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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
九章 第Ⅶ終世獣ジャバウォック~本当の翼~
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ブライアン卿救出作戦

「う……そ……」


 唖然としたまま動かなくなっているティアの隣で、ラルフもまた、眉を寄せている。


「それって、フィー……じゃなくて、オルフィ・マクスウェル女王陛下のことですよね……?」

「証拠はありません。名前が同じというだけという可能性もあります。ただ、出生の時期と、オルフィ女王の年齢を考えると、同一人物である可能性は極めて高いといえます。更にいえば……『オルフィ・フローレス』がオルフィ女王陛下と同一人物だというのならば、色々なことの説明がつくようになるのも事実です」


 ラルフの疑問に、クレアは吐息をつきながら答える。


「前王と前王妃は全く子宝に恵まれませんでした。それは、側室を含めても……です。一説には、前王は子を為せない体だったのではないかとも言われています。そんな御二方が、ようやく子を授かったという話が広がったのは、王妃が出産を終えてからでした」


 そこで言葉を切り、クレアはラルフとティアを見回す。


「おかしいと思いませんか? 子に恵まれなかった御二方が、待ちに待ったお世継ぎを授かったのですよ? 普通、妊娠発覚の段階で、大々的に発表されてもおかしくはないはずです」

「それは……確かにそうですね」


 ティアが弱々しく肯定する横で、ラルフもまた深く頷く。

 二人の様子を見て、クレアはさらに続ける。


「これは私の予想なのですが……フローレス夫人がオルフィ・フローレスを出産した時、六枚の翼を見てすぐにインフィニティーだと知れたはずです。その情報をいち早く知った御父様が、オルフィ・フローレスを、前王と前王妃のお世継ぎに――つまり、オルフィ・マクスウェルとして仕立てたのではないでしょうか」

「インフィニティーだったから……ですか?」

「そうです。インフィニティーという存在の求心力は、今のオルフィ女王を見てもらえば分かりますよね? また、ティアさんを見てもらっても分かる通り、フローレス夫人の血を引いたオルフィ様は王族を示す金髪。そういう意味でも、問題はなかったのでしょう。オルフィ女王が台頭すると同時に、御父様の発言力が増したこともこれで説明がつきます」

「なるほど……」


 眉を寄せ、クレアの言葉の内容を吟味するように口元に手を寄せるティアの横で、ラルフも腕を組んでうんうんと深く頷いている。

 ちなみにだが、ラルフは先ほどから二人の会話に全く付いていけてないが、『とりあえず、話の腰を折るのはマズイし、分かっているフリをしておこう』ということで、頷いているだけである。


「じゃあ……じゃぁ、お父様が投獄された理由って……」

「口封じでしょう」


 ドンッとティアが拳を机に叩き付けた。

 『全自動頷くマシーン』になっていたラルフは、ビクッと肩を振るわせた後、ティアの顔を覗きこんだ。強く噛みしめられた唇に、力の入った頬、そして、必死に感情を殺そうとしている瞳……今、ティアの中でどれ程の激情が渦巻いているというのだろうか。


「やっぱり……なんとしてでもお父様を助けないと。無実の罪でなんて……殺させない」

「その通りです。だからこそ……私も助力させていただきます」


 そう言って、クレアは机の下から一枚の見取り図を取り出して、机の上に広げた。

 一見すると、どこかの建物のようだ。


「クレア先輩、これは?」

「ブライアン卿が幽閉されているゲイルゴッド監獄の見取り図です。必ずティアさんが、ブライアン卿奪還に動くと思い、事前に準備をしていました」

「く、クレア様!?」


 クレアが見取り図を出した瞬間、ダスティンが慌てて駆け寄ってきた。


「いけません! これ以上こいつ等に関わったら、クレア様に類が及びます! 極秘書類の無断閲覧は何とか謹慎程度で済みました……でも、これ以上先は、もう冗談では済まないのですよ!?」

「ダスティン」


 クレアはそう言って、微笑む。

 淡く、優しいその笑みの向こう側に、強い意志を感じ取ったのだろう……気圧されるようにダスティンが一歩後ろに下がった。


「私のことを心配してくれるのですね、ありがとう。でも、私には……彼等に力を貸さなければならない義務があるのです。少なくとも、ソルヴィム家は、それだけのことをフローレス家にしてしまったということを忘れてはいけません」

「ぬ……し、しかし……」


 クレアが危険な橋を渡ることを看過できないのだろう……ダスティンは苦虫をかみつぶしたような表情で言い淀んでいる。そんなダスティンを、ラルフは少し意外そうに見ていた。

 入学式の時の印象が最悪だったダスティンだが、どうやら、それは本当にティア限定だったようだ。こうして、クレアの身を案じる姿を見ていると、何だか憎めないから不思議だ。


「心配すんなよ、眼鏡。クレア先輩を巻き込むようなことはしない」

「何だと山猿……?」

「少なくとも、地図を見せてもらったらそれを頭の中に入れて、それからは俺とティアの二人でブライアンさん救出に向かう。そうしたら、クレア先輩は事態に巻き込まずにすむだろう?」

「む、確かに……」


 ラルフが許可を求めるようにティアを見れば、彼女も淡く笑顔を浮かべて頷いてくれる。ティアだって、クレアを巻き込むのは本意では無いのだろう。

 そんな二人の提案に、不満げなのはクレアだ。


「ラルフさん、私のことは気にしなくても良いのですよ?」

「いや、クレア先輩、気にしますよ。少なくとも、これは俺とティアが二人で解決することでもありますから」


 ラルフが言うと、隣でティアも頷く。


「はい。むしろ、こうして情報を提供してくださっただけでもとてもありがたいですよ。ここは、私とラルフに任せてください」

「…………お二人がそこまで言うなら」


 どこか不本意そうだが、クレアは二人の言葉に頷いて応える。

 こほんと、一つ咳払いをして場を仕切り直すと、クレアはゲイルゴット監獄の見取り図を示してみせる。


「この監獄は、本来、死刑囚が執行日の日まで収監される監獄です。なので、規模は小さく、作りもそれほど複雑ではありません」

「作りが複雑じゃ無いのは、痛いなぁ……」


 図面を見ながら、ラルフは苦い表情をした。

 作りが複雑であると言うことは、目的地に辿り着くのに時間を要するものの、その分、死角が多いと言うことだ。潜入するのならば、作りが複雑な方が良い。

 そんなラルフの言葉に、クレアは首を振って応える。


「それに関しては心配いらないでしょう。これは予想ですが、今、この監獄にはブライアン卿を残してほとんど人は残っていないと思われます」

「え? それはどういう……?」


 疑問符を浮かべるティアに、クレアはまっすぐに視線を向けて応える。


「この監獄が、終生獣の襲来ルート予想上にあるためです。そのため、この監獄内の者達は全員避難をしてることでしょう」

「じゃあ、ブライアンさんも一緒に……」

「いえ、その……ブライアン卿は、ここに残されることになっているそうです……」


 クレアが言葉を濁した意味を、ラルフは正確に察した。

 恐らく、ブライアンをこの場に残し、終生獣に喰わせることで処刑とするつもりなのだろう。隣を見れば、ティアも同じ考えに行き着いたのか、顔色を悪くしている。


「じゃあ、問題は終生獣が襲来するまでに、私達がこの監獄にたどり着けるか……ですか?」

「さすがですね、ティアさん。その通りです」


 クレアはそう答えて、今度は浮遊大陸エア・クリアの地図を取り出し、その上に赤インクでするすると道を描いてゆく。 


「大体ではありますが、これが、私達がいる屋敷から監獄までの最短ルートです。ユニコーン亜種を走らせて、最短で四日ほど掛かることになるでしょう。そして、今朝、届いた終生獣の予想到達日時は約五日後……」

「うわ、ギリギリね……」


 終生獣襲来の予想はあくまでも、終生獣の進行速度から人間が算出したものだ。前後にずれても何らおかしくは無い。

 クレアは、地図上に『終生獣襲来ルート』と黒インクで太矢印を書き加え、それと対面するように『討伐隊迎撃ルート』と書かれた太矢印を首都クラフトから伸ばす。


「そして、こちらが首都クラフトから出撃した、大型終生獣討伐隊の行軍ルートです。両者が激突するのは、ゲイルゴット監獄から少し離れたところではありますが……超遠距離からの戦略級霊術の起動を考えると、下手をすると巻き込まれる可能性があります」

「えっと……確か、過去、大型終生獣リンドブルムが襲撃してきた時も、戦略級霊術を使用したんでしたっけ……。大型終生獣は、基本的に霊術耐性がとても高いんですよね」


 ティアの言葉に、クレアは優秀な教え子を見るように、にっこりと笑みを浮かべる


「よく勉強していますね。そうです、恐らく討伐隊は激突が予想されるよりも手前のポイントで陣を形成し、戦略級の霊術陣を構築……しかる後に、起動すると予想されます」

「なるほど、さっぱり分からん」


 ラルフがしきりに首を傾げていると、ティアが苦笑を浮かべる。


「簡単に言えば、最悪、討伐隊のすごく強い霊術の巻き添えを食らうかも知れないし、それよりも先に終生獣に襲われる可能性もあるよってこと」

「ふむふむ」


 何となく分かったような分からないような。

 そんなラルフに微笑みかけると、クレアはゆっくりと立ち上がった。


「昨日は休息しろといった手前、申し訳ないのですが、今回の救出作戦はスピード勝負です。すでに、遠征の準備は済んでいますので、お二人の好きなタイミングで出発してください」

「ラルフ、私、すぐにでも出発したいんだけど……その……」

「なに遠慮してんの。ほら、早くブライアンさんを迎えに行こう」

「……! うん!」


 ラルフがティアに笑いかけると、彼女は表情を明るくして頷いた。

 そんな二人を、クレアはどこか羨ましそうに、そして、眩しそうに見つめているのであった……。


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