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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
九章 第Ⅶ終世獣ジャバウォック~本当の翼~
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潜入、ゲイルゴッド監獄

 クレアに何度も礼を言って屋敷を発ち、ラルフとティアは、ブライアンの収監されているゲイルゴット監獄目指して馬を走らせる。

 体力を温存するためにも、ティアは馬に乗って移動していたのだが……ラルフの方は、そもそも馬に乗ることができなかったので、神装を発現して走って移動することにした。

 まぁ、この男、体力だけは異様にあるので、特に問題は無い。

 幸いにも、クレアがタップリと保存食を用意してくれたので、道中、食糧難に陥ることは無かった。

 野営を繰り返し、四日間馬を走らせ……ティアとラルフは、何とかゲイルゴット監獄へと辿り着くことができた。

 時刻は夕刻を少し過ぎた、周囲が薄暗くなり始める頃――今、二人は監獄から少し離れたところに潜み、その様子をうかがっているのだが……。


「クレア先輩の予想したとおりだな。恐ろしいほど人の気配が無い」

「分かるの?」

「何となくだけどな」


 ラルフ自身、上手く言葉にはできないのだが……人がいる建築物というのは生き物のようなものだ。それ自体が呼吸をしているかのような、『生』を感じるのである。

 だが、今、目の前にあるゲイルゴット監獄は、まるで、廃墟のような寒々しさしか感じない。


「これは救出だけなら、思った以上に簡単かもな。問題は……終生獣の方か……」

 

 ラルフはそう言って、周囲を見回す。


「ダメ元で話しかけてみるかな……アルティア、アルティア。俺の声が聞こえる? 少し話したいんだけど、まだ力は回復してない?」


 虚空に向かってラルフが話しかけると……不意に、肩でボウッと炎が燃え上がった。そして、その炎は直ちに形を得て、一つの像を結ぶ。

 深紅の羽を持つヒヨコ……アルティアである。


「おぉ、良かったアルティア。顕現でき……なんか一回り小さくない?」


 顕現したアルティアの姿を見て、ラルフは思わず目を丸くした。

 そう。普段のアルティアは手のひら程度の大きさはあるのだが、今、顕現しているアルティアはそこから更に一回りほど小さい。まるで、ぬいぐるみである。


『うむ、少し無理をしたからな……肉体を構成する霊力がちと足りん』


 「わぁ、可愛い~!」と、目をきらきらさせるティアを横目で見ながら、ラルフは肩に乗っかっているアルティアに声を掛ける。


「んで、アルティア。終生獣の気配は感じられる? そろそろこっちに向かっていると思うんだけど」

『少し待ってくれ』


 アルティアはそう答えると、目をつぶり、風に混じる終生獣の気配を読み始める。数秒の後、アルティアは目を見開き、水平線の彼方へと視線を向ける。


『まずい、クレア殿が予想しているよりも動きが速い。レニスの入れ知恵だとは思うが……進行速度の速い個体と、遅い個体で隊を二つに分けたな』

「え!? 隊が二つに分かれたって……終生獣がそんなことを……」


 驚くティアに、アルティアは首を振って答えてみせる。


『ジャバウォックの気配とは別に、蒼海のマーレの気配を感じる……恐らくは、アイツが終生獣の全体指揮をとっているのだろう。ジャバウォックとマーレを含む本隊はこちらに、進行速度の遅い別働隊は、大陸を迂回しているな……首都クラフトを直接狙うつもりか』

「なんにせよ、急がないといけないって訳か」

『うむ、後数時間で、ここに辿り着く』


 どうやら、想像していた以上に猶予はないようだ。

 ラルフはティアへと顔を向けると口を開く。


「ティア、打ち合わせ通り、俺が先行するから、ティアは後に付いてきてくれ」

「ん、分かった。危険な役割を任せちゃってゴメンね」

「気にすんな。俺もブライアンさんに会いたいしな」

「うん。お父様……あとちょっと、あとちょっとだけ我慢してください」


 祈るように言うティアの姿を見て、ラルフはグッと拳を固める。


「うっし……行くぞ」


 闇に紛れ、ラルフは一気にゲイルゴット監獄を囲う高い壁へと駆け出す。

 ラルフは壁へと到着すると、流れるように垂直に跳躍し、壁に手を掛けてぶら下がる……そして、顔半分だけ出して、こっそりと中の様子を観察する。

 ラルフの読み通り、中は驚くほど人がいない。少なくとも、巡回をしている人間はいないようだ。


「よし、人はいないな」


 ラルフは一度壁から手を離して、地面に降りると、下で待っていたティアを抱き上げて再度跳躍……一気に壁を飛び越える。


「相変わらず、アンタの身体能力って神装を発現してることを除いても、色々とおかしいわよね……」

「お褒めにあずかり光栄の至り。突入するぞ」


 見取り図に書いてあった裏の出入り口を目指して、ラルフは大胆に、けれど、繊細に周囲の気配を読みながら中庭を横断する。

 そして、裏口に張り付いたラルフは、音を立てないように扉を開けて内部を確認……するりと中に入る。松明が灯してあるところからして、人はいるのだろうが……やはり、気配が薄い。

 ティアが付いてきているのを確認したラルフは、足音が響かぬように注意しながら、通路を進む。そして、ある地点で足を止めた。


 ――いた。


 ブライアンが捕らえられている区画の入り口……そこに、二つの影が立っていた。

 この距離では相手が神装者なのかまでは判別が付かないが、二人とも完全に上の空なのは、よく見て取れる。恐らく、終生獣が襲来することを知っているのだろう……そわそわと落ち着きが無い。


「お、おい。もうそろそろここを脱出しても良いんじゃないか? 俺達、もう十分に役目を果たしたよな」

「あぁ、夜が明けたら終世獣がやってくるんだろ? 俺、アイツらに喰われて死ぬなんてゴメンだぞ」


 二人の口ぶりから察するに、ブライアンが脱獄しないように、ぎりぎりまでここに残って番をしろと命じられているのだろう。

 

 ――戦わずに済ませたいところだけど……。


 余計な戦闘は避けたいというのが本音だが……看守の男の腰には、鍵束がぶら下がっている。どうやら、強行突破するしかないようだ。


「ティア、あの通路の奥に向かって霊術を撃ってくれないか?」 

「注意をそらせば良いのね、分かった」


 この一年間、ラルフの無茶に付き合ってきただけのことはある……ラルフの意図を正確に見抜いたティアが小さく頷くと、<ラズライト>に霊力を収束させ始める。


「『汝、空を切り裂く紫電の牙。ライトニングスカー』」


 紫電が暗闇を疾駆し、廊下の突き当たりに激突してど派手な音と光を発する。

 ビクッと見張りの二人が体を跳ねさせ、あらぬ方向へ顔を向けた……その瞬間、ラルフは物陰から飛び出した。まさに電光石火――一瞬にして距離を詰めたラルフは、一人目の腹に拳を叩き込んで気絶させると、続けざまに二人目の顔面に裏拳を見舞う。

 まばたきの間に繰り広げられた早業……二度の攻撃で、看守達はろくに抵抗もできずに地に沈んだ。


「うし、鍵束ゲット!」 

「ねぇ、なんかラルフ、妙に手慣れてない……?」

「ちょっと前にクラフト王城から脱出したしね。そのときのノウハウが活きてるのさ」

「それもどうなの……って、今はそれよりもお父様よ」


 ティアはそう言って、奥へと続く通路を見据える。

 『一刻も早く』と目で訴えかけてくるティアに頷き返すと、ラルフは気絶した二人を、傍にあったロープで手早く縛り上げる。そして、通路の脇に差してある松明を拝借すると、奥へ向けて歩き始めた。

 ここから先は、どうやら死刑囚を収監するための牢屋になっているようだ。

 中に誰も入っていない牢屋が並び、不気味な雰囲気を醸し出している。そして、その牢屋群の最も奥……そこに、目的の人物はいた。


「お父様!!」

「……? ティア……ティアなのか?」


 牢屋の隅で座り込んでいたブライアンは、ティアの姿を見て驚きに目を丸くした。


「そうです、ティアです、貴女の娘のティアです! 良かった……無事で良かった……」 


 感極まっているティアの隣で、ラルフが手早く牢屋の鍵を開けると、彼女は一目散に牢屋の中に駆け入り、ブライアンに抱きついた。


「お父様、お父様……良かった……本当に……良かった……」

「まるで夢のようだ……まさか、もう一度ティアに会える日がくるなんてね……」


 強く抱き合う父娘を少し遠くから見ながら、ラルフは何となく感慨深くなってしまう。


『ラルフも父親に会いたくなったか?』


 アルティアのからかうような声に、ラルフは苦笑を返す。


「これがもし親父と俺だったら、『なに捕まってんだよ、耄碌してんじゃねーか、親父!』『うるせぇ、油断したんだよ、ゆ・だ・ん!!』とか言って、殴り合いになりそうだよなぁ」


 そもそも、あの化け物じみた親父が大人しく捕まる姿が想像できない。檻を破壊して出てきてしまいそうだ。

 そんなことを考えていると、ブライアンが顔を上げてラルフの方へ視線を向けてくる。


「ラルフ君も、アルティア君も、また会うことになるとは思わなかったよ」

『うむ、これも縁というものだな』

「こんばんは、ブライアンさん。自分も、同じ気持ちです」


 ラルフは感慨のこもったブライアンの言葉に、苦笑を返す。エア・クリアを脱出したときは、まさかこのような形で再会することになるとは欠片も思わなかった。

 そんなラルフの言葉に、ティアが顔を上げる。


「お父様、ラルフが私を護りながらここまで連れてきてくれたんです。彼がいなかったら、私はここに辿り着くことなく、慰み者になっていました」

「そうか……君がティアを護ってくれたんだね。父親として、改めてお礼を言わせて欲しい。ありがとう、ラルフ君」

「いえ、当然のことをしたまでですし。とりあえず、ここを脱出しましょう。大型終生獣がここを襲うまで、時間の猶予はあんまりありませんし」

「おっと、そうだったな。ティア、とにかく今はここを脱出しよう」

「はい!」


 涙を浮かべながらも、ティアが満面の笑みでうなずいたのであった。


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