エピローグ
ラルフ達が抱き合って勝利の喜びを分かりあっているその姿を、ジッと観察する姿があった。
闘技場の屋根の上――人の姿など小さく豆粒のようにしか見えない高度であるにもかかわらず、縦に瞳孔の裂けたその瞳は、ラルフ達を正確に追っていた。
『ふふ……やっぱり覚醒した<フレイムハート>は脅威以外の何物でもないわねぇ。さすが、神を殺した力といったところかしらねぇ』
まるで、太陽の光から逃げ遅れた夜の闇がわだかまっているかのような、見事な毛並みをした一匹の黒猫――ロディンである。
彼女は愉快そうに尻尾を上下させ、ラルフからアルティアへと視線を移す。
『ラルフを巻き込むつもりはない。これは私達の問題だ――アルティア、貴方はそう言ったわよねぇ』
くっくっく、とロディンは極上の喜劇を見ているかのように瞳で笑う。
『少しずつぅ、順調にぃ、貴方がその男の子を深みに嵌めていることに、気が付いているのかしらぁ? ふ……くくく』
ごろんと、ロディンはその場で寝転がると、目線だけでアルティアを眺める。
『貴方が何を思おうとぉ、<フレイムハート>を持つ以上ぅ、逃げることは叶わない。どう足掻いてもぉ、その子を中心にして運命が回り始める』
まるで、アルティアとラルフを待ち受ける運命を予言するように……ロディンは言葉を紡ぐ。
『マーレとレニスも本格的に動き始めてる……ふ、ふふふ。ねぇ、アルティアぁ? 貴方はその時が来たらどうするのかしらねぇ。貴方のその燃えカスのような力で、その子達を護れるのかしらねぇ?』
ロディンはそう言うとクッと伸びをして立ち上がる。
『いい加減に認めなさいなぁ……その子を生贄にしなければ、リュミエールを殺すことなんてできないってぇ。そうでなければ、人という種そのものが滅ぶ。くれぐれも、貴方の偽善で私の玩具達を滅ぼさないでねぇー』
そう言って、まるで霞のようにフッとロディンの姿が消える。
元々、その場には何もなかったかのように――遠くに歓声だけが響いていた。
短いですがこれにて四章終了。
後は閑話と、四勝までの登場人物まとめを終えたら、次は五章へ移ります。