白い像を追っかけて
牌の実
もう少し寝させてくれ。まだ眠いんだ。頭の中でガンガンと鳴り物が跳躍してる。ヘビィメタルを流してるのならすぐにでもヘッドホンを取っ払ってくれ。
ここはどこでもない自分の部屋。
ごく普通な高校生の部屋といっていいだろう。ただ貼ってあるロックバンドのポスターは60年代に活躍したバンドだ。サーフィンボードを持って笑顔で並んでる男たちはロックバンドには一見そうは見えない。
壁はところどころ塗装が落ちていて夜になるとたまに女の顔に見えたりもする。
今日は非常に熱い。暑い。
でも、今日で学校は終わる。
そう夏休みだ。小学生の頃なんかははしゃいでいたと記憶している。ほんとはどうかは知らない。僕のことだから冷めた態度でいつも通りに登校していたかもしれない。
記憶とか思い出ってのは曖昧だ。人間の脳の構造上、忘れる機能を取り外すことはできない。アニメなどでは全ての記憶を鮮明に保持してるキャラクターが散見されるが、僕が思うに全ての記憶を保持しているほど人間の脳の容量は多くないと思う。1日24時間、視覚データに、音声データ、味覚データなどをいちいち保存していたら脳は1週間もすればパンクしてしまうだろう。どこかに断片的にログだけ残して大半のデータは消去している。復習って行為はそのログを増やして、優先的な情報を選別しているのだと思う。
そんな時に頼るのが外部の記憶媒体で代表的な物といえば本。でも、本だけでは完璧ではない。当然、細かなところは欠損している。100%から100%へ移行することは不可能で、いくら丁寧にやってもちょっとは欠けてしまう。時代が経てば経つほど正しい記憶は摩耗されていく、角がとれていって、都合のいい形になっていく。
僕の記憶も丸々で正しくはない。客観的な声でペタペタ舗装した偽りたっぷりの記憶。
タバコとライターをカバンに放り込み、家を出る。
はて、何か忘れているかな?
17時更新是非是非