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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
八章 リンクフェスティバル~それぞれの行く先~
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宣戦布告

 作戦会議が終了したのはすでに周囲が暗くなってからだった。

 中央トラム乗り場で他のメンバーと別れたチェリル・ミオ・レインフィールドは、一人でマナマリオス寮行のトラムを待っていた。

 明日からチェリルのアトリエを整理整頓し、リンクフェスティバル仕様に変更するため、大改装を開始することになっている。防御用の霊術を仕込むのはもちろんだが……それ以外にも、色々と仕込む予定だ。


「はぁ……明日から大変だなぁ」


 寒くなってきた夜気の中で立ち尽くしながら、チェリルはかじかむ指先を吐息で温める。

 大変だと、口では言いながらも自分の心が弾んでいることをチェリルは自覚していた。皆で集まり、会話を交わす時間がとても楽しいのだ。

 家族を知らぬまま孤児院で育ったチェリルは、己の頭脳を活かして様々な発明品を生み出すことで生活費を稼ぎ、いままで一人で生きてきた。

 寂しいという感情は特になかった。

 他人の視線に恐怖を覚えるというトラウマを持っていることもあって、むしろ、他人と距離を取れるなら一人の方がいいとすら思っていた。

 けれど、この学院に来て、ラルフと出会って、ティアやミリアやアレットと友達になり……気が付けば、他人の視線に恐怖することも減っていた。

 むしろ、心を許した彼らと一緒にいる時間は、チェリルにとってとても心地よく、掛け替えのないものになっていた。


「皆、ボクのことを頼りっきりでさ……しょうがないなぁ、明日も頑張ろう」


 ふにゃっと表情を崩し、チェリルは小さな手を握りしめた。

 決意を新たにしたチェリルだったが、不意に聞こえてきた足音に、ビクッと身を震わせる。

 すでに周囲は暗くなっており、大抵の学院生は寮に帰っている時間だ……一体誰だろうかと、恐る恐る暗闇へと視線を向けたチェリルは、その姿を認めた瞬間、凍り付いた。

 マナマリオス特有の紫紺の髪を白のカチューシャで纏めた女性――ラルフとチェリルと捕えてシルフェリスに引き渡した三年『煌』クラスのセシリア・ベルリ・グラハンエルクであった。


「う……あぁ……」


 小さく呻いたチェリルは、タイミングよく来たトラムに逃げるように飛び乗ると、まるで自分の存在を消すように隅で小さくなった。

 恐怖で震えるチェリルとは対照的に、遅れて乗ってきたセシリアはすました表情で席に座って文庫本を開いた……チェリルなど眼中にないかのような振る舞いである。

 下手に突けば爆発してしまいそうな緊張感の中、トラムが出発する。

 生きた心地がしないまま、隅で小さくなって息を殺していたチェリルは、数分後にトラムが寮に到着したことを確認して安堵の吐息をついた。

 きょろきょろと車両内を見回しても、セシリアの姿はない。

 チェリルは足音をたてないようにこっそりと移動すると、足早にトラムを降り――


「ぴっ!?」


 車内からは死角になっていた場所で待ち構えていたセシリアにぶつかった。


「貴女、リンクフェスティバルには出るんでしょう?」

「…………」


 耳にかかった髪を払いながら声を掛けてくるセシリアに対し、チェリルは完全に硬直してしまっている。一向に声を上げないチェリルに苛立ったのだろう……眉間にしわを増やして、苛立たしげにセシリアが口を開く。


「出るのかと聞いているの。ハイかイイエで答えなさい」

「は、はいっ!」


 直立不動になってチェリルが答えると、セシリアは満足そうに笑った。

 ただ……感情の薄い瞳だけは全く笑っていない。むしろ、殺意と紙一重の戦意が炯々と輝いており、それを一切隠そうとすること無くチェリルにぶつけてくる。


「貴女は必ず私が殺す。真っ向から、一切の言い訳もできないほど徹底的に」


 セシリアは人差し指をチェリルの首に押し当て、ゆっくりと横に引く。

 押し付けられる爪の硬い感触に、チェリルは生きた心地がしない。顔面蒼白になって怯えるチェリルを見て満足したのか、セシリアはその場で踵を返した。


「覚悟していなさい。私がこの学院で最も優秀な霊術師であることを証明してみせる」


 氷の刃のように冷たくも鋭い言葉を残し、セシリアは寮の方角へと歩き去って行ったのであった……。


ちょっと長くなったので、二話に分割しますね。

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