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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
二章 リンク勧誘合戦~蒼銀の狼と黄金の狐~
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四年前の悪夢

「ならば貴女の限界を教えて差し上げます。ここに、シア・インクレディスがアレット・クロフォードに決闘を申し込みますわ!」


 二年の『煌』クラスの言い合いを遠目に見ていた野次馬からどよめきが起こる。

 それはラルフ達も同様だ。

 周囲が騒然となる中、騒ぎの中心にいる二人は双方を睨み据える。


「決闘形式は『リンクVSリンク』……一人で大丈夫と豪語するからには、不満はありませんわよね?」

「……もちろん」


 そう言ってアレットは、シアが突きだした生徒手帳に、自身の生徒手帳を突き合わせる。

 その瞬間、二人を中心にして淡緑色の空間――メンタルフィールドが発生する。

 突然の展開に驚くラルフだったが……シアの発言の内容を思い出して思わず拳を握った。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! リンクVSリンクって……アレット姉ちゃんは一人じゃないか!! シア先輩、こんなの無茶苦茶だ!」


 そう、シアの花鳥風月は少なくとも六名以上は在籍しているにもかかわらず、アレットはたったの一人。

 多勢に無勢という言葉すら生ぬるい。


「ごめんあそばせ、ラルフちゃん。少しだけ後ろに下がっていてくださいますこと」


 そう言いながらシアが生徒手帳で何らかの操作をした瞬間、メンタルフィールド内にいた決闘に関係のないラルフ、ミリア、ティアの体がふわりと浮かび上がった。

 そして、そのままゆっくりとメンタルフィールド外へと押し出されてゆく。


「ぐ……! アレット姉ちゃん! 姉ちゃんがどれだけ強くても、花鳥風月のメンバー全員を一人で相手するなんて無理だ!」


 ジタバタと暴れていたラルフだったが、抵抗虚しくメンタルフィールド外へと弾き飛ばされてしまう。

 すぐさまフィールドへと取りつくが……すでに閉じてしまっており中には入れない。


「姉ちゃん! アレット姉ちゃん!!」


 メンタルフィールドの壁面を殴りつけながら、ラルフは必死にアレットの名を呼ぶ。

 その必死の叫びが届いたのか、アレットがラルフの方へと振り返ってくれたが……微笑み返すだけ。

 アレットは何も言わずシアの方へと向き直ると、手に神装<白桜>を発現させた。

 メンタルフィールドを通してなお伝わる気迫――本気だ。

 多勢に無勢という状況……それでも、一人で戦うというのだ、アレットは。


「どうして……」


 メンタルフィールド内の戦いで生命の危機にさらされることはないが、それでも痛みはそのままダイレクトに伝わって来る。

 最悪、それが後遺症になり冒険者としての道を閉ざされることだってある……無謀な戦いをしていいことにはならない。

 何とかメンタルフィールド内に入ろうと足掻くラルフの隣で、ミリアがどこか遠い瞳でアレットを見つめていた。


「兄さん」

「何……だよっ!!」

「四年前、アレット姉さんが本国に帰ることになった理由……覚えてますか?」

「は? なんだよこんな時に? そんなもん後に――」

「いいから答えてください」


 有無を言わせない言葉にラルフはグッと言葉を飲み込み……渋々答えた。


「アレット姉ちゃんが身代金目的でヒューマニスの盗賊団に誘拐されかけたからだよな……それで、急遽フェリオおじさんの仕事を切り上げて本国に帰ることになって……」

「そうです。そして、兄さんは一連の事件に巻き込まれたにもかかわらず、その一切を覚えていない……そうですね?」


 ラルフの内心すらも見透かしてしまうのではないかと錯覚するほど、ただただ静謐な瞳に射抜かれ、ラルフはきまり悪そうに目をそらす。


「しょうがないだろ……頭とかも怪我してたし、記憶が曖昧なんだ」

「骨折箇所多数。折れた肋骨が内臓を傷つけ内出血も酷く、打撲・裂傷は数え切れないほど。発見された時は全身血まみれ。もしも、発見があと少し遅れていれば……そして、ゴルドさんの伝手でマナマリオス領の最新設備を使わせてもらえなければ死んでいた」


 そこまで矢継ぎ早に言って、ミリアはギロリとラルフを睨み据える。


「どれだけ心配したか……怪我してた、の一言で済ませないでください」

「ご、ごめん……」


 そう言えば、意識を取り戻した時ミリアが大泣きしていたことを思いだし、ラルフは頭を掻いた。

 ラルフは又聞きした四年前の事件について思い出す。


 アレット・クロフォード誘拐事件。

 当時、毎日のように一緒に遊んでいたラルフ、ミリア、アレットの三人組は山菜を取りに行くために近くの森へと足を運んだ際に……そこで、ヒューマニスの賊に襲われたのである。

 どこから情報を仕入れたのかは分からないが、アレットがクロフォード家の人間であると知り、身代金を目的に誘拐を企てたのだ。

 この時、とっさにミリアを逃がし、ラルフとアレットだけで立ち向かったのだが……無論、子供が大人に勝てるわけがなく、敗北。

 連れ去られそうになるアレットを必死で助けようとしたラルフは、盗賊たちによって徹底的に痛めつけられ半生半死の状態まで追い込まれたのだ。

 ただ、この事件には謎が多く――ミリアが呼んだ救助隊が到着した時、そこにいたのは気絶したアレットと、死にかけたラルフ、そして、ものの見事に昏倒させられた盗賊達だったと言う。

 一体誰がアレットとラルフを救ったのか、その真相は未だに謎に包まれている。

 閑話休題。

 気まずそうなラルフの様子を見てとったミリアは、吐息をついてまっすぐにラルフを見つめる。


「でも、私はまだいい。アレット姉さんは……兄さんが痛めつけられるその一部始終を見せつけられたはずです。そして、その時の記憶が姉さんを臆病にしてしまっている」


 ミリアはそう言って、再び視線をアレットへと向ける。


「あの事件、姉さんの中では盗賊団が起こした事件ではなく、きっと……自分が起こした事件になっているんだと思います」

「は……? いや、おかしいだろ。姉ちゃんを攫おうとしたのは盗賊団の連中だ。姉ちゃんには何の責任もないじゃないか!」

「でも、高官の娘であるアレット・クロフォードが、ラルフ・ティファートと出会わなければ、そもそも兄さんは誘拐事件に巻き込まれることはなかった」

「……お前、それ本気で言ってるのか?」

「少なくとも、アレット姉さんは本気でそう思っています」


 声のトーンを落として問うラルフに対し、ミリアは動揺の欠片も見せずに言い返す。


「確信を得たのはつい最近です。ずっと疑問だったんです。入学式の時に、あれだけ兄さんが派手に暴れたのに……どうしてアレット姉さんは会いに来ないんだろうって。寮も同じ、乗っているトラムだって同じであるにもかかわらずです。私から直接コンタクトを取らなければ、恐らく今もまだ姉さんは私達と会おうとはしなかったはず」


 ミリアはどこか悲しげに目を伏せる。


「自分に関わればまた誰かを傷つけるかもしれない……姉さんはきっとそう思ってる。だから、自分のリンクに誰も入れようとしないし、兄さんや私を意図的に遠ざけようとしているんでしょう。もしかしたら、シアさんはずっと前からアレット姉さんのそういう部分を見抜いていたのかもしれません」


 これは推測になるのだが……シアがアレットの前で執拗にラルフを勧誘しようとしたのも、アレットを焚きつけようとしたからなのかもしれない。

 シアはきっと、ミリアが辿り着いた結論にずっと前に辿り着き、そして歯がゆい思いをしてきたのだろう。

 だからこそ……もうどうしようもないと腹をくくり、今こうして、強硬手段に出ている。

 ラルフやミリアといったアレットと近しい者が入学してきた今を逃せば、もう、アレットの閉ざされた心に届く者はいないと……そう思って。

 ラルフはミリアの言葉を聞いてシアへと顔を向ける。

 シアが浮かべる表情は苦々しくて……少なくとも、己の優位性を示すために一人を大人数で私刑にしようとしている人間の顔ではない。

 この戦い――いったい誰が得をすると言うのか。

 双方傷つくためだけに行われるこの決闘に、何の意味があるのだろうか。


「……っ! ダメだ!」


 ラルフはメンタルフィールドを拳で叩き、叫ぶ。


「俺、頭悪くて。上手く説明できないけれど……でも、こんなのはダメだ!」


 顔を上げる。

 今この場に立ってどれだけ声を張り上げたって届かない。

 ここに立っている限り、ラルフはどこまでも部外者でしかないのだから。

 ならば――


「ミリア、ティア、俺ちょっと行ってくる!!」

「え!? ちょ、ラルフ!?」


 ティアの戸惑うような声を背中に受け、ラルフは強く地面を蹴る。

 <フレイムハート>の力を借りて一気に加速すると、本校舎に向けて一直線に来た道を駆け戻るのであった……。


今回、物語の尺の問題でちょい短いです。

次回から戦闘開始。

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