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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
七章 星誕祭~無限を冠する女王と浮遊大陸エア・クリア~
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閑話 ラルフさんと三獣姫④

 上級生交流戦の翌日。

 ラルフは、ジャンヌに誘われて、歓楽街アルカディアのメインストリートに面するロアニオン・カフェにやって来ていた。

 なんでも、ここはジャンヌ・ベルトワーズが所属するブレリスト血族が運営するカフェなんだとか。

 あえて年代物の椅子や机を中心にそろえており、内装は植物の蔦や枯れ木を利用したレトロな雰囲気にまとめられている。ラルフ達のバイト先であるディープフォレストとは異なり、メインストリートにあるため立地も良く、値段もそこそこ、更に雰囲気も良いという事で意外と人気があるそうだ。

 休日はストリートに面したテラス席がすぐに埋まってしまうため、予約は必須とかなんとか。

 そして、その大人気のテラス席に座って、ラルフは丸机を挟んでジャンヌと向かい合っていた。


「さて、よく来てくれたな、ラルフ……と言いたいとこだが」


 ジロリと、ジャンヌはラルフの両端に座る面子を睨み据える。


「なーんで、お前達もいるんだ」

「ラルフちゃんはわたくしが予約していましてよ。アタシの物になれ、なんて不穏な発言は看過できません」

「……そもそも、ラルフは家の子。シアも、ジャンヌも、見当違い」

「ええっと、そう言うことで二人ともついてきちゃって……何かすみません、ジャンヌ先輩」


 そう、ラルフを挟む位置取りで、さも当然のようにシア・インクレディスと、アレット・クロフォードが座っているのである。

 奇遇にもここに三獣姫が揃ってしまったわけだが……全員が全員、長身でスタイルが良く、おまけに美人なため凄まじく見栄えがする。この場に紛れ込んでしまったラルフの疎外感と言うか、場違い感が尋常ではない。実際、先ほどからメインストリートを通る学院生達が、テラス席を二度見して通り過ぎて行っている。

 優雅に紅茶を飲むシアと、サンドイッチを頬張るアレットを忌々しげに見ながら、ジャンヌはこれ見よがしに手を振って見せる。


「アタシはラルフに用があるんだ。ほらほら、邪魔だからとっとと散りな」

「そうはいきませんわ。ラルフちゃんを狙っているのは貴女だけではないと理解しなさいな」

「……だから、ラルフは家の子。でも、言いたいことはシアと同じ。ジャンヌ、ラルフが欲しいってどういう意味か、説明してもらう」


 普段からふんわり、ほんわかしているアレットにしては珍しく、断言の形を取った言葉にジャンヌは、ふふん、と笑みを浮かべる。


「まぁ、アレットの言いたいことも理解はできる。現状、三年を含めてもラルフ以上に爆発力のあるアタッカーはそうそういない。そういう意味では、引き抜きなんて冗談じゃない! ってのは頷ける……でも」


 ジャンヌはそこまで言って挑戦的な瞳で、アレットを見つめる。


「アタシが一人の女として、ラルフ・ティファートという男が欲しいって言ったらどうするよ? アレットにそれを止める権利なんてないだろう?」


 確かにそうだ。

 ラルフとアレットはあくまでも同リンクのメンバーであり、父親同士が仲の良い友人でしかない。アレットがラルフの行動や気持ちを縛ることなどできないのだ。

 これにはシアも興味があるのだろう……横目でアレットを見ている。

 興味と挑発の視線を受け止め、アレットは腕を組んで重々しく頷いてみせる。


「……私はゴルドおじさんから、『ラルフを頼む』と言われてる。つまり、ラルフが学院にいる間の一切合切を任されてる。もちろん、その中には男女関係も入ってる」

「え゛ッ!?」


 今明かされる驚愕の事実。

 あまりにも驚愕過ぎてラルフの口から変な声が出てしまった。


「いやいやいや、アレット姉ちゃん、それ多分、拡大解釈だと思う!」

「……少なくとも、私の眼鏡にかなった女の子とラルフがお付き合いしたとしても、清い交際しか認めません。それを考えると、ジャンヌは絶対に対象外」

「ま、アタシは清い交際なんてオママゴトみたいなのはゴメンだね。互いを貪るように求め合うのが本当の愛情ってもんさ」

「俺の話聞いて!?」


 当の本人が必死に訴えるものの、肝心の二人は剣呑な視線を交わしあっており、ラルフは蚊帳の外になってしまっている。ちなみにだが、後日、ラルフがゴルドに直接聞いたところ『え、そんなことになってんのか?』と逆に驚かれてしまった。

 閑話休題。

 そんな二人をどこか呆れた様子で見ていたシアが、小さく吐息をつきながら口を開く。


「それでジャンヌ。仮定の話ではなく、結局の所、貴女はどうしたいんですの?」

「ま、このままじゃ話が進まないのは確かだ。そうさね、男として興味がない訳ではないが……それ以上に、一人の仲間としてアタシのリンク『勇猛邁進』に来てほしいと思っている」

「……リンクの誘い……って、だけではないよね」

「御名答。アレットとシアは知ってるだろ? アタシが将来を見据えて、ここで仲間を集めているってのはさ」


 気安く手を上げるジャンヌの言葉に、シアもアレットも無言で肯定を返す。

 ただ一人、ラルフだけが首を捻っていると、隣からシアが捕捉を入れてくれる。


「ジャンヌのリンク『勇猛邁進』は、卒業後に冒険者として一緒にパーティーを組むことを前提としたメンバーを集めているんですのよ」


 シアの補足に、ラルフは更に首を傾げる。


「ん? でも、学院生はここを卒業したら各ギルドに所属して、そこでパーティーを組むことになってるんじゃないですか?」


 ラルフの疑問はもっともだ。

 新入生が「ファンタズム・シーカーズ」を代表する高レベルのリンクに所属したがるのは、卒業時に、ランクの高いギルドに引き抜いてもらえる可能性が高くなるからである。

 ランクの高いギルドには、功績を積んだ冒険者が多く所属しており、彼らとパーティーを組むことができれば、安定して未踏地域に挑むことができる。

 そんなラルフの言葉に、ジャンヌは首を横に振って見せる。


「アタシ達はここを卒業しても、ギルドに所属するつもりはない」

「え!?」


 ラルフは素っ頓狂な声をあげる。

 ギルドに所属しないという事は、冒険者最大の武器である人脈や情報が手に入らないどころか、ギルドに所属していることで得られる国からの経済的補助すらも拒絶することに他ならない。少なくとも、ラルフにはこれらのメリットを捨てる理由が思いつかない。

 ラルフの表情から何を考えているのか見通したのだろう。ジャンヌが笑みを浮かべる。


「ラルフ、ギルドに入ると経済的な補助を得ることができる。それはなぜか……ギルドが単一種族ごとに固まっているからだ。ドミニオスはドミニオスのギルドを、ビースティスはビースティスのギルドを、シルフェリスはシルフェリスのギルドを……ってな。だから、国からギルドに直接援助が降りるんだよ。他の国よりも多く未開地域を踏破し、未知の情報と技術を手に入れて来いってな。アタシはな、今のこの体制が嫌いなんだ」


 ジャンヌはグッと拳を握って、それをラルフに示して見せる。


「なあ、ラルフ。各種族には長所と短所があると思わないか? シルフェリスは霊術に強いが近接戦に弱い。ドミニオスは近接戦闘に強いが霊術が使えない。ビースティスはオールマイティーだが、逆に尖ったところがない。マナマリオスは高度な知識や技術を持っているが戦闘能力は低い。ヒューマニスは良い所ないがな」


 最後の一言でガクッとラルフの頭が落ちる。理解はしているが、改めて聞かされると変に凹んでしまう。そんなラルフをみてカッカッカと笑った後、ジャンヌは握った拳を己の顔の前に引き寄せる。


「アタシはな、色んな種族の奴らと組みたいんだ。短所を長所で補えるような理想的なパーティーを目指す。種族なんて枠に囚われるなんざ馬鹿らしいだろう? そして数々の功績を打ち立てて、名を上げて、成り上がる。そうすりゃ、誰もが分かるはずだ……この閉塞的な今の状況がどれだけ馬鹿らしいかってな」


 だからこそ……そう繋げて、固めていた拳を開くと、それをラルフに向ける。


「アタシはお前が欲しい。ヒューマニスのアタッカーであるラルフ・ティファートがな。アタシの野望の実現のために、アタシにはお前の力が必要なんだよ」


 この女性は己の力で、今の冒険者の在り方に革命――否、変革を起こそうとしているのだ。

 夢物語だと鼻で笑い飛ばせないような不思議な魅力と、力強さが彼女にはある。傲慢で、自信過剰で、強引で……それでも、ぐいぐいと周囲を引っ張ってゆくリーダーシップは、彼女が持って生まれた天性のモノだろう。

「アタシのリンクに来い、ラルフ。お前の未来をアタシに預けちゃくれないか」

「俺は――」


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