GODIVAVAVA
少し悲しかったよ
少し仮眠を取るべきだろうか。瞬きの回数が増えてるのが目に見えてわかるからだ。
机の端っこに置かれたティーカップの中身のコーヒーを飲み干せば眠気は一気に吹き飛ぶこと間違いないだろうが、残念ながらすでに冷たくなっていて飲む気は起きない。アイスティーは嫌いなのだ。
ヤニで黄ばんだ時計の針は読みづらく、視力の衰えた僕はそろそろ買い替えの時ではないかと思うのであった。
ぐっと伸びをすると、気持ちのいい音が体内に響き渡り思わず「くぅー」と声が出てしまう。
本棚に並べられた本の数々を横流しに眺める。どれも内容ははっきりと覚えておらず、かといって読書量に比例する文章力を得たかと考えると、答えは「はい」とは言えない。なんにも身に付いていないじゃないか。バターケーキを一口咀嚼し、自分を責める。口の中に甘ったるい濃厚なバターの味が広がり、それを中和すべくティーカップに手が伸びる。
案外アイスもいけるもんだな。率直な感想である。
おかげで眠気も去って僕も、もうひと頑張りしようという気になってきた。
窓の向こうの雨模様を見つめると真っ赤なレインコートを着た少女がこちらを見つめていた。
何をするわけでもなく、ただじっとこちらを見つめていた。待ち合わせでもしているのだろうか。興味深げにこちらを観察している。
カーテンを閉めるのも何か悪い気がしたので僕はそのまま作業に戻った。
一定間隔で鳴り続ける雨音は室内に流れるアンビエントミュージックと驚くほど調和していた。
幽霊なんて迷信だ。それが僕の持論だ。18年間生きてきた中で築き上げた持論である。でも、そういったものは数秒の出来事で崩れるほど脆い。天動説と地動説だとかはご立派な学者や有識者達が絶対の信頼を置いてたのにもかかわらず真っ赤な嘘であった。結局は宗教みたいなものだ。みんなが「イエス」と言えば「ノー」とは中々言えない。
面倒事に巻き込まれたものだ。
チュッパチャプスを目の前で上下に揺らす。実験心理学の専門誌「パーセプション アンド サイコフィジクス」の中にポメランツ教授が1983年に発表した論文の中に、こんなことが書かれている。エンピツの1点を持って上下に振ると、場所によって動く早さが違い止まって見えるタイミングがずれていく。この時、人間の目は棒が止まって見える部分だけをつないで見てしまうため、棒が曲がって見える錯覚が起きる。ラバーペンシルイルージョンだっけかな?やけにキザったい名前がついていた。どこで知ったのかな。
焼け焦げた食パンの臭いが鼻孔をくすぐる記憶。
白っぽい記憶。
ブラーがかった記憶。
全ては思い出せなくて、そのせいで狂おしいまでに惹かれる。
ゴーヤのグリーンカーテンの隙間から漏れだす柔らかな光。風が吹く度に風鈴の音がカランとした空間を潤す。
いつになったら幸せになれるんだろうか。僕も彼女も。逃げているだけなのだろうか。答えは出ないのは知っている。青春ってのはそういうものだ。必死になって答えを探し求めるけど、見つからなくて、どこかで燃え尽きる。灰は風と共に散っていってしまい、切ない思い出だけが残る。
―――僕らは出会うべきだ。
―――あの屋上で。
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