エピローグ
ラルフとグレンの激闘から五日後――各国のトップがフェイムダルト神装学院に集まっていた。わざわざ、転送陣を使っての緊急招集である……それは、それだけ事態が切迫しているということを意味している。
「事の顛末は以上だ」
そして、その中央……そこで、今、グレン・ロードが罪過の森で見て、聞いたこと全てを語り終えたところだった。グレンの言葉を聞いて、誰もが黙り込んでしまっていた。「何をバカなことを!」と笑い飛ばすには、あまりにも質が悪すぎる。
誰もが黙り込む中、ビースティスの代表――フェリオ・クロフォードが、頭痛を堪えるように顔をしかめながら、静かに口を開いた。
「つまり……レニスという終世獣を先導している者が、大型終世獣二体と未踏大陸ファンタズ・アル・シエルに生息している中・小型終世獣全てを率いて、攻めてくる……と」
「そうだ。しかも、近日中に」
次に手を上げたのは、メガネをかけたマナマリオスの男だ。イスファ・ベルリ・グラハンエルクの代わりに出席している研究者であり、マナマリオスの国立研究所の次長らしい。
「その大型終世獣二体というのは、どういったものなのでしょうか?」
グレンはその言葉に頷き、大机の中央に未踏大陸ファンタズ・アル・シエルの地図を広げながら口を開く。
「一体は第Ⅹ終世獣バハムート……そう呼ばれる漆黒のドラゴンだ。話に聞くところによると、能力は今までの大型終世獣が可愛らしくなるほど高いらしい」
「ひっ……」
過呼吸のような息遣いをする男を一瞥した後、グレンは地図のちょうど中央……双天樹とそれを取り巻く山脈を指差した。
「そして、もう一体は第Ⅷ終世獣ヨルムンガンド……この山脈だ」
『は?』
この場にいる全員が素っ頓狂な声を上げた。それを聞いたグレンは、予想していた通りの反応が返ってきたとばかりに、肩をすくめる。
「信じられない気持ちも分かる。だが、事実だ。なんでも、ヨルムンガンドは余りの巨体に封印が追いつかず、眠りにつかせたまま放置されていたらしい。それを後世の我らが見て、勝手に山脈だと勘違いしていたそうだ。実際に我はこの目で山脈が空に浮かび上がり、咆哮する姿を見ている」
そんなグレンに、ヒューマニス代表――ゴルド・ティファートが顔を引きつらせる。
「まてまて。ってことは、その全長は……」
「遠近感覚が狂うほど……。山を丸ごとひとつ相手にするようなものだからな」
「マジかよ……神装者が蟻のように群がっても落とせるかどうか分かんねーぞ」
「それに関しては心配無用だ。勝算のある対抗策がある」
「対抗策……?」
「それに関しては黙秘させてもらう。まぁ、大丈夫、とだけ言っておこう」
「もったいぶるねぇ」
そう言いながらも、ゴルドはそれ以上追及しては来ない。それなりにグレンの言葉に信頼を置いているということなのだろう。
次に手を上げたのは、恰幅の良いシルフェリスの男だ。彼が、ザイナリアが抜けた今、必死にシルフェリス達をまとめている貴族筆頭である。
「今回の襲撃、貴殿がイタズラに罪過の森を荒らしたのが原因ではないのか。それさえなければ――」
「これは敵の言葉だから何とも言えんが……総攻撃決行に踏み切ったのは、第Ⅷ終世獣ヨルムンガンドの起動に成功したかららしい。我が罪過の森に行こうが行くまいが、関係ない」
「本当かね、それは……」
更に言い募ろうとしたシルフェリスの男だが……それを止めたのは、フェリオ・クロフォードであった。
「追及の言葉はそのくらいで。もしも、貴殿の言葉が事実だとしても、彼の提案に最終的に合意を出した私達にも責はある。それに、今は責任問題を追及している時間が惜しい」
「そ、それぐらい分かっている!」
顔を真っ赤にして怒鳴る男に、隣でゴルドがやれやれと言わんばかりに頭を振っている。
これに対し、グレンは何事もなかったかのように話を元に戻す。もともと、眼中に入っていないと言わんばかりの対応である。
「そこで、各国には再度神装者の出撃を要請したい」
そこでグレンは一度言葉を切ると、まるで、全員に言葉を浸透させるように静かに語る。
「総力戦になる。もしも敗北すれば……人類は滅びるだけだ」