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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
八章 リンクフェスティバル~それぞれの行く先~
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凱覇王レッカ・ロード 来訪

 瞬く間に六日の日が過ぎ、ラルフとチェリルは学院の貴賓室の前にやって来ていた。

 各国の王や代表クラスの人間が通されるこの部屋は、恐らく、学院の生徒達が最も縁遠い部屋だろう。実際、ラルフのこの部屋の前に立つのは初めてだ。

 そして、ラルフの隣では、ガチガチに緊張しているチェリルと、困ったように苦笑いを浮かべているエミリーが立っている。


「チェリルさん、そんなに緊張しなくても良いんですよ?」

「で、ででででででも、この扉の向こうにいるのは、泣く子も黙る凱覇王レッカ・ロードなんでしょう!? うぅ、緊張しない方が無理だよぅ……」


 そんなチェリルの隣で、ラルフが首を傾げる。


「なぁ、レッカ王ってそんなに怖いのか? 星誕祭のスクリーンで見た時は、おちゃめな人に見えたけれど」


 ラルフの言葉に、チェリルが顔面蒼白のまま無言で首を横に振った。


「まぁ、実際にレッカ王は好き放題にやって色んな伝説を作っていますからね。レッカ王を王座から引きずりおろそうとした数百名を一人で全員半殺しにしたとか、大量殺人を起こした邪神教の狂信者を自らの手で皆殺しにしたとか。真偽のほどは定かじゃないですが」


 その他にも、王宮にいる女性は全てレッカ王のお手つきだとか、一人で大型終世獣を倒したことがあるとか、どこまで本当か分からない噂が尾ひれと背びれを引っ付けて歩き回っている。

 ラルフはエミリーの言葉を聞いて、腕を組んで笑った。


「半殺しとか皆殺しとか、確かに穏やかじゃないっすね」

「きっと、ボク達も下手なことをしたら、ボコボコに殴られるんだ……っ!」


 ガタガタと震えるチェリルの頭を、苦笑を浮かべながらエミリーが撫でる。


「さすがのレッカ王も、学生相手にそこまでしませんし、させませんから。さ、あんまり待たせるのも失礼ですから、入りますよ」

「え、あ、ちょ、待って!?」


 チェリルが止めるのも、すでにエミリーの手は扉を押しあけていた。

 シルフェリス産のベルベットのカーテンに、ビースティスの大陸ナイルに生息するミュミュルの毛皮をふんだんに使った絨毯、ドミニオス産の貴白石から切り出された机に、マナマリオスで開発された七色に輝くゴブレット、そして、ヒューマニス産のトゥインクルマナを使用した装飾品の数々――様々な地域の一級品の家具で構成された部屋の中央にその男はいた。

 ソファに深く腰掛け、足を組み、睥睨するような視線を向けてくるこの男こそ、凱覇王レッカ・ロード。他国にまでその武力を知らしめる王である。


 ――なるほど、スクリーン越しじゃこの迫力は分からないな……。


 どこか安心感を覚える盤石なゴルドの強さとも、万物を両断する刃のような鋭利なフェリオの強さとも異なる、苛烈で、獰猛極まりない強さ……それが圧力となって問答無用でラルフ達に圧し掛かってくる。


「お前らがゴルドん所の坊主と、エクセナの行方を知りたがっているチビスケか」


 無造作に伸ばされた紫紺の髪を荒々しく掻き上げ、レッカが真紅の瞳でラルフとチェリルを見据える。これに対して、ラルフは意識を強く持ったまま頷く。


「俺がゴルド・ティファートの息子。ラルフ・ティファートです。初めまして、凱覇王レッカ・ロード」

「ほぉ……なかなか肝が据わってるじゃねぇか」


 レッカの口から関心の色合いを含んだ吐息がこぼれ、ニヤリとその唇に嗜虐的な笑みが浮かぶ。

 レッカの放つ威圧を前にしても一歩も引かないラルフに興味を抱いたのだろう……次の瞬間、全身に圧し掛かる重圧が一気に増す。まるで、先ほどまでは小手調べだと言わんばかりに。


 ――ぐ、これ……は……。


 流石は凱覇王レッカ・ロードというべきか。

 鍛錬の時にゴルドが放つ闘気と遜色ない衝撃に、ラルフは奥歯を食いしばって平然とした顔を取り繕う。ちなみに、隣ではチェリルが立ったまま白目を剥いている。

 レッカの鮮血のような真紅の瞳と、ラルフの灼熱の炎のような真紅の瞳が切り結び、火花を散らす。

 と……その時だった。

 エミリーが来客用のスリッパを片手に、ツカツカとレッカに近づくと、そのまま思い切りスリッパを振りかぶり、スパーンッ!! とその頭を叩いた。


「私の可愛い生徒に何してるんですか、このボンクラ」

「いってぇな……ドミニオスの王である俺様の頭をスリッパでぶん殴る女など、世界広しといえどお前ぐらいだぞ、エミリー」

「貴方相手に遠慮という言葉を使う必要性を感じないので」

「ちっとは俺様相手にも可愛げを見せてみたらどうよ、あぁん? ゴルドの前では年甲斐もなく今でも純情ぶったアプローチを掛けてんだ――」

「死ね」

「待て待て待て待て待て待て!! お前の霊術はシャレにならん!」


 エミリーの掲げた手に、尋常ではない霊力が収束しつつあるのを感じて、レッカが慌てて両手を振る。この一連のやり取りだけで、この二人の力関係が見えるというものである。

 青筋を浮かべながらも、何とか矛を収めたエミリーは、心底冷え切った視線をレッカに落とす。


「さぁ、こうして顔を見せたんです。知ってることちゃきちゃき吐いて下さい」

「その前に確認させろ。エクセナ生存の証拠を持ってきたうえに、アイツと似た人格を持っていると言うのは、そのチビスケで間違い…………よく見りゃ、どっちもチビだな」

「俺はチビじゃない!! はっ! す、すみません……」


 反射的に反論したラルフに、レッカは適当そうにひらひらと手を振った。


「安心しろ、いいか、男にとって大事なのは身長じゃねぇ……器とナニのデカさだ! どっちもデカくなきゃ、女を満足させることなんざ――痛ぇ!?」

「次、スリッパに霊術をエンチャントしてぶん殴るので、そのつもりで」

「お前の霊術をエンチャントしたら、頸椎が捩じ切れるわ! ったく、この暴力女が……おい、坊主、隣のチビスケを起こせ。立ったまま気絶してんぞ」


 レッカの言葉に従って隣を見れば、確かにチェリルが白目を剥いて、立ったまま気絶していた。ラルフがチェリルを揺さぶって起こすのを確認し、レッカが口を開く。


「さて……それじゃぁ、お前らがエア・クリアで体験したことを片っ端から話せ。何でもいい、ともかく起こったことを全てだ」


 レッカに言葉に対し、チェリルが恐る恐るといった様子で手を上げる。


「あ……あの、ぼぼボク……途中から記憶が曖昧で……その……」

「分かっている所まででいい。何もお前らに今回の件の『裏で動いてるもの』まで見通せとは言ってねぇ」

「は、はははははい!」


 相変わらずカチコチに緊張しているチェリルを見て、ラルフは苦笑する。

 本来、このような場では頭の働くチェリルに任せることが大半なのだが……緊張している彼女にそれは酷だろう。


「チェリル。俺が説明するから、チェリルはおかしいと思った所とか、補足とかあったら教えて」

「う、うん」


 頷く彼女の頭をポンッと叩き、ラルフは浮遊大陸エア・クリアで起こったことを話してゆく。

 所々つっかえつっかえになったものの……意外なことに、レッカはその間、一度として口を挟むことなく、真剣に話を聞いていた。

 そして、全てを聞き終わったレッカは、顎をさすりながら何事かを考えていたが……不意にエミリーの方へと顔を巡らせた。


「エミリー、そこのチビスケの別人格についてどう思うよ」

「……エクセナ、そのものですね。私は実際に遠距離通信もしましたが、話し方もそっくりでした。本当に……エクセナが生き返ってみたいに」

「エクセナと一番仲が良かったお前が言うんだ。そうなんだろうよ」


 レッカの言葉に、ラルフはグッと身を乗り出す。


「やっぱり、俺と一緒に戦ってくれた人はエクセナさんだったんですか?」

「『スクロール』を使った多重霊術起動もそうだが、ムカつくほど上から目線の喋り方や、執拗な程に根回しをするところもあの陰険女にそっくりではある。それに……」


 レッカはそこで言葉を切ると、懐から白黒の一枚の写真を取り出す。そこには、若かりし頃のファンタズムシーカーズ――つまり、ゴルド、フェリオ、レッカ、エミリー、エクセナの五名が映っている。


「今まで見つけることのできなかった写真と遠距離通信機を、そこのチビスケが持ってきたのを考えると、チビスケの別人格がエクセナの記憶や性格といったものを継承しているのは確かだな。写真も遠距離通信機もどちらとも世界に五つしかない代物だしな」


 ただ、と前置きしてレッカは言葉を続ける。


「あくまでも、別人格がエクセナに近い存在というだけの話だ。本人の生死についてはまだ分からん。極論かもしれんが、別人格がエクセナのコピーという可能性もあるしな。こればっかりは本人に聞いてみんことには何とも言えん」

「でも、レッカ先輩! 私は――」

「あいつは魂の研究をしていた。それぐらいならやってのけるだろ。変な期待は持つんじゃねーよ。あくまでも大前提として『エクセナはもう死んでいる』ってのがあることを忘れんな」


 一切の容赦なく断じるレッカの言葉に、エミリーが言葉を詰まらせる。


「何にせよ、チビスケがエクセナと深い関わりを持っているのは間違いない。おい、チビスケ」

「ひゃ、ひゃい!」

「お前はエクセナのこと、何も知らなかったんだよな?」


 レッカの言葉に、チェリルは小さくなりながらも一生懸命頷く。


「な、名前ぐらいしか……」

「ふむ、あの陰湿女め。一体何をしている……?」


 考え込むレッカに向かって、ラルフは一歩、踏み出す。


「あの、レッカ王。レッカ王は失踪する寸前のエクセナさんに会っていたんですよね。そのこと、俺達にも教えてください」


 ラルフの言葉に、レッカは胡乱気な視線を向けてくる。


「……なぁ、坊主。どうしてお前はエクセナのことを知りたがるんだ? 拉致の件だってエクセナに関わらなけりゃ巻き込まれなかった。この件、お前が頭を突っ込んでも何の利もないぞ」


 確かにレッカの言葉は正論だ。

 エクセナのことに関わらなければ、オルフィとの関わりもなく、ラルフはシルフェリスに拉致されることもなかっただろう。だが……。


「まぁ、心配ですから。チェリルも、オルフィも、何だかほっとけないし」

「ラルフ……」


 ラルフはポンポンとチェリルの頭を撫でた後、再びレッカに向き直る。


「臆病なチェリルが、こうして必死にエクセナさんのことを知りたがっているんです。自分の利とかはさておいても、親友として、力を貸してあげたくもなります」

「ほぉん……」


 レッカはつまらなそうに頬杖をついて話を聞いていたが、ラルフの言葉が終わると、大きくため息をついた。


「お前がゴルドの息子だってのはよーく分かった。この見ててイライラする能天気さと、ウザったいぐらいのお節介っぷりはあれか、遺伝なのか、エミリー」

「さぁ、もしかしたらそうなのかもしれませんね」


 対するエミリーはレッカとは逆に、とても嬉しそうな笑みを浮かべてラルフのことを見ている。寒暖差の激しい二人の視線を前にして、ラルフとしては、ただただ頭上に疑問符を浮かべるばかりである。


「まぁいい。分かった……それだけの証拠を持ち帰ったんだ。俺様が知っていることもお前らに教えてやろう。傾聴するが良い」


 レッカはそう言うと、自身の知っていることを静かに話し始めた。


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