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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
八章 リンクフェスティバル~それぞれの行く先~
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リンクフェスティバル開幕⑨~決着~

「我が先陣を切る。その後にラルフが続け。双剣士、お前は二重の意味で視野が広い……最後尾でバックアタックを防ぎつつ、余裕があれば霊術で我とラルフの援護をしてくれ」

「僕なら鎖の動きが読めますから、斬り込みでもいいですけど」


 <ヴァリアブルスラスト>を軽く振って言うアルベルトに、<アビス>の着け心地を確認しながら、グレンが応える。


「ラルフも我も近接格闘に特化している以上、最後尾に着くのは得策ではない。別の言い方をすれば、最後尾を任せられるのはお前しかいないということだ」

「無敗の王者、グレン・ロードにそうまで評価してもらえるなんて光栄極まりないですね」

「なに、消去法というだけのことだ」

「あはは、手厳しい」


 ――うーん、頼りになるなぁ。


 テキパキと段取りを決める上級生の二人の会話を聞きながら、ラルフは唸り声をあげた。

 敵として戦ったことのある二人だが、味方となればこれほど頼もしい相手もおるまい。兄貴分というのはこういう人たちのことを言うんだろうなーと、ラルフは思う。

 そんなことを考えていると、グレンが視線を向けてきた。


「ラルフ、お前はセシリアに接近するまでは我の後ろに付き、射程内に入ったら全力攻撃を仕掛けろ。我も合わせる。何はともあれ……あの防御を破らなければ話にならん」

「はい!」


 ラルフが勢い込んで答えると、グレンはスッと体勢を低くする。


「ではいくぞ……これで決める。二手はないと思え」


 警戒するように無数の鎖を揺らす<フィグメント>に向けて、グレンは駆け出す。すでに身体強化魔術は使用済みだ……地面が炸裂したかのように爆ぜ、グレンの体が一瞬でトップスピードに乗る。

 その後ろを、ラルフが全速力で駆ける。こちらも『エンハンスバーニング』と『フォートプロミネンス』、そして気力法を用いて大幅に身体能力を強化している。グレンにおいて行かれるということはない。

 そして、最後にアルベルトがしんがりを務める。

 グレン、ラルフ、アルベルトの順で塊となって疾風怒濤の勢いで<フィグメント>本体へと突っ込んでゆく。無論、<フィグメント>とて無防備に接近を許すはずがない。

 無数の鎖が、一斉にグレンに襲い掛かるが……相手が悪い。


「邪魔だ!」


 グレンが全身に纏っていた魔力が、放射状に放たれ、全方位から近づいて来ていた鎖を一斉に弾き飛ばした。

 魔力とは、言ってしまえば内在霊力のことだ。魔力そのものを攻撃に転用するなど、愚の骨頂以外の何物でもないのだが……やはり、この男には常識が通用しない。


「カラミティアフィストッ!」


 右腕に収束させた莫大な魔力を衝撃波に変えて、グレンが必殺の拳を繰り出す。

 <フィグメント>はすぐさま血の鎖で鎖帷子を編み――攻と防が激突する。

 解放された魔力が暴れまわり、衝撃の余波が大地をめくりあげ、吹き飛ばしてゆく。霊術コーティングを施された校舎すらも飴のように吹き飛ばすグレンの一撃……しかし、それだけの威力をもってなお、血の鎖は砕けない。

 だが――


「バーストブレイズインパクトッ!!」


 グレンを飛び越え、上空から打ち下ろすようにしてラルフの灼熱の拳が追撃を掛ける。


「最大出力! 燃え尽きろぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 全てを灰燼へと帰す灼熱の業火が血の鎖を圧倒する。

 グレンの強烈な物理衝撃と、ラルフの灼熱の炎を受け、最初は微かな……けれど、決定的な亀裂が鎖に入り、それが瞬く間に広がってゆく。

 そして……硬質な音ともに、鎖帷子が破壊されたのを見計らって、アルベルトが全速力で駆けてくる。


「ラルフ君! 拳、貸してくれ! 飛ぶ!」

「行ってください!」


 地を蹴って飛び上がったアルベルト――そのブーツの裏に向けて、ラルフは拳を叩き込んだ。

 斜め上方に向けて加速したアルベルトは、空中で一回転……眼下に<フィグメント>を捉える位置に陣取った。


「『光輝なる煌めきを宿す刃、今こそ其は、闇を切り裂く不滅の光となれ! イモータルシャイン!』」


 双剣<ヴァリアブルスラスト>が眩い光を放つ。

 まさにその詠唱の名の通り、血の鎖がのたうつ中、双剣より発せられる光は清浄なる輝きをもって<フィグメント>を照らしだす。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 大きく両手の双剣を振り上げ、流星のようにアルベルトが<フィグメント>へ迫る。そして、光の双剣が<フィグメント>の表紙に達した瞬間、硬質な音を響かせて、刃が止まる。


「霊術障壁!?」

「うむ、そのようだな」


 襲い来る血の鎖を捌いていたラルフとグレンは、すぐさま援護の構えを見せる。

 だが……。


「いい加減に……セシリーを返せぇぇぇぇッ!!」


 拮抗状態にあったアルベルトが咆哮と同時に、双剣に霊力を流し込む。

 双剣が放つ輝きは更に眩いものとなり、そして――


「消えろ!」


 振り抜かれた双剣の軌跡が、違うこと無く霊術障壁ごと<フィグメント>を切り裂いた。まるで、痛みにのたうち回るかのように血の鎖が悶えていたが……本体の消滅と同時に、血の鎖もまたその姿を消した。


「終わった……かな?」

「ふむ、そのようだ……このリンクフェスティバルもな」


 どういう意味だろうとラルフが首を傾げるよりも先に、学院の鐘の音が鳴り響く。

 そう、リンクフェスティバルもまた、今、この瞬間に終わりを告げたのである。いたる所で挙がる勝鬨を耳にしていると、グレンがラルフの目の前でため息をついた。


「まったく、最後の最後で面倒な横槍が入ったものだ」

「あはは、本当にそうですね……」


 視線を横に逸らせば、地面に倒れるセシリアを介抱しているアルベルトの姿が目に入る。


 ――本当に、さっきのアレは何だったんだろうな……。


 先ほどまで戦っていた<フィグメント>は明らかに普通ではなかった。あれを神装と断じるにはあまりにも異様で……。


「グレン先輩、本当にさっきの神装は何だったんでしょうね」

「分からん。分からんが……」


 グレンもまたアルベルトとセシリアの方へと視線を向け、微かに眉を寄せた。


「何か、第三者の意図を感じずにはいられないな」

「…………」

「今論じてもしょうがあるまい。それよりもだ、ラルフ」


 ポンッとグレンはラルフの肩に手を置いた。


「お前の宣言通り、今日は楽しめた。決着を付けられなかったのは心残りだが……久しぶりに『グレン・ロード』としての全力を出すことができた」

「は、はい!」

「まぁ、最後に勝っていたのは我だっただろうがな」


 その言葉に、ラルフはムッと眉を寄せる。


「分かりませんよ! 俺が勝っていたかもしれません!」


 意地を張ってラルフが言うと、グレンは小さく苦笑を浮かべる。


「何にせよ……これで我の学院生活は終わりだ。あっという間に卒業となるだろう」

「あ……」


 そうだ。このリンクフェスティバルは三年生にとっては最後のイベント……つまり、これを最後に、グレン・ロードはこの学院を卒業してしまうのである。


「そうか、寂しくなりますね」

「そうなのだが、何故だろうな。我には、そう遠くない先、また、お前と会う気がしてしょうがなく感じるのだ。そして、その時……この勝負に本当の決着がつくのではないか、とな」

「…………」


 もしもその言葉が本当ならば、グレンとラルフが再開するその時……二人は敵対しており、本当の意味で命を懸けた死闘を繰り広げるということを意味する。

 そして、この言葉は後に真実となるのだが……この時のラルフには、想像すらもできていなかった。


「ラルフ、強くなれよ」


 そう言って、グレンは手を差し出してくる。

 ラルフは、その手をグレンの顔を交互に見た後、ニッと笑顔を浮かべて、強く手を握った。


「はい、頑張ります! グレン先輩も、頑張ってください。この学院から、応援してます!」


 憂いも未練もなく、ラルフはそう言ってグレンの言葉に答えたのであった。


――――――――――――――――――――――――――――

 

 こうして、リンクフェスティバルは終わりを告げる。

 この数か月後……グレンは見事に首席でこの学院を卒業し、故郷であるドミニオスの大陸『シャドル』へと帰国。

 そして、選王の儀でレッカ・ロードと戦い、これに勝利――王となったらしい。

 何でも相当な激闘だったらしく、凱覇王レッカもグレンも意識不明の重体……戦場となったコロッセウムは半壊し、巻き込まれた観戦者にもかなりの数の怪我人が出たのだとか。

 それでも盛りあがったというのだから、そこら辺はお国柄か。

 何にせよ、これからのドミニオスの国の舵取りは、若き王に託されることになった。

 そして、もう一つ……セシリアの件だが、神装<フィグメント>を破壊されてから、ずっと中央病院で眠りつづけている。どうして目を覚まさないのか、医者にもわからないらしく、完全にお手上げ状態なのだとか。ともかく、この件は彼女の祖父である学院長イスファ・ベルリ・グラハンエルクの預かることとなった。

 アルベルトは、彼女を見舞うために足しげく病院に通っており、よく花屋で花束を買っては病院へと持って行く姿が目撃されている。

 そして、三年生『煌』クラスの最後の一人――クレア・ソルヴィムが、今日、故郷であるエア・クリアへと帰ることとなった。


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