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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
九章 第Ⅶ終世獣ジャバウォック~本当の翼~
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幕間① それぞれの動向

『さて、そろそろ出発だね』

『くひひひひひ、人間達が恐怖に引きつる顔をするの、すごい楽しみだし!』

『そうだね、「ヤマタ」と「リンドブルム」は倒されてしまったけれど……まあ、「ジャバウォック」は今の神装者がどれだけ集まろうとも倒せないだろうね。ただ、問題があるとすれば……』

『フレイムハート?』

『フレイムハートというよりも灼熱のアルティアだね。武闘派な彼のことだ……大人しく滅ぼされるぐらいなら、僕たちを巻き込んで自爆することを選ぶだろうからね。不滅と勝利を象徴する創世獣は伊達じゃないってことだね』

『うぅ、アタシ、アルティア嫌いだし……』

『あはは、彼は寡黙でありながらも激情家だからね。君とは相性が悪いだろうね。まぁ、僕は僕たちの目的を果たそうじゃないか』

『うん!』

『この作戦が成功すれば全ての準備が整う。その時こそ……人間達がこの世界から一掃されるときだ』


 ――――――――――――――――――――――――――――


 オルフィ・マクスウェル女王は夢を見ていた。 

 自身を包み込むのは巨大な虹の奔流――その中を、オルフィはふわふわと漂っていた。圧倒的でありながらも、どこか儚げな印象を受ける虹の奔流が一体何なのか……オルフィには予想が付いていた。

 これは、世界を巡る霊力の流れだ。

 世界中の草木が空気中の霊力を吸い上げ、それをレイラインを通じて、ファンタズ・アル・シエルの中央に座する双天樹が吸収、濾過して再び世界に放出――オルフィがいるのは、双天樹が世界中から吸い上げた霊力の流れの中なのだ。

 これは、オルフィが夢の中にいる間だけ有している知識。不思議なことに、目が覚めれば、すぐさま忘れてしまうのである。

 ちなみにだが……インフィニティーであるオルフィは無限に霊力を行使することができるが、その霊力はこのレイラインから引っ張ってきているのである。インフィニティーとは、言ってしまえば『レイラインに干渉することができる能力を持つ者』と言い換えることができるのである。


「何度見ても綺麗……」


 幻想的なその光景を前に、オルフィはただただ感嘆のため息を漏らす。これほどの絶景を見ることができるのは、世界広しといえどもオルフィぐらいなものだろう。

 オルフィがぼんやりと目の前の景色を眺めていると……不意に、誰かが近づいてくる気配を感じた。


『よく来たな、オルフィ。歓迎するぞ』

「おじさま!」


 聞こえてきたのは、低く、耳に心地よいバリトンボイスだ。

 包容力を感じさせるその声を聞いて、オルフィは声を弾ませる。声の方向に顔を向けてみれば……そこには、夏の陽炎を思わせる『揺らぎ』が存在していた。

 明確な姿形は無い……にもかかわらず、圧倒的な存在感と威容を併せ持つその揺らぎは、オルフィの方へとふわふわと近づいてくる。


『今度はどんなことに頭を悩ませているのだ? ワシが今度も華麗に解決してみせよう』


 身が竦んでしまいそうになるほどの威圧感があるにもかかわらず、その声はどこか優しく気安い響きが含まれている。

 実はこの『揺らぎ』……オルフィとは顔なじみなのである。

 オルフィが悩みや、誰かに相談したい案件などを心に抱いて眠ると、決まってこうしてやってくるのである。その悩みがどれほどくだらないものであっても、じっくりと時間を掛けて、話を聞いてくれるこの『揺らぎ』に、オルフィは完全に心を許していた。

 何を隠そうこの『揺らぎ』――オルフィが聖誕祭でラルフとチェリルに話した、夢に出てくる相談役、『おじさま』その人である。

 一度、その正体について尋ねたこともあるのだが、はぐらかされてしまったため、正確なことは分からない。だが、オルフィはそれでもよいと思っていた。

 なぜならば、これは夢なのだから。


「あの、おじさま。実は今、王宮にドミニオスの王、グレン・ロードがやってきているのです。それで、その……見識を広めるためにも、是非一度お話ししたいのですが……」

『周囲が許してくれないと?』


 言葉を継いだ『揺らぎ』に、オルフィはこくりと頷いて応える。


『ふむ、汝の超強力な霊術で片っぱしから、消し炭にしてゆくというのは――』

「おじさま、それはかなり強引です!!」

『む、むぅ、駄目か……。では、女王としての権限を使い、邪魔をする者を片っぱしから断頭台に並べて、一斉に首ちょんぱを――』

「お~じ~さ~ま~!!」

『だ、駄目か……汝にはそれだけの力と権力があるのだ。それを存分に使えば良いとワシは思うのだがな』

「そ、それは……」


 確かに、『揺らぎ』の言っていることは正しい。

 オルフィは浮遊大陸エア・クリアを統べる女王なのだ……その権威にものを言わせてしまえば事足りるはずなのだ。それに踏み切れないのは、純粋にオルフィの気質によるところが大きい。

 もごもごとオルフィが言葉を濁していると、『揺らぎ』が小さく笑みをこぼした。


『それはオルフィの悪いところではあるが……同時に良いところでもあるな。ならば、そうだな……偶然を装って接触するというのはどうだろうか』

「偶然を……ですか?」


 オルフィが首を傾げると、『揺らぎ』はうむ、と頷く気配を見せる。


『そうだな……例えば、グレン・ロードとすれ違う際、わざとハンカチを落とすのだ。それに気が付いた相手は、落ちたハンカチを拾い、オルフィに話しかけてくることだろう。切っ掛けさえつかんでしまえばこちらのものだ……あとは、多少強引にでも、対話へと持って行けばいい』

「な、なるほど! 落とすハンカチはどのようなものが良いでしょうか」

『ふむ、目立つものが良いな。金色の刺繍に、ラメをデコ盛りするとよい』


 ――で、デコ盛……?


 よく分からないが、たくさん盛れという意味なのだろう。

 『揺らぎ』のアドバイスを聞いたオルフィはグッと拳を握って、深く頭を下げた。


「ありがとうございます、おじさま。わたくし、頑張ってみます!」

『おお、その意気だ。頑張るのだぞ、オルフィよ』

「はいっ!」


 気合を入れ、オルフィは『揺らぎ』に向かって大きく頷いた。

 こうして悩みに一応の決着がつくと、オルフィの意識はゆっくりと浮上する。こうして、オルフィは夢の世界から目覚め、現実へと帰還するのであった。


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