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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
九章 第Ⅶ終世獣ジャバウォック~本当の翼~
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エピローグ①~神格稼働の代償~

 柔らかいシーツの感触と、暖かな陽だまりの匂いに包み込まれて、ラルフは目を覚ました。寝ぼけ眼で周囲を見回してみれば、見慣れない部屋に寝かされていたことに気がつく。

白を基調としたあっさりとした部屋だ。調度品はベッドと棚ぐらいなものだろうか。


「ここは……?」

『ようやく目を覚ましたか……ラルフ』


 聞き慣れた声を耳にして振り向いてみれば……ベッドの傍にある棚の上に、ヒヨコ状態のアルティアが座っていた。


「アルティア、俺、一体……」


 寝起きというのも関係しているかもしれないが、記憶が若干曖昧になっている。頭を振って記憶をハッキリとさせようとしているラルフに、アルティアが語りかける。


『ここはフェイムダルト神装学院の総合病院の一室だ。ジャバウォックとの戦いで精根尽き果てて墜落した後、すぐさま回収され、ここに収容されたのだ。十日間も寝ておったのだぞ』

「は、十日間!? そんなに寝てたのかよ……って、そうだ! ミリア! ミリアは一体どうなったんだ!?」


 勢い込んで身を乗り出すラルフの視線の先、アルティアが何とも言えない表情を作る。まるで言葉を探すように視線を左右に振って、アルティアは小さく吐息を一つ。


『良いか、ラルフ。この十日間で、かなり事態が動いた。動揺せずに、落ち着いて聞くのだぞ。まず、ミリアに関してなのだが――』


 アルティアが事情を説明しようとしたその矢先……パリンと陶器が割れるような音が響き渡った。

 ラルフが驚いて振り返ると、そこには口元を手で押さえた、金髪碧眼の美しい女性が立っていた。先ほどの音は、彼女が地面に花瓶を落とした音だったのだろう。

 六枚の純白の翼を持った女性は、ラルフが起き上がっているのを見て、ぶわっと目尻に涙を溜めると、全力で抱きついてきた。


「ラルフ――ッ!!」

「おぅわ!?」


 唐突なことに動転するラルフに向かって、女性は少し顔を傾ければキスが出来そうな距離で顔を上げる。


「し、心配したんだから!! ボロボロになって空から落ちてきて! 何度呼びかけても一向に目を覚まさないし! お医者様も目を覚ますか分からないって言うし! アルティアだって、暗い顔するし! もう、会えないんじゃないかって、私……ッ!!」


 ぽろぽろと綺麗な涙を流して、彼女はぎゅっとラルフの胸に顔を押し当てる。

 ひっくひっくとしゃくり上げる彼女の感触にドギマギしながら、ラルフは動転する心を必死に落ち着かせて、彼女の両肩に手を置く。


「あ、あの、とりあえず落ち着いて。落ち着いておくれ」

「う、うん……ゴメンね」


 目尻の涙を指で拭って、彼女は満開のヒマワリのような笑顔を浮かべる。幸福が全身から溢れているかのような表情に、ラルフはぎくしゃくしてしまう。


『良かったな、ティア』


 アルティアの呼びかけに、女性は大きく頷く。


「うん、本当に……あ、そうだ、ラルフ! あのね、お父様の罪が帳消しになったのよ! ザイナリア卿の秘匿資料から、全貌が明らかになってね、それで――」

「ちょ、ちょっとストップ! あのさ、ちょっと聞いて良いかな?」


 立て板に水で喋る彼女に、ラルフは慌ててストップを掛ける。

 首を傾げて『何?』と目線で問いかけてくる彼女に、ラルフは気まずさを覚えながら頬を掻き……曖昧な笑顔を浮かべて、口を開いた。





「えっと……君、誰?」





 <フレイムハート>の神格稼働。

 その力は、己の内にある大切な『想い』を燃焼させて得ることができる。想いが大切なものであればあるほどに、燃え上がる炎は強く、激しく、大きくなる。

 そして……炎が燃え盛った後に残るのは、消し炭になった『想い』だったもの。

 ラルフ・ティファートの中にあった『ティア・フローレスへの想いと記憶』は、ジャバウォックとの戦いを経て、跡形もなく燃え尽き、消えてしまっていたのであった……。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 こうして、ゲイルゴッド攻防戦は様々な所に傷跡を残しながら終結した。

 幸い……といって良いのか分からないが、被害は相当に上ったものの、シルフェリス軍は終生獣の撃退に成功し、浮遊大陸エア・クリアが終生獣に乗っ取られるという最悪のシナリオは回避することができた。

 だが、この戦いで近衛の約2/3は壊滅。宰相ザイナリア・ソルヴィムは死亡。女王オルフィ・マクスウェルは行方不明と……失ったものはあまりにも大きかった。


 国の二本柱とも言える人物を同時に無くしてしまったことで、政治は大きく傾き、現在、シルフェリス達は大きな混乱の中に突き落とされた。

 何とか臨時で王を擁立し、体勢を整えようとしているが……上手くいっていないようだ。

 この戦いの中で新しく生まれたインフィニティーであるティア・フローレスを新女王に擁立しようとする動きもあったようだが……本人が断固拒否し、フェイムダルト神装学院に復学してしまったため、お流れとなってしまった。


 ちなみに、謎の襲撃者による城内の虐殺によって、ザイナリア卿が有していた秘密の地下室の存在が露呈。そこにあった大量の秘匿資料と、非人道的な実験――『人造インフィニティー計画』が衆目に晒されることになった。


 これにより、フローレス家は無罪であることが証明され、没収された家財は全て返却、黒翼は洗い流された。ただ……この責任は、ザイナリアの娘であるクレアが負わされることとなり、彼女にはティアと同じく『黒翼の刑』に処された。

 しかし、クレアの人望もあったのだろう……ティアを含め、これに抗議する者は多かった。多くの声が上がったものの……残念なことに、この刑が覆ることは無かった。

 救いがあるとすれば、本人にそこまで落ち込んでいる様子がないことだろうか。『不幸にしてしまった人の分、多くの人を救う』と言って、今、彼女はファンタズ・アル・シエルで<再生>の能力を駆使して医療に携わっている。


 そして、ザイナリア卿の地下室にあった巨大なトゥインクルクリスタルだが……実は、あのクリスタルは、エア・クリアを浮遊されていたコアだったらしい。そのコアが奪われてしまい、現在、エア・クリアは少しずつ高度を下げている。

 突然落下という事態は避けられたが……マナマリオスの調査で、数年後にはエア・クリアは水没することになるという結果が出た。今後、シルフェリス達は様々な問題に直面することになるだろう。

 

 他にも、当時エア・クリア大陸にいたグレン・ロードが、裏で色々と動いていたらしいが……それは、一切表沙汰にはなっていない。

 これが、今回のゲイルゴッド攻防戦の顛末である。




 

 そして、この戦いが終結し、ラルフが昏睡状態にあった七日間……この短い期間に、二つの大きな出来事が発生した。


 一つ目は、チェリル・ミオ・レインフィールドが正体不明の襲撃者による不意打ちを受け、意識不明の昏睡状態に追い込まれてしまったというもの。


 二つ目は、純白のドラゴンと化したミリアが、レニスとともにドミニオスの大陸を襲撃。

 多大な被害を出し、ドミニオスの大陸に恒常的な夜をもたらしていた巨大なトゥインクルクリスタルを奪取したというものだった……。



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