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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
四章 リンク対抗団体戦~蒼穹への翼、覚醒のフレイムハート~
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不意打ち

 数分後にはセイクリッドリッターのメンバー全員が地面に転がっていた。

 ラルフを初めとする一年組は全くと言っていいほど何もしておらず、結局、アレット一人で十人全員を倒してしまった。

 戦闘というよりも狩りと言ったほうが的確なほどのワンサイドゲーム。二年『煌』筆頭という称号が伊達ではないと嫌でも思い知らされる。

 おかげで、ラルフもティアも、特訓で身に着けた成果を何一つ発揮できなかった。

 <白桜>を収めたアレットは、ラルフ達の方へ近づいてくるとニコッと笑う。


「……ちょっと溜飲が下がった」

「ああうん、それはよく分かる」


 若干引きつり気味でラルフは答えた。

 そんなラルフの傍で、ティアもまた顔を強張らせながら、乾いた声で笑う。


「普段怒らない人が怒ると怖いっていうけど……本当なのね」

「私も姉さんが本気で怒ったのを見たのは、今日が初めてでした」


 そう言うミリアの背後では、半分涙目のチェリルがガタガタと震えている。

 ラルフ達ですら背筋が寒くなったのだ、チェリルは相当怖かったに違いない。

 確かに怖かった。怖かったのだが……。


「あの、姉ちゃん。その、ありがとう」


 ラルフは少し照れくさくなりながらも、アレットへ礼を言った。

 アレットが怒っていたのは、ラルフとティアが痛めつけられたからに他ならない。

 普段はぽやぽやとして気が付かなかったが、アレットにも心配をかけていたのだと、ラルフは改めて気が付かされた。

 ラルフの感謝の言葉に、アレットは相好を崩すと、頭にポンッと手を置いた。


「……ラルフも、ティアさんも、私の可愛い後輩。何かあったらすぐ相談。お姉ちゃんが力になってあげるから」

「うん」


 ナデナデと頭を撫でられる感触を若干不本意に思いながらも、ラルフは大人しくしていたが……。


『ラルフ!』

「……!」


 ラルフの視線の先――地面に倒れていたセイクリッドリッターの一人が、アレットの背中目がけて霊術を放とうとしていた。

 そのことに気が付いているのは、現状ラルフとアルティアのみ。

 すでに霊力の収束は完了し、あとは事象を顕現するのみだ……今からアレットが反応したとしても間に合わない。


「く……ッ!」


 ラルフは目の前のアレットを突き飛ばすと、両腕を交差してクロスガードを作る。

 ここはメンタルフィールド内ではない。

 霊術をまともに浴びれば致命的なことになると分かっているが……それでも、アレットが目の前で傷つくのを放置することなどできない。


 ――できるか……いや、やるしかないッ!


 まさか、特訓で得た成果を、生死を賭す場面で使うことになろうとは。

 収束された霊力が、最も発動が早い雷となって襲い掛かる瞬間、ラルフは――


「させると思いまして?」


 突如として眼前の空間に差しこまれた翡翠色の鉄扇が、雷を一瞬にして消し飛ばす。

 それと同時に、横合いから高速で飛来した風の塊が、先ほど霊術を使ったシルフェリスの男を吹き飛ばし、壁に叩き付けた。

 予想外のことに、クロスガードを作ったまま唖然としていると、目の前で広がっていた鉄扇が小気味良い音と共に閉じられた。


「メンタルフィールド外で霊術を撃つなんて……厳罰ものですわね。鍛錬場では何があったのか映像で記録されているはず。アルベルト、職員室で先生方に報告をお願いしてもよろしくて?」

「ああ、分かった。にしても、まさかここまでやるとは。噂は誇張抜きで本当だったみたいだね」


 ラルフの目の前にいたのは、神装<風月>を構えたシア・インクレディスと、神装<ヴァリアブルスラスト>を手にしたアルベルトだった。

 見回してみれば、その他にも花鳥風月のメンバーが勢ぞろいしていた。


「ど、どうしてシア先輩たちが……わぷっ」


 ラルフの疑問は、けれど、全て言い終える前にアレットに抱きしめられる形で封じ込められてしまった。見上げてみれば、少し涙目になっている。


「……ラルフ、大丈夫? 怪我してない? ごめんね、お姉ちゃんが油断してたから……」

「その通り。油断大敵でしてよ、アレット」


 巨大な鉄扇をひょこひょこと上下させながら、シアが嘆息する。


「何をしでかしてもおかしくない連中ですわ。リーダーの貴女が最大限警戒しないでどうするのです。この子達を護るのは貴女でしてよ?」

「……言葉もない」

「ま、ここまで見境ないとは、思わないのも事実ですが」


 シアはそう言って<風月>を一回転して消し去ると、他のメンバーにも顔を向ける。


「他の方々も怪我はなくて?」


 全員が頷くのを確認して、シアは満足げに頷いてみせる。

 面倒見が良いと以前アレットが話していたが……この姿を見るに、その評価は正当なもののようだ。


「……でも、どうして花鳥風月がこんなところに?」


 アレットの疑問にシアは胸元から、普通の扇子を取出し、開いて見せる。


「リンク対抗団体戦ももう目の前ですのよ。わたくし達もメンバーの結束とコンビネーションの――」

「セイクリッドリッターと戦うからって、シアがすごい心配していたんだよ。とりあえず、様子を見に行ってみようってことで、ここまで来たんだ」

「アルベルトッ!?」


 頬を染めながら、シアが狼狽したようにアルベルトの名前を叫ぶ。

 どうやら、アルベルトの言葉の方が図星のようだったらしい……シアは気まずそうに視線を逸らし、場を取り繕うために咳払いを一つした。


「……シア、ありがとう」

「ふん、ちょっとした気まぐれですわ」

「……シアは素直じゃない。そして、どさくさに紛れてラルフを持っていこうとしないで」


 チラチラと見せられる美味しそうなクッキーに釣られそうになっていたラルフを、アレットが力いっぱい引き寄せる。


「ちょっとぐらい貸してくれても良いじゃありませんの! 丸一日、撫でまわしたり、モフモフしたりしたら、すぐ返しますわ! ……たぶん」

「……ダメ。ラルフは家の子。その言葉は信用できない」

「ぐぬぬ、けちんぼのアレット! こうなったら実力行使で……!」

「……返り討ち」


 火花を散らしながらにらみ合いを続ける二年『煌』ランクの二人、そして、それをどこか死んだ目でミリアが端から観察していた。


「そんなに鼻の下を伸ばして……所詮、男は女を胸でしか判断しないんですね、兄さん」

「ち、ちが……! てか、鼻の下なんて伸ばしてないっての!」

「ラルフのスケベ……」

「ティアまで!? わーもう!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる一団を少し遠くから見て、チェリルは嘆息しながら、倒れたセイクリッドリッターの面子を眺めた。


「でも、本番は大丈夫かなぁ……」


 臆病なチェリルだからこそ、心配であった――これほど陰湿で、執拗な相手をここまでコテンパンにしたのだ。何か報復行動があるのではないかと。

 そして、チェリルの懸念は現実のものとなる。

 リンク対抗団体戦当日――アレットが病気で寝込んでしまったのだ。


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