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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
八章 リンクフェスティバル~それぞれの行く先~
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エピローグ

「今までご迷惑をお掛けしました、皆さん」


 学院の中央トラム乗り場で、クレア・ソルヴィムがラルフ達『陽だまりの冒険者』の面々に深く頭を下げた。

 今日はクレアが、故郷であるエア・クリアに帰る日である。

 時期は既に春季休暇に入っており、これが終わればラルフ、ティア、ミリア、チェリルは晴れて二年生へと進級……そして、アレットは最高学年である三年生である。

 まだ、ランクについてはハッキリと知らされていないが、全員『輝』ランク入りは確実と言われており、特に活躍華々しかったラルフ、チェリル、アレットに関しては『煌』ランクが有望とされている。

 ちなみに、一年のランク分けの基準となった神和性だが……ラルフ以外の面子は全員、数値が上昇していた。ただ一人、ラルフだけが一年目と変わらずという不名誉な結果を残してしまい、一人でふて腐れていた。

 閑話休題。


「いえ、そんな。クレア先輩には色々とお世話になりましたし」


 ラルフがそう言うと、クレアは微かな苦々しさを込めた笑みを浮かべた。


「すべて、自身の尻拭いをしたに過ぎないんですけどね」

「……クレア先輩が自分で蒔いた種じゃない」


 ラルフの隣で、アレットが軽く手を振る。

 どちらかといえば、クレアは周囲が起こす面倒事の後処理に奔走することが多かったように思う。本当にしみじみ思うが、この女性は苦労性というか、薄幸というか……。

 ラルフは小さく吐息をつくと、背後で隠れているティアに小声で話しかけた。


「ほら、ティア。行っちゃうよ」

「わ、分かってるわよ……」


 ラルフが軽くせっつくと、ぶつくさ言いながらもティアは前に出て、クレアと向かい合った。

 まさか、ティアが自分から出てくるとは思っていなかったのだろう……クレアが目を丸くしていると、ティアが視線をずらしながらも小さく頭を下げた。


「今まで、不躾なことばかり言って、ごめんなさい……」


 確かに、クレアはティアにとって仇敵ともいえる相手の娘かもしれない。

 だが、それはティアがクレアを憎む直接的な理由にはならない。ティアもそれは理解していたのだろうが……感情が許さなかったために、ずっと今の今まで引きずっていたのだ。


「そして、その……お母様の入院費、ずっと援助してくれて、ありがとうございました……」


 ティアは続けてそう言葉にした。

 そうなのだ、実は、匿名でずっとティアの母の入院費を援助してくれた相手というのが、このクレア・ソルヴィムだったのである。

 最近、皆でセシリアのお見舞いに行った際に、偶然、院長先生から聞いた事実であり……これを聞いたティアは驚くと同時に、凄まじい自己嫌悪に陥っていた。

 ラルフがティアの母と初めて会った日、クレアがこの病院に来ていたが……あれは、ティアの母の入院費を払うためだったのだそうだ。

 まぁ、その事実が露呈したため、ティアも今回の謝罪&お礼に踏み切ることができたのである。


「…………」

「あの、クレア先輩?」


 ティアの言葉を聞いたクレアは、口を両手で抑えたまま硬直。一体どうしたのだろうかと、全員が首を傾げた瞬間……その目から大粒の涙がこぼれ落ちた。


「え、な、何でクレア先輩泣いて――」

「あり……がとう……」


 クレアはぽろぽろと涙を流しながら、ティアの両手を握った。


「わ、私……ずっと……もう、絶対に貴女には許してもらえないと……父がした仕打ちの酷さは知っていました……だから……だから……せめてもの罪滅ぼしと思い……私……」

「分かりました! 分かりましたから、その、もう泣かないでください……」


 まさか、泣き出すとは思っていなかったのだろう……面白いように狼狽えるティアと、涙を流し続けるクレアを、この場にいる全員が温かい視線で見守る。


「なぁ、ミリア」

「何ですか、兄さん?」

「俺知ってるぞ。こういうのをガチ百合っていうんだうぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ミリア! 兄ちゃんの眼球は勢いで潰していいもんじゃねーぞ!?」

「大丈夫です。今、ここにいる全員が内心でGOサイン出したと思うんで」


 ナチュラルに繰り出された目つぶしを喰らってのた打ち回るラルフを、クズ虫を見るような瞳で見下ろすミリアというお馴染みの構図ができあがっている横で、クレアが目じりの涙を拭う。


「すみません、突然泣き出してしまって……でも、よかった。ティアさん、貴女がエア・クリアに帰る時は、ぜひ私を頼ってくださいね。歓迎しますよ」


 クレアの言葉に、ティアは苦笑を浮かべたまま首を横に振った。


「でも、卒業するのは二年も先の話ですし……なにより、私は卒業したら冒険者としてファンタズ・アル・シエルに――」

「もしかして、ティアさん……あの話、聞いていないんですか?」


 クレアの言葉に、ティアが首を傾げる。


「え、聞いていないって何が……」

「そうです……か。ティアさん、大変申しにくい事なんですが……」


 そう言葉を区切り、クレアはティアの目をまっすぐに見ながらそれを言葉にした。





「シルフェリスの全学院生は春期休暇終了と同時にエア・クリアに強制帰国せよ……今朝、寮の掲示板に張り出してあったはずです」

 




 星誕祭の時に行われた五種族代表者会議で、ザイナリアが一方的に他種族に突きつけた案件。それが、今、この時をもって効力を発揮したのである……。


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