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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
九章 第Ⅶ終世獣ジャバウォック~本当の翼~
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新学期開始――怒りのミリアさん

 快挙……二年生のクラス発表でその二文字が躍った。


 二年『煌』ランク――ミリア・オルレット。

 二年『煌』ランク――チェリル・ミオ・レインフィールド。

 二年『煌』ランク筆頭――ラルフ・ティファート。


 最低位ランクである『燐』ランクから、最上位ランクである『煌』クラスに移行したのは史上二人目――1人目は現在S級冒険者であるゴルド・ティファート――である。

 それだけではなく、一つのリンクから同時に三人の『煌』クラスが出たのもまた、史上二度目――ちなみにこちらも、ゴルド・ティファート、フェリオ・クロフォード、レッカ・ロードの三名――である。

 まさに大快挙というにふさわしい成績。

 一部の人間が、ゲスの勘ぐりを入れたりもしたが……大多数の人間が、リンクフェスティバルや、実技試験を通じてこの三名の実力を知っていたため、不満や不平は想像以上に少なかった。

 ちなみにだが……三年生の『煌』クラスは変動なし。相変わらず三獣姫が上位を席巻しているそうだ。筆頭になれなかったシアが、新学期早々アレットに決闘を挑んだという話が出たものの、それ以外はこちらも誰もが納得できる結果だった。

 波瀾万丈だった一年生の新学期とは雲泥の差とも言えるスタート――理想的とも言える始まりを迎えることができたラルフ達であったが……。


「………………………………」

「ねぇ、ミリアさん。これ、生きてるの?」

「一応生きてますね。生きる屍みたいな状態ですけど」


 『煌』・『輝』クラスにある座り心地のよい椅子に座り、仕立ての良い机に頬杖をつきながら、ラルフはぼーっと虚空へと視線を向けては、口を半開きにしていた。

 完全なる虚脱状態――その中途半端に開いた口に、シナモンスティックをダース単位で突っ込まれても気がつかないだろう。


「ねぇ、アルティア。ラルフってずっとこんな感じなの?」


 チェリルがラルフの保護者であるアルティアに尋ねると、彼は頭を振りながら、はーっと大きくため息をついた。


『ティアがいなくなってからずっとこんな調子だ。一応、鍛錬の最中は普段通りなのだが……時間が空けば、すぐにこの通りだ』


 そう、アルティアの言うとおり、シルフェリス達が……否、ティアがこのフェイムダルト神装学院を離れてから七日間――ラルフはずっとこんな感じだった。

 だが分からない話ではなかった。

 ラルフの目標であり、同時に打倒する相手であったグレン・ロードは卒業。同時に、互いに気持ちを通じ合わせたティア・フローレスもまた帰国……完全なる燃え尽き症候群であった。

 今の学院で、本気のラルフとまともに戦うことができる相手と言えば、二年筆頭のアレット・クロフォードと、右の黄金眼を解放したアルベルト・フィス・グレインバーグぐらいなものである。

 持てあましてしまった気持ちをどこで解消すれば良いのかも分からず、走り出そうとしてもどこに向かえば良いのかも分からない……まさに、今のラルフは五里霧中の中にいた。


「ね、ねぇ、ラルフぅ。気持ちは分かるけどさ、もうちょっとシャッキリしようよー。折角一緒のクラスになれたんだからさ」

「ぇ……? あぁ、そだな……」

「うぅ、一体どうしたら……って、ミリアさん、一体何を……」


 チェリルが一人で悪戦苦闘している横で、ミリアが周囲の許しを得て、さっさと机を教室の端へと退かしていた。一体何が始まるのだろうかと、ざわつくギャラリーを余所に、ミリアはそのまま教室から出て、廊下にぴったりと背中をくっつける。

 深呼吸を一つ。そして――疾走。

 スカートを翻し、広くスペースがとられた教室を一気に駆け抜けたミリアは、床を蹴って跳躍……空中で旋回すると、斜め上方から足を大きく振り上げて――


「いい加減にぃぃぃぃぃ起きなさぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!」

「おぐぅあッ!?」


 ラルフの側頭部目掛けてつま先を叩き込んだ。

 唖然とするギャラリーの前で、ラルフの体が二回、三回、四回と回転しながら吹っ飛び、窓ガラスをぶち破って外に消えていった。

 ちなみに、ここは三階である。


「え、死んだ?」

「五割程度しか死んでないので大丈夫でしょう」


 それは俗に言うところの半殺しなんじゃないのか――という突っ込みは、怖くて誰も入れることができない。お礼を言いながらミリアが机を元にあった場所に戻していると、弱々しく扉が開いた。


「ミリア……兄ちゃん、側頭部のコメカミは頭蓋骨の中で最も脆いと教えなかったっけか……」

「だから狙ったんでしょう。寝ぼけたこと言ってたら全殺ししますよ」


 頭から盛大に出血している兄を、虫けらを見るような瞳で見据える妹――エグすぎる兄妹コミュニケーションに誰もが戦慄していると、ミリアが腰に手を当てて大きく一つため息をついた。


「自分のせいで兄さんがそんなことになってるって、ティアさんが知ったら……落ち込むと思いますよ」

「……分かってるよ」


 ラルフが大きくため息をついて、気まずそうに視線をそらす。

 ラルフ自身、こんなことではいけないと分かってはいる……だが、理性だけで気持ちをコントロールできるほど、ラルフもまだ割り切れていないのだ。

 そんな兄を前にして、ミリアは幾分視線を柔らかくする。


「今すぐ完全に立ち直れとは言いませんから、少しはシャッキリしてください」

「……そだな」


 ラルフが心の中の檻をはき出すように言うと、教室の扉が音を立てて開いた。


「はい、皆さんおはようございます。今日から皆さんを担当する教師のエミリー・ウォルビルと……え、ラルフ君、頭から血が……というか、窓ガラスも割れて!? 新学期早々、非行に走る子が……!?」

「あぁ、大丈夫です、先生。俺がミリアに蹴られて、頭からガラスに突っ込んだだけですから」

「それを大丈夫と言えるラルフ君の今後が、先生は心配です……」


 ラルフを『煌』クラスにまで押し上げた業績を買われ『煌』・『輝』クラスの担任に抜擢されたエミリー・ウォルビルは、大きくため息をついた。

 フェイムダルト神装学院の新学期は、割と平和(?)に幕を開けたのであった。


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