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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
九章 第Ⅶ終世獣ジャバウォック~本当の翼~
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ゲイルゴッド攻防戦①~灼熱 VS 蒼海~

 ゲイルゴット監獄から少し離れた場所……そこでは、今まさに繰り広げられんとする神と神の戦いを観戦する深淵のロディンがいた。

 木の上に寝そべって、しっぽを振りながら、ロディンはニヤニヤと笑みを浮かべている。


『んふふふ、とうとう創世獣と創世獣がぶつかり合う事態になったわけだけどぉ……やっぱりアルティアは単純ねぇ。マーレとレニスがこの大陸の奪取を目的にしているわけなぁいじゃなぁい。むしろぉ、こっちのジャバウォックとマーレが囮でぇ、本命はぁ、別働隊かしらねぇ。そっちニレスがいると見て、間違いないわねぇ』


 ロディンが持っている情報、そして、この大陸の持つ特殊性、更にマーレとレニスが求めている物を総括して考えれば、自ずと答えは浮き彫りになってくる。

 『マーレとレニスが今最も欲しいものは何か?』という点を、アルティアは勘違いしているのだ。人間を護るという点に固執しすぎていて、アルティアは大局を見誤っていると言っても過言では無い。

 でも、それでいい。

 愚直で、一途で、馬鹿みたいに人間に甘い……それこそが、アルティアなのだから。


『んふふふふふ、アルティアが悔しがる顔は、さぞ見物でしょうねぇ』


 深淵のロディン――最も戦闘に特化した創世獣『灼熱のアルティア』の全盛期に比肩する実力を持ち、同時に、権謀術数に優れた存在。

 彼女に掛かれば、レニスとマーレの作戦も丸裸にされたも同然であった。

 もしも、彼女が全面的にアルティアに協力をしていれば、レニスとマーレの野望はこの時点で完全に潰えていたことだろう。

 だが……彼女はそうはしない。

 それはなぜか? 簡単なことだ……その方が面白いからだ。

 人間が苦境の中にあって死に物狂いで、そして、笑えるほどに無様に足掻く様は、彼女に至上の愉悦を与えてくれる。永遠に等しい時間を活きる彼女の無聊を慰めてくれるのは、そういった人間の姿だけだ。

 もちろん、それで人間が滅んでしまっては元も子もない。

 レニスとマーレが、アルティアと<フレイムハート>を倒し、本格的に人間を追い詰めてチェックメイトを掛けたのならば……その時は、二柱の前にロディンが立ちふさがることになるだろう。

 そう、ロディンはこの戦いのゲームメーカーなのだ。

 パワーバランスの一角である彼女の望みが混沌である以上、絶妙な拮抗の上に成り立つこの戦いに、完全な決着は訪れない。

 もしかすると、ラルフとアルティアの本当の敵は、彼女なのかも知れない……。


 ―――――――――――――――――――――――――――― 

 

『天地を焼き尽くせ! エクスブレイズ!!』


 アルティアが咆哮を上げ、頭上に霊力を収束させた火球を生成する。人間には決して為しえない超火力の火球は、プラズマを発生させながら、激しく空気を焼く。


『行け!』


 射出された火球は、空中で分解すると千を越えて分裂し……終生獣の大群へと炸裂した。次々と咲き乱れる極大の焔の華が、数万という終生獣の大群を驚くほど呆気なく焼き尽くしてゆく。アルティアのたった一度の攻撃で、終生獣の大群は、その数を半数以下にまで減らしていた。


「うっそ……すげぇ……」


 馬鹿げた……あまりにも馬鹿げた火力。

 シルフェリス、マナマリオス、ビースティスの三ヵ国の霊術師を丸々集めて霊術を発動しても、恐らく届くことはあるまい。

 最も戦闘に特化し、全盛期にはたった一柱で神光のリュミエール、蒼海のマーレ、悠久のレニスの三柱を相手にほぼ互角に渡り合った創世獣――灼熱のアルティア。

 完全に力を取り戻していないにもかかわらず、この実力……創世獣最強の名は伊達では無いのだ。


「アルティアって、本当に神様だったんだなぁ」

『それはどういう意味だ……』

「ダンディーボイスで酒好きのヒヨコって印象しか無かった」

『ラルフ、帰ったら、タップリと話したいことがある』


 ぶすっとふて腐れたような声を出すアルティアだが、まぁ、今の今まで良いところを見せたことが無かっただけに、反論はできないのだろう。


『何はともあれ、道は作る。ラルフはまっすぐに突き進み、ジャバウォックを討て』

「おう!」


 アルティアが無造作に翼を振るうと、美しい緋色の羽がぱっと虚空に舞う。


『我が眷属よ、縦横に疾駆し、彼の怨敵を焼き尽くせ! エクスプロードフェザー!』


 紡ぐ言の葉が、緋色の羽に命を宿す。

 羽の一枚一枚が業火を纏い、一斉に終生獣の群れに向かって飛翔する。まるで、自意識を持っているかのように、各々の羽は飛び回って、片っ端から終生獣の胴体を貫いてゆく。

 恐ろしい速度で駆逐されてゆく終生獣。これならば、ジャバウォックを完全に孤立させることができると……そう思ったラルフだったが、それは甘い考えだった。


『大食いの水蛇よ、さぁ、食事の時間だ、現れよ!』


 どこか甘ったるい声を合図に、眼下の海面から大量の水が浮かび上がる。そして、それはまるで鞭のようにしなると、次々とアルティアの羽を飲み込んでゆく。


『撃破だし!』


 そして……爆発。

 荒れ狂う炎の衝撃は、しかし、水によって包み込まれ、内側に向かって押しつぶされてしまう。


 ――マーレか!


 ラルフ達と同じように、虚空に立つ蒼髪のシルフェリス……蒼海のマーレである。

 彼女は接近してくるラルフとアルティアを苦々しい表情でにらみ付けてくる。


『ぐぬぅー! 力を完全に取り戻してないくせに、こんな埒外な火力を……やっぱ、アルティアなんて大嫌いだし! とっとと死んじゃえだし!』

『残念だな。私はお前のことはそんなに嫌いでは無いのだがな』


 言葉を交わすマーレとアルティアの脇を抜けんと、ラルフは空を疾走するが、それよりも先にマーレが行き先を阻むように立ちはだかる。


『どこ行くし! この出来損ないの<フレイムハート>め! そんなに死にたいのなら、何度だって殺してやるし!』

「うるっせぇ! 俺の名前はラルフ・ティファートだ! 覚えておけ!」


 まさに四方八方……先ほど爆散した水滴が虚空で瞬時に凝集し、数限りない槍を形成する。そして、それが、ラルフに向かって殺到してくる。

 その光景は、夏期長期休暇で胴体を貫かれたときの焼き回し……とてもでは無いが、一人では対処のしようが無い数の水槍を、けれど、ラルフは落ち着いてにらみ付ける。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 裂帛の咆哮を発すると同時、ラルフを中心にして、アルティアに負けずとも劣らない火力の炎が発現する。マーレの霊力による加護を得て、元が水であったとは信じられないほどの硬度と軟性を得た水槍だったが……ラルフの炎に触れて、一瞬にして蒸発した。


『なっ!? く、腐っても神格稼働か……!』


 仰天して目を丸くするマーレに向かって、ラルフは大きく踏み出す。

 そして、その右手に火力を収束。バーストブレイズインパクトすらも超越する火力に、空気が爆ぜ、あまりの熱に周囲の空間がねじ曲がる。


「燃え尽きろッ!!」


 跳躍を経て、斜め上から体ごと振り下ろすような拳打――疾走の勢いに腕力を加えて放たれた一撃は、しかし、マーレの展開した水の膜によって防がれてしまう。


 ――なんだ……これ……!?


 眼前、展開されている水の膜は、それこそ雨上りに地面にできる水たまりのように薄い。にもかかわらず……ラルフの拳は、水の障壁を貫通できずにいた。


『はっ! ちょっと油断したけど、そうと分かれば対処のしようなんていくらでもあるし!』

『下がれ、ラルフ!』


 背後から聞こえてきたアルティアの声に、体が脊髄反射気味に反応する。

 次の瞬間、ラルフが先ほどまで立っていた場所を、猛烈な速度で『何か』が通過していった。振り返って見れば、それは濁った白色をした鞭――ジャバウォックの髭だ。


「器用なことを!」

『もらったし!』


 ジャバウォックの方へと気を取られている隙に、マーレが水の膜を刃へと変えて、ラルフに向けて放つが……間に入ったアルティアの炎の壁によって封殺される。


『ラルフ、行け! 今の内にジャバウォックに取り付け!』

「おう! 任せる!」

『あ、こら、待つし! ぐ、アルティア、邪魔だし! 潰す!』


 ごごごごごご、と地鳴りのような音を伴って海が一斉に隆起する。それはまるで、水の巨人が海中から身を起こし、マーレに付き従うかのようで。

 たかが水、されど水。

 莫大ともいえるその質量は、それ自体が純粋な凶器だ。しかも、全てがマーレの意志によって統制されている……神装者であろうと、この圧倒的な物量の前では塵芥に等しい。

 だが、対するは神装者ではなく、マーレと同じ神――灼熱のアルティアだ。


『ふん!』


 まるで、空が落ちてきたかのように、圧し掛かってくる膨大な水を前にして、アルティアは全身を発火。

 自然現象では起こりえない超高温に、周囲の空気がプラズマ化して雷光を発し、炎自体はまるで真紅のオーラのように透明度を増す。

 そして……アルティアは、迫りくる水に炎をぶつけた。

 押し潰さんとする水に炎が触れた瞬間、気化した水が千七百倍に膨張――轟音と共に水蒸気爆発が起こった。一切の音を押しつぶすような暴力的な轟音と共に広がった衝撃が、同心円状に爆散し、過加熱された水蒸気がキノコ型の雲を形作る。


「ぶわっ!?」


 吹き付けてくる蒸気にむせながら、ラルフはとっさに背後のエア・クリアへと視線を向ける。

 先ほどまでラルフ達がいたゲイルゴッド監獄が、衝撃波の煽りを受けて積み木を崩すように吹き飛び、森の木々が雑草を抜くように宙を舞う。更には、大陸の外縁部が致命的な音ともに崩れて海中に没する。

 何というか……あまりにも現実感のない光景に、唖然とするしかない。


「……って、うおぉぉぉい、アルティア!? ティアが死ぬ!」

『む、だが手加減はできん!』


 肺を焼かんばかりの高温の蒸気に包み込まれながらも平然としているラルフに対し、アルティアが怒鳴るように答える。

 アルティアの翼の一払いで水蒸気が霧散すると、こちらも健在なマーレが姿を現す。


『だぁぁぁあもう! アルティアと戦うと視界が悪すぎて何が何だか分からなくなるし!』

『お前が水の塊などぶつけてくるからだろう』


 過去、首都クラフトの街中でチェリルが繰り広げた霊術戦も大概凄かったが……もう、今回のこれはスケールが違いすぎて言葉もない。まるで、怪獣大戦争だ。

 神代の戦いとはこれほどのものなのかと、内心で舌を巻く。

 だが……驚いてばかりもいられない。


「まぁ、俺の相手も大概だけどな……」


 ラルフの目の前……そこに待ち構えるは、見上げんばかりの汚れた白の巨人――第Ⅶ終生獣ジャバウォック。過去、大勢の神装者を殺戮した暴虐の徒が控えているのだから。


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