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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
八章 リンクフェスティバル~それぞれの行く先~
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リンクフェスティバル開幕③~三獣姫~

 ドタバタと勇猛邁進のメンバーが校舎内になだれ込んで行くのを見送り、アレットは改めて空中に留まるジャンヌ・ベルトワーズと相対した。


「ラルフや他の子達が心配かい?」


 腰に手を当て、口の端を釣り上げながら聞いてくるジャンヌに、アレットは少し考え込んでから小さく頷いた。


「……心配はしてる。でも、大丈夫だと思う」

「へぇ、ずいぶん強気じゃないかい。言っとくけど、アタシのリンクメンバーは一筋縄ではいかない。いくらラルフが強かろうとも――」

「……ラルフだけじゃない。ティアさんも、ミリアも、チェリルも……あの子達は凄い潜在能力を持ってる。私なんて、簡単に超えて行けるほど。ジャンヌは、あの子達を甘く見過ぎ」


 アレットの言葉に、ジャンヌは言葉を止める。


「はっ、天下無敵のアレット様がそうまで言うなんてね。よほど、あの子達を買っているらしい」

「……もちろん。私の可愛くて、自慢の後輩」


 そう言いながら、アレットは神装<白桜>を構える。


「でも、心配であることにかわりはない。貴女を倒して、加勢に行く」

「はっ! 調子に乗りすぎだね、アレット! そうそう簡単にアタシを落とせると思ったら大間違いだよ!」


 ジャンヌが空高く右手を掲げると、彼女の周囲に人の頭ほどの雷の弾丸が複数出現する。


「行け! 雷玉!」


 ラルフと戦った時は、実力を測るために格闘戦のみで戦っていたジャンヌだが……本来、彼女はアレットやシアと同じく霊術と体術を組み合わせた戦い方を得意とする。

 ジャンヌを中心にしてグルグルと円を描いていた雷の弾丸が、猛烈な速度でアレット目がけて飛翔する。発動速度が最速の雷型霊術なだけあって、その飛翔速度は目を見張るものがある。

 だが……それを易々と受けるアレットではない。


「……ふっ」


 <白桜>を正眼に構えたアレットは、踏み込みつつこれを一閃。更に、続けざまに来る雷弾を巧みな切り返しで次々と切り落としてゆく。

 殆どその場を動くことなく、全ての雷弾を切り落としたアレットに、続けてジャンヌが突進してくる。虚空を蹴ることで加速したジャンヌは、その場で旋回――蹴り落とすような、猛烈な回し蹴りが襲い掛かってくる。

 側頭部目がけて迫りくる爪先を、アレットは屈んで回避。

 そして、畳んだ両足のバネを瞬時に解放……伸び上るようにして、下段からの切り上げをジャンヌに見舞う。


「チッ!」


 ジャンヌは舌打ちを一つすると、回し蹴りで得た慣性に自身の体を乗せるように、宙を飛ぶ。空中を駆け抜けることができるジャンヌならではの、物理法則を無視した軌道の回避である。


 ――相変わらず面倒。


 ジャンヌ・ベルトワーズを相手にする場合、『○○という軌道で攻撃をしたから、相手は○○の方向に避ける』……という、経験に基づいたシミュレーションが完全に役に立たない。

 というよりも、むしろ足を引っ張る。

 行動の先読みをしたつもりで先手を打って動けば、予想外の方向に回り込まれ、致命的な一撃を受けかねない。これは、格闘戦に秀でた熟練者であればあるほどに、陥りやすい罠だ。

 事実、近接格闘を得意とする『輝』クラスの三年生を、ジャンヌが一方的に完封することは、珍しくない。

 ジャンヌの天敵となりうるのは、ラルフのように経験よりも直感を重視して動くタイプの者だろう。ジャンヌと同じく、型にハマらない戦い方をするため、ジャンヌの奇襲が通じにくいのだ。

 そして、アレットはそのほぼ中央……経験と直感の両方を絡めて戦うタイプだ。

 そのため、完全にジャンヌの動きに翻弄されることはないが……少しでも気を抜いてしまえば、隙を晒してしまうことには変わりない。


「喰らいなッ!」

「……無駄」


 アレットの側面に回り込んできたジャンヌの蹴りに対し、アレットは<白桜>をぶつけることで相殺。互いに背後に跳躍し、距離を取る。

 アレットは<白桜>を下段に構え、再び距離を詰めんとするが……それよりも先に、ジャンヌが屋根に降り立つと、全身に雷撃を纏い、大きく右足を上げた。


「雷震脚ッ!」


 ジャンヌが鋭く屋根を踏みしめた瞬間、右足を基点として屋根の上を雷撃の波が走った。

 波の高さはせいぜい三十セント、子供でも飛び越えられるほどの高さしかない。しかし、アレットはこの波を飛び越えるのではなく……根底から破壊することを選んだ。


「……桜花繚乱!」


 <白桜>を芯にして、霊力が激しく渦巻き始める。まるで小型の竜巻のように唸りを上げる霊力の渦を、アレットはそのまま真っ直ぐに叩き付けた。

 霊力の渦は解き放たれると同時に、純白の花弁混じりの衝撃波へとその姿を変え、屋根を覆っている瓦を吹き散らしながら雷震脚に喰らいつく。

 双方が拮抗したのはほんの一瞬だけ。瞬く間に桜花繚乱は雷を飲み込み、その背後にいたジャンヌに牙を剥く。


「く、なんて馬鹿げた霊力量だい……!」


 流石のジャンヌも辟易したのだろう……すぐさま空へと退避した。


「まさか、真っ向から潰しに掛かってくるなんてね。力押しなんてスマートじゃないね、アレット」

「……貴女の傍で地面から両足を離すのは危険すぎる」

「ふん、しっかりとこっちの狙いを読んでたわけかい」


 彼女の雷震脚は、むしろ、攻撃よりも相手の両足を地面から離させることを目的としている。

 空中戦はジャンヌの独壇場だ。地面から足が離れた瞬間、一気に接近されて一方的に攻撃されることになるのは目に見えている。

 <白桜>を正眼に構えるアレットに、ジャンヌは口の端を歪めてみせる。


「でも、それでいいのかい、アレット? アンタは空中にいるアタシに手を出せず、アタシは一方的に攻撃できる。もちろん、そんな小手先でアンタを倒せるとは思っちゃいないさ。でもね……」


 ジャンヌは軽く肩をすくめた後、校舎の一角を指差して見せる。

 指差された先……校舎の端、袋小路となっている所では、屋根の上にいるアレットとジャンヌにまで聞こえるほどの怒号と閃光が瞬いている。

 恐らくは、激戦が繰り広げられているのだろう。窓ガラスが盛大に割れ、霊術によって生じた炎や雷や水が荒れ狂っている。


「そうやって時間を浪費すればするほど、袋小路に追い詰められたあの子達が窮地に立たされるってもんさね」


 確かに、ジャンヌの言うとおり窓から見える生徒達は、先ほど校舎に突撃していった勇猛邁進のメンバーであり、袋小路に追い詰められているのはラルフ達だった。

 チェリルやミリア、ティアを背中に庇い、ラルフが矢面に立って接近してくる面子を一人で捌いているのが見える。

 勇猛邁進のメンバーたちの連携は密に取れているようだ……前衛と後衛に綺麗に分かれ、絶え間なく波状攻撃を仕掛けている。

 大火力を持つチェリルは次々に飛んでくる霊術に防御一辺倒になり、ラルフは常に複数人を相手取らなければならず、攻撃に回る暇がない。

 まさに多勢に無勢……完封というに相応しい状況だ。


「さぁ、それでもそんな風に呑気に戦えるのかい、アレット?」


 試すように言ってくるジャンヌに対し、アレットはぽりぽりと頬を掻きながら首を傾げる。


「……それ、たぶん、ジャンヌの方だと思う」

「は?」


 ジャンヌが気の抜けた声をこぼした瞬間、風に乗って清らかな旋律が流れてくる。

 激戦区の中にあって思わず手を止めてしまうような天壌の歌声。いっそ、魔性といっても過言ではない魅力を内包した歌声が学院中に響き渡った。

 それは、先ほどジャンヌが指し示した校舎の袋小路部分から聞こえてくる。

 そして――



「バァァァァァァァァァァストブレイズ、インパクトォォォォォォォォォォォォッ!!」


 

 咆哮と同時に、窓という窓から炎柱が噴き出した。

 霊術コーティングが為された校舎が、想像を絶する高温高熱に溶解し始め、辛うじて窓枠にへばりついていたガラスが液状化して地面に落ちる。

 あまりの熱に周囲の光景が歪む中……校舎の中に溢れた劫火が収まった後には、焦げ付き、異臭を放つ廊下だけが残っており、先ほどまで廊下にひしめいていた勇猛邁進のメンバー達は影も形もなくなっていた。


「……………………」

「……袋小路に追い詰められたと見せかけて、相手が集まっている所に最大火力を叩き込んで一網打尽にする。馬鹿げた火力を持っているラルフと、それを最大限に活かすことができるティアさんがいるからこそできるコンビネーションだね」


 『大火力の範囲攻撃が出来るのは、マナマリオスのチェリルだけ』と思わせておいて、その実、火力の要は前衛のラルフだったと言う訳だ。

 ティアの詠詩霊術による援護を受けたラルフの攻撃力はまさに暴力的の一言につきる。

 ほぼ詠唱の必要がないバースト・ブレイズインパクトは、セイクリッドリッター戦でも見せた通り、上級霊術に匹敵するレベルの破壊力を秘めている。

 そんなものを至近距離から、おまけに、何の前触れもなくぶっ放されるなど、勇猛邁進のリングメンバー達からすれば、たまったものではなかっただろう。

 陽だまりの冒険者のメンバー達がハイタッチを交わしているのを見ながら、アレットは腕を組んでウンウンを頷き……呆然としているジャンヌへと視線を向ける。


「……それで、ジャンヌはどうする? 降参する?」

「あ、あはははは……これは……予想外だ。まさか、ここまでとはね」


 余裕をみせようとしているようだが……明らかにジャンヌの顔が引きつっている。

 アレットは内心でジャンヌに同情した。

 陽だまりの冒険者に所属している一年生組の潜在能力は、アレット自身が言ったように尋常ではない。ラルフの太陽のようなド派手な力に隠れがちだが、ティアも、チェリルも、ミリアも、実力そのもので言えば群を抜いている。

 しかも、たちの悪いことに……その能力は表からは見えず、実際に相対し、戦ってみないと分からない。打ち負かされた勇猛邁進のメンバー達は、プライドをぽっきりと折られてしまったことだろう……不憫である。

 アレットは<白桜>で肩を叩きながら、首を傾げる。


「……どうする? ラルフ達、こっちに向かってるけど? 五対一で勝てる?」

「ふふ、だがアレット。意外とツキはアタシにあるようだよ」


 その言葉に疑問を覚えたアレットだったが……すぐにその正体は分かった。

 勝利に歓喜するラルフ達を取り囲むように、『花鳥風月』の面子が接近してきていたのだ。

 シアとアルベルトを隊長としてメンバーを二部隊に分け、挟撃できる位置に陣取っている。対して、ラルフ達は花鳥風月のメンバーの接近に全く気が付いていない。

 勝利の余韻が、今の油断を生み出していた。


「……ッ!!」


 アレットの判断は早かった。

 <白桜>に霊力を纏わせ、それをラルフ達の傍に向かって打ち放つ。

 ほぼ半壊状態になっていた校舎は、衝撃波の直撃で派手な音をたてて崩れ落ち、中にいた一年生組がギョッと目を剥く。

 これによって、警戒心を取り戻したのだろう。

 周囲を警戒したチェリルが、花鳥風月の接近を感知。すぐさま迎撃態勢を整え始める。


 ――間に合った。


 距離がある関係上、こちらの方が言葉よりもなお雄弁に危機を伝えることができる。

 ホッと安堵の吐息をついた瞬間、膨れ上がった闘気を感じて、アレットは<白桜>を振り抜いた。

 <白桜>の刀身と、<ヘルメス>の蹴りがぶつかり、火花が散る。


「ま、今回のことで余計にラルフが欲しくなっちまったよ。成金があの子達を押さえてくれている間に、アレット……アンタを潰す! ラルフはアタシがもらうよ!」

「……ラルフはうちの子。渡さない」


 双方、神装を構えて同時に前方に向かって駆け出す。

 そして、互いの神装がぶつかり合う――そのタイミングで、豪風がジャンヌとアレットを叩いた。微かにバランスを崩した二人の耳に、高らかに詠唱が木霊する。


「神龍裂爪!」


 それはまるで、巨大な龍の爪撃。

 獰猛なまでの斬撃力を付与された巨大な風の刃が五連……それが、アレットとジャンヌをまとめて薙ぎ払わんと振り抜かれる。


「……!」

「…………」


 ジャンヌとアレットの視線が交錯したのは一瞬。

 互いに示し合わせたかのように神装を押しやり、その勢いを利用して大きく背後に飛ぶ。

 その間を猛烈な勢いで五連の風が吹き抜け、桜花繚乱で半壊状態にあった屋根に、大きな爪痕を残す。

 残った風が微かに髪を揺らす中、悠々と屋根に飛び乗ってきたのは……派手な着物を大胆に着崩した狐耳のビースティスにして、二年『煌』クラスの最後の一人――シア・インクレディスであった。


「んふふふ、真打登場ですわ!」

「帰れ、成金」

「……シア、迷惑」

「なんでわたくしの扱いだけこんなに雑なんですの!?」


 シアは巨大な鉄扇<風月>をぶんぶんと振り回しながら喚いたが、諦めたのだろう……大きくため息をついた。


「まぁ、良いですわ。これで、役者は揃いましたわね」

「……まさか、本当に全員そろうなんて」

「ちっ、めんどくさいことになった」


 二年の最強戦力である『煌』クラスの者達――三獣姫が一か所に集まるなど、そうあることではない。

 互いに等間隔を置いて、牽制しあう三名。

 どこか一カ所でも均衡が崩れれば、その瞬間に再度激突が始まるだろう。緊張感を孕んだ睨み合いは……けれど、思わぬところで崩されることとなる。


「あ、あら……? 地震……?」


 グラグラと地面が揺れ始めたのだ。

 最初は微かな……けれど、その揺れは次第に大きなものになってゆく。

 学院のいたる所で悲鳴が上がる中、アレットは強い霊力の反応を感知して思わず眉をひそめた。


 ――なに、これ?


 まるで、学院全体を押し上げるように迫ってくる霊術。

 全体像が一切つかめないほどに巨大な霊術は、まるで、爆発の瞬間を待つように内圧を高め……そして、一斉に噴出した。


「な!? こ、これは!?」


 大地が霜に覆われ、凍り付いてゆく。

 その冷気は地面を伝い、建物をも全て凍らせ、瞬く間に世界を白銀の色に染め上げてゆく。

 そして、誰もが唖然として白銀の世界を見入っていた時、その隙をつくように――地面が炸裂した。

 地を割って顔を出したのは、大小様々な氷の刃。

 それが無数に……それこそ、地面が剣山になるほどの密度で次々と突きだしてくるのだ。

 突きだされる氷の刃に次々と生徒達が切り裂かれ、貫かれ、リタイアしてゆく。生徒達の中には、神装で迫りくる氷を割り砕いたり、霊術で上手く防御をしたりした者もいるようだが……ごく少数だ。

 それはまさに、阿鼻叫喚というに相応しい光景だった……。


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