闇の始まり
下を見ると腹部に右上から左下にかけて大きな傷口が開いていた
「っ、……!」
傷がある、その事実を認識したと同時に寒気がして、
ドボンッ
頭まで湯船に思い切り浸かる
「……っっ!!!!!」
水の中で声にならない叫び声をあげる
広い浴槽に体全体を浸からせ、拳を握りしめる
寒気がおさまらない
水に流れ出ていく自身の血液と
温かいお湯に反比例して強まる寒気、
酸素を求めて水面に顔を出そうとするがもはやその気力もなく
口から出るのは肺に残った僅かな酸素で
全部出してしまって気づいた
ーッ
座ったら肩までしかないくらいの深さのはずなのに、その深さは海のようにも感じられた
何がなんなのかわからないまま首に付いた飾りを掴んだ
暗い光がピカッと光った
「はぁ、……っ、はぁ……」
淡い光を出しながら胸の上にあるそれを握り目を瞑った
「……っ、お前に、助けられたか……」
大きな飛沫をあげて湯船に立つのは馬に、鎧をきた騎士
首と膝の後ろにある太く硬い腕に安心感を覚えてしまうのは血を流しすぎたからか、疲れすぎたのか
「……ッありがとう……」
情けない
たかが傷一つで
『カラカラカラカラ!あくマに助ケられタ気分ハどうダぁ??』
……ッ!?
突然頭の中に不愉快な声が響く
『もゥ少しデ手にはイルとこダッたの二なァ?』
歪んだ景色があの時の闇の世界に繋がっていってしまうような感覚に陥る
おれの意識は此処にあるはずなのに
だめだ、ここで意識を手放したら、ここで気を失ったらだめなんだ……
「っ!!ー!!」
なにかに名を呼ばれた気がした、けど、って、
俺のナマエ、って、なんだっけ