原点
──だ
─き──のだ
起きるのだ
頭の中に入ってきた思考が整理されるような声に目をカッと開く
ポタポタと落ちる水の音と、少し嗄れた声。
……聞き覚えのある、声。
まわりを見渡すとセオが横たわっているのは水こそはっていないが水面のような場所だった、周りは暗い。
水面に触れると振動が伝わる、だが濡れはしなかった
この空間。
この声。
「っ……いるんだろ。」
俺が魔界にやってきた原因。あのカラカラと笑う奇妙な声。
姿は見えなかったが水面はセオの向いている方からさざ波立っていた。
「そう緊張するな、私は恩を返しに来ただけだ」
暗闇の中からゆっくりとやってきたのは
「……、猫??」
黒猫、だった
目は青く、宝石の様に光っている
耳としっぽはたっていて、凛とした佇まいは気品があった
「なんでこんな所に猫がっ……なんで猫が喋っ……」
「覚えてないか。まぁいい、今回はせめてもの報いとして教えに来たのじゃ」
眼の前の猫は俺の言うことを遮ってそう言った
意味がわからない、混乱が深まって行く
だが、セオの脳内には違うことがよぎる
「それよりお前!!俺をこんな所に連れてきて、どういうつもりだ!帰る手段も何をすればいいのかもわからない!こんなことして何が楽しい!」
この声に聞き覚えがあるのだ、俺をここに連れてきたあの声。
「ここに連れてきたのはお前だろ!?」
猫は数秒間喋らなかった
「なにか答えろよ」
「それについて詫びを入れに来たのだ」
腹の底からくる怒りと状況を整理できない混乱が入り混じった感じがする
気持ち悪い
「詫びだと……?」
「車にはねられてさ迷っていたお前の魂を私と接触してしまったがために弟に目をつけられてしまったのだ」
そうだ、
俺は車にはねられて、女の子と、猫、を、
「お前が、あの時の……?」
黒猫は見つめ返してきて続きの言葉を紡ぐ
「そのまま連れていかれると大変なことになっていたんだ、そしてこの世界に魂を結びつけて、命を与えた」
仕方がなかったんだ、許してくれ
黒猫は律義に礼をしてきた
だが、そんなことよりも気になるのは
「それで、この魔界に来ちゃったのもお前の仕業なのか?」
「いや、あいつに近づいてしまった、魔王がわざわざ出向いて来るとはなぁ」
……なに?じゃあ、サタンは俺を連れてくるための罠だったってのか?
セオは俯くと水面に映る自分と目が合った
「そう顔をしたに向けていると背後から魂を掴まれて抜かれるぞ」
「……物騒なこと言うな」
で、この猫は何を恩返ししたいっていうんだ、命を助けてもらったことか?償いって、何をするつもりなんだ
「ひとまず、魔界からあなたの体を抜けさせます」




