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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
最終章 双天樹~灼熱無双のフレイムハート~
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幕間 終世獣サイド

 双天樹の下……木漏れ日に当たりながらノンビリと草の上で寝転がって、口笛を吹いていたレニスは、接近してくる強大な霊力を感知して身を起こした。


『やー、バハムート。人間との会談は上手く行ったかいー?』


 そういってレニスが手を挙げる先……漆黒のドラゴンがゆっくりと地面に降り立つところであった。バハムートはレニスの問いに首を振ってこたえる。


『途中で暴徒と化した人の子等によって、中断されてしまった。しかし、中々に興味深いものであった。特に……あのドミニオスの王』

『あー。あの世界が産み落としたバグの事かなー? 確か……アンリミテッドとか言っていたかなー?』


 レニスが思い出すのは、浮遊大陸エア・クリアでオルフィを攫った時のことだ。

 人間が到底扱いきることのできない魔力を全身に纏い、レニスの圧縮霊術障壁を飴細工のように殴り割ったドミニオス……インフィニティーと同じく、霊力レイラインに干渉する術を持つ世界が生み出したバグ。

 名前は覚えていないが、その存在は今でもレニスの中にハッキリと刻まれている。

 だが……バハムートはそうではないと、首を横に振る。


『私が発した問いに、明確な否定を返してきた。その言葉の続きを聞けなかったことが、未だに気にかかる……あのドミニオスは、私とオルフィが知りたがっている答えを持っているかもしれない』

『ふーん』


 心底興味がありませんと言わんばかりに、生返事をするレニス。

 正直、レニスにとって人間の精神活動など心底どうでもいい問題である。むしろ、バハムートがどうしてそこまで人間の精神活動に関心を示すのか、とんと理解できない。


 ――やっぱり、僕が連れてきたインフィニティーが影響してるのかなー?


 バハムートの封印は色々と特殊であり……あまりにも巨大な力を持っていたため、肉体とは別に、その魂は霊力のレイラインの中に封じ込められていた。

 悠久の時をレイラインの中で過ごし、無味乾燥な時間を浪費し続ける中……バハムートが初めて出会った知性ある存在が、オルフィ・マクスウェルだったのである。

 ある意味で、オルフィはバハムートにとって家族のようなものであり、同時に、『情緒』を学ぶ切っ掛けともなった存在であった。今のバハムートの精神構造は、オルフィに影響された部分が非常に大きいのである。

 そのため、人間寄りな考えをするようになったのだろう。


『あぁ、そうだー。約束通り人間と会談させたんだから、掃討戦では、人間を殺してくれるんだよねー?』

『いや、まだ足りない』

『えぇ……約束したじゃないのさー』


 ゲンナリと言った様子で、レニスが眉を下げる。

 そんなレニスの事など眼中にないとばかりに、バハムートは思案気に眉を寄せる。


『あのドミニオスともう一度話をしてみたい。私の内側にいるオルフィも、あのドミニオスに微かに反応したことだ。戦いの中で、もう一度接触を持ってみるとしよう』

『ヨルムンガンドを見習いなよー。人間を殺したくて、うずうずしてるじゃないか―』


 そう言ってレニスが見上げる先……そこには、双天樹の上をグルグルと飛び回っている第Ⅷ終世獣ヨルムンガンドがいる。こうして、むやみに飛び回っているのは、レニスが行動を制限しているためだ。それさえなければ、ヨルムンガンドは今すぐにでも、人間の街へと飛んで行ってしまうだろう。


 ちなみにだが、このヨルムンガンドの動力は、浮遊大陸エア・クリアと、暗黒大陸シャドニアから奪い取った巨大なトゥインクルクリスタルである。ヨルムンガンドを起動させるため、レニスはわざわざシルフェリスとドミニオスの大陸を襲ったのである。

 閑話休題。


『もしも、ドミニオスの王との対話が不毛なものだと判断したその時は、人間を一掃することとしよう』

『ほんとに頼むよー? ま、君が出ていかなくても、こっちの勝ちは確定してるんだけどさー』


 そう言ってレニスが視線を向けた先……そこには、双天樹に寄り掛かるようにして眠る純白のドラゴンがいた。

 ふわふわと柔らかそうな純白の体毛に、側頭部から伸びる艶やかな黄金の二つの角、座っている姿ですら一枚の絵画になってしまいそうな優美な体の線……思わず目を奪われてしまうほどに美しい生き物がそこにいた。

 それは、ミリアがドラゴンへと転じた時の姿と瓜二つ……否、ミリアが、このドラゴンの姿に瓜二つなのだ。

 このドラゴンこそが、神光のリュミエール――過去、人類を滅ぼさんとした生命の母である。


『だって、リュミエールが蘇るんだからさー』


 そして、純白のドラゴンの足元……そこには、金髪碧眼に六枚の翼を持つ女性が眠らされていた。誰であろうリュミエールの転生体、ティア・フローレスである。


 ドラゴンの『肉体』と、ティアという『魂』の二つが揃った。


 ティアとリュミエールの肉体は、今、幾条もの光の帯によって繋がっており……『魂』と『肉体』の同調が進行している所であった。

 すでに全行程の八割がたが終了している……完全体となった神光のリュミエールが目覚めるのは、そう遠くはないだろう。そうすれば、完全にチェックメイドだ。

 まぁ……バハムートが目を覚ました時点で、既にチェックメイトは済んでいるのだが。


『さて、人間を殲滅した世界をどう作り変えようかなー。とりあえず、森を追われた動物達が帰ってこれるように、森を増やして、海も綺麗にしないとねー。あ、大陸を一つ増やすのもいいなー』


 勝者の余裕を漂わせて、のんびりと呟くレニス。

 確かに、どこからどう見ても、現状では人類の勝利は絶望的と言っても良いだろう。

 だが……レニスの敵は、何も人類だけではないということを、今の彼は知らなかった。

 もしも、彼がもう少し注意深ければ気が付いていただろう……。

 ティアとリュミエールの同調――そこに、微かなノイズが混じっていたことに……。


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