし……充電が切れてしまっていたのを思い出して、何も取りださずにポケットにしまいなおす。


「はぁ……前途多難」


見たことのない土地に……見たことのない風景。


昔一度来たことがあると言われたが、もはや記憶に残らないその光景にため息をついて、僕は一度瞳を閉じて夢の内容を思いだそうとする。


もう何度目だろうか。


同じ夢を見ている……それだけはわかるのに……この夢の内容を思い出すことができない。


楽しい夢だった気もするし……悲しい夢だった気もする。


ぼんやりと頭の中で同じことが夢の中で起こっていることはわかるのだが、その内容を理解しようとすると……急に靄がかかったように消えていく……。


そんな夢を……子供の時から見続けている。


「最近……見る頻度が多くなった……ような?」


夢の内容を思い出すのを諦め、僕は再び座席の背もたれに背中を預け。


【次は~ 桜花~ 桜花~】


「あっ……降りなきゃ!?」


同時に目的地への到着を告げるアナウンスに飛び上がり、申し訳程度の荷物しか入っていないバックパックをもって目的地である桜花駅で下車をする。


                         ◇

【桜花駅】


立派なのだが、人の全くいない駅の中を抜け、階段を下りて目的地である桜花高等学校のある、東口駅前ロータリーに僕はでる。


感想は一つ……何もない。


駅前ロータリーとは名ばかりであり、バスはなくタクシーは一台と、乗用車が一台だけ。


コンビニはなく、あるのは無駄に大きな時計ただ一つ。


見回してみると、人はまばらに歩いてはいるが、電車の止まった夜にこの街がどのような姿になるのかを想像するだけで寒気がしてしまう。


「とんでもない所に来てしまったな」


そんなことを考えていると。


「おおおう!! こっちだ、こっち! 少年!!」


なにやら大声が響き渡り、止まっていた一台の車から一人の男性が現れ、手を振りながらやってくる。


その男はタンクトップ姿に濃ゆい眉毛のおじさんであり、愉快そうにこちらへと走ってくる。


駅で待っているとは言っていたが……。


「えと……初めまして……もしかして」


「ああそうだ! 俺がお前の担任になる熱血教師! 郷ヶごうがさき 一考いっこうだ! 遠い所からわざわざご苦労だったな!!」


車から出て数秒だというのにもうすでに汗をかいているその人は、僕がこれから通うことになる桜花高等学校の教師であり、僕の担任になる人であるらしい。


熱血教師を自称する人間を僕は初めて見た。


「その……鬼崎きざき 青一郎せいいちろうです……よろしくお願いします」


「青一郎か!! いい名前だな!! おう、乗れ乗れ! 学校まで乗っけてってやる!」


「失礼します」


大声でしゃべりながら助手席と荷台のドアを開けてくれる郷ヶ先先生に僕は一度会釈をし、荷物を載せてから車に乗り……ともに目的地である、桜花高等学校へ向かう。


「駅から遠いんですか?」


車に揺られながら僕は問うと、郷ヶ先先生は首を振り。


「まぁ、歩いて三十分ほどだな、走れば十五分くらいだが……荷物があると聞いたからな、車で来て正解だったよ……まさか一人で来るなんてな……連絡では保護者も同席するって話だったんだが」


「……叔母は、その……体調不良で、遠出ができないので……今回は一人出来ました……連絡ができなかったのは、申し訳ございません」


僕は嘘をついて、その場をごまかす……自分でも下手だなと思う位わかりやすい嘘だったが。


「そうなのか!? それは大変だな!!」


この郷ヶ先という人物は疑う欠片も見せずに本気で叔母を心配した。


「……しかし急に転校することになって、しかも一人暮らしだなんて大変だな!!」


「ええ、家で色々ありまして……こちらの桜花高等学校にお世話になることに決めたんです」


「うんうん……うちの学校を選んだのは正解だ!青一郎! うちの生徒は良いやつばかりだ!! みんなまっすぐで芯が通っている! 前の学校の友達と会えなくなるのはさみしいかもしれないが! 君にもすぐに親友ができるさ!! 今日は休みだから、今日すぐにというのは難しいだろうがな!」


「……前の学校に……友達なんていなかったですけどね」


「ん? なんか言ったか?」


「……楽しみです」


「そーかそーか!! おっ……ついたぞ!」


楽しそうに笑う郷ヶ先に対して僕は一つため息をつき、目的地である桜花高等学校へと到着をした。


「ここが……桜花高等学校」


どこにでもある普通の高校……校舎は何も特筆することは一切なく……普通と違うところは、周りが田んぼに囲まれていることと……異様なまでに校庭が広い……それだけだった。


                    ◇

「おう、これから校長室に行くから、靴は適当に空いてる下駄箱に入れておいてくれ」


「わかりました」


校内へ入ると、そこにあるのはいたって普通の学校の光景……。


少し想像と異なっているところがあるとすれば、立て直したばかりなのか、校内が想像以上に綺麗であること……もっと落書きだらけ、床も壁もボロボロな校舎を―――――偏見が強いことは自覚している――――想像していたが、その点はいい意味で期待を裏切られた。


「こっちだ……はぐれるなよ? 広いからな、内の高校は」


「ええ……そうみたいですね」


少しあたりを見回すだけでも、廊下の長さも道幅の広さも、僕が通っていた高校の何倍もの広さがある。


下手をすれば車も走れるんじゃないかこの学校。


そんなことを考えながら、僕は郷ヶ先に連れられるまま入り口脇にある階段を上がっていく。


「校長室は三階だ……まぁ、もう行くことはないだろうから覚えなくてもいいぞ」


カラカラと笑いながら郷ヶ先は階段を上っていき、僕は少し遅れてついていく。


と。


「?」


踊り場に設置してある鏡に僕は目を取られる。


どこにでもある、踊り場にかけられている鏡……ただの鏡ならば、僕もそんなに気にかけることもなかっただろうが……。


だがその鏡は……紫色に怪しく輝いていた。


「なんだろうこれ?」


古く変色しているかのようなその妖しい輝きは、新しく綺麗な校舎とは不釣り合いであり、僕はそんな不思議な光景に……何となく……本当になんとなく、手を触れる。


と。


「……あれ?」


一瞬……瞬きをしようとしたほんの一瞬だったが……鏡に映る僕が笑ったようなきがした。


目を再度開くといつもと変わらないけだるげな表情の自分が映っている。


「おーい、何してんだ―?」


階段の上から、郷ヶ先が呼ぶ声が聞こえる。


「……気のせいか」


そう僕は一人つぶやいて……僕は特に気にすることはなく郷ヶ先を追いかけるのであった。




                       ◇


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