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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
最終章 双天樹~灼熱無双のフレイムハート~
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妻への義理

 事情を聞いている間、ゴルドは顔面を凄まじい勢いで引きつらせていたが……全てを聞き終えると、長い、長いため息をついて顔を揉みほぐした。


「なるほどな……確かに、あの事件は不明瞭な点が多かったからな。その話が本当なら、色々と合点がいくのは確かだ。そうか、今まで息子の魂を繋いでくれてたわけだ……礼を言わせてもらう、焼き鳥」

『貶したいのか、感謝したいのか、どっちだ』


 ゴルドはベッドに近づくと、ラルフを見下ろした。

 そこにいたのは、力ない表情のままベッドに横たわる息子の姿。トレードマークだった太陽のような快活さは失われ、今は砂漠のように乾いた表情を浮かべるのみ。

 ゴルドは再度、ため息をつくとこの部屋にいる面子を見回した。


「すまん、少しの間息子と二人っきりにしてもらえるか」

「……分かりました。皆、外、出よう」

「そうですね。終わったら呼んでください、叔父さん」

「おう、わりいな」


 そう言って、部屋を出ていくミリア、アレット、アルティア。そして……ゴルドの前で、ピタリとチェリルが足を止める。普段のチェリルからは想像もつかないような、皮肉がふんだんに効いた笑みを浮かべると、彼女はやれやれと肩をすくめた。


「子供が出来れば変わるってのは本当のことのようだ。まぁ、随分と子煩悩まっしぐらじゃないかね、ゴルド」


 そんなチェリルの言葉に、ゴルドは半眼になって腕を組んだ。


「話は聞いてるぞ、エクセナ。ったく、心配掛けやがって、このチビスケが」

「一人前の女性に対してチビスケとは、相変わらずデリカシーの欠片もないね。ま、心配かけたことに関しては詫びようじゃないか」

「詫びてるように聞こえねーよ。ま、無事なら良い」


 ゴルドの言葉にチェリル――否、エクセナはふふ、と笑い、小さく手を振って廊下に出ていった。長いこと会っていなかったが……まぁ、笑えるほど変わっていなかった。


「さて……と」


 ゴルドはそう呟いて、先ほどまでミリアが座っていた椅子に腰を落ち着けると、腰に巻きつけていたポーチを軽く漁った。そして、そこから真っ赤に熟したリンゴのような果実を取り出すと、自身の服で軽く表面を拭きあげる。


「腹減ってんだろ。父ちゃんのとっておきだ……味わって喰えよ」


 そう言って、ゴルドは果実にナイフを通すと、皮が付いたまま果肉を五等分に切り分けた。そして、それをラルフの口に無造作に突っ込む。

 口の中に何かが入ったと分かったのか……ラルフの口が機械的に動き、果実を咀嚼する。それを見ながら、ゴルドは次々と果物をラルフに食べさせてゆく。


「何か、ゴミ箱にゴミ捨ててるみてーだな……」


 最後に、ゴルドは軽く迷ったようなそぶりを見せた後……ついでと言わんばかりに、芯までラルフの口に押し込んだ。無論、意識のないラルフは芯も丸ごと咀嚼して胃の中に収めていった。もしも、ラルフに意識があったら激怒していた所だろう。


「実感がねーからかね。もうちっと慌てると思ったんだが……」


 息子が死んだ……そう言われても、現に目の前でラルフは呼吸をして、物を食べている訳で。冒険者になってから同業者の凄惨な死に様を見てきたせいか……まだラルフが死んだという実感がわかなかった。


「色々話は聞いたぞ。世界を救うだのなんだのと……ちょっと俺が見てねー間に、デカい事やらかしやがって」


 ほんの少し前まで、泣きベソをかいて村に戻ってきては、悔しい、悔しいと訴えていた息子が、いつの間にか世界を救うほど大きくなっていて。

 子供の成長の速さと同時に、自分がどれだけ歳を取ったのか実感したような気分だった。いつまでも若いつもりだったが、やはり歳は取りたくないものである。


「ふぅ…………」


 ゴルドは肺の中の空気を全て吐きだすと、椅子の背もたれに盛大にもたれ掛り、白い天井を仰いだ。ぼんやりと天井を見ながら、ぽつりと、言葉が漏れた。


「すまんな、アメリア。ラルフと会わせてやることはできそーにねぇわ」


 亡き妻にそう語りかけながら、ゴルドは顔をまっすぐに戻して窓の外へと視線を転じる。

 外は清々しいほどの青空。

 世界の存亡をかけた戦いは既に秒読み段階に入っているなど、誰が想像できるだろうか。


「ま、父親としての役目ぐらい果たしてみせるさ。俺が天国に行った時、せいぜいお前にビンタされないように、気張るとするか」


 そう言って、ゴルドは苦笑を浮かべたのであった……。


――――――――――――――――――――――――――――


 ゴルドがラルフの口に次々と果実をぶち込んでいるその頃。廊下に出たミリア達も、思わぬ人物と出会っていた。


「やぁ、すみません。ラルフ君の病室はここかな?」


 そう言ってミリア達に話しかけてきたのは、アッシュブラウンの髪を持ったシルフェリスの男だった。年の頃は恐らく、ゴルドと同じぐらいか……小奇麗な身なりをしており、身に着けている靴やシャツもどことなくお洒落な感じがする。

 ただ……顔には薄らと疲労が透けており、目の下には微かにクマができている。睡眠時間が足りていないのだろう。


「はい、ここであってますが……あの、貴方は?」

「あぁ、名乗っていなかったね。私の名前はブライアン。ブライアン・フローレスといいます」

「……フローレス? ということは、ティアさんのお父さん?」


 アレットが聞くと、男――ブライアンはおや? といった様子で表情を明るくした。


「まさか、こんな所でティアの知り合いと出会えるとは。そうだね、私がティアの父であっているよ。君達はティアとどういう関係なのかな?」

「……同じリンクで活動させてもらっています」

「そうかそうか。あの子もこの学院で友人を作れているようで何よりだ」


 そう言って、ブライアンは嬉しそうにニコニコと浮かべている。よほど、娘の友人に出会えたのが嬉しかったのだろう。

 ただ……その当人であるティアが、今はいない。


「あの、ティアさんのことは……」

「聞いてるよ。いや……娘を二人とも終世獣にさらわれるとは、情けない親だよ、私は……」


 二人……ということは、ティアの他にも誰かが終世獣に攫われたということなのだろう。

 どう答えたらいいか迷っていると、ミリアの隣でチェリルが首を傾げた。


「この病室を訪ねたってことは、ラルフとも知り合いなんですか?」

「ラルフ君は私達家族の恩人だからね。体調を崩しているということで、妻のお見舞いがてら、挨拶させてもらおうかと……ね」

「あぁ、これはご丁寧にどうも……」


 ぺこりとミリアも慌てて頭を下げた。


「ただ、今は先客がいまして……少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか」

「あぁ、構わないよ。それと……一つ聞きたいんだが」

「なんでしょうか?」


 ミリアがそう返すと、ブライアンは病院の廊下に張ってあった張り紙……それを指差して見せた。そこには、『私達の世界は私達で護ろう! 義勇兵募集!』と書かれた張り紙が貼られていた。


「この数日後、未踏都市アルシェールで終世獣との総力戦が行われるとのことだが……君達も参加するんだろうか?」


 その言葉に、ミリアは若干、顔を引きつらせた。

 ここではとても言えないような任務をミリアは背負っているのだが……代わりに、アレットが一歩前に出て返答してくれた。


「……はい、私とこの子達も義勇兵として出陣するつもりです」

「えっ」


 隣でチェリルが絶望的な表情をしているが、それを意図的にスルーして、アレットが更に言葉を続ける。


「……どの道、この戦いで負ければ私達の運命も決まったようなものですから」

「そうか、君達のような学院生まで戦わないといけないとはね……」


 悲しげな表情をしたブライアンだが、軽く頭を振ると淡く笑みを浮かべた。


「この戦い、私も参加するつもりだ。共に肩を並べる者として、よろしく頼むよ」

「……はい、心強いです」


 ブライアンの言葉に、アレットは笑顔を浮かべて頷いたのであった……。


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