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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
七章 星誕祭~無限を冠する女王と浮遊大陸エア・クリア~
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ジャッジメント・ディバイン・レイ

 漆黒の空の中、真紅の翼を大きく羽ばたかせながら、アルティアが飛翔する。

 その姿は、まるで夜空を走る赤い流星。

 ラルフが乗ったことのある最速の乗り物と言えば、アレットの結婚騒動の時に乗船した霊術を用いた高速船だったが……高速船など比べるのも愚かしいほどの速度で、アルティアは空を飛翔する。

 アルティアの背に乗ったラルフは、背後を振り返る。

 そこには空高くで滞空している巨大な大陸――エア・クリアがある。すでに豆粒大の大きさにしか見えないほど遠くに来ているが、先ほどまで自分がそこにいたという事が何だか感慨深い。


「やれやれ、これで一息といったところか」


 ラルフの隣でチェリルが大きくため息をついて肩を回している。妙に年寄り臭い動作の後、彼女は小さく嘆息した。


「ずっと傍観者としてチェリルを見守ってきたせいかな……自分で体を動かすのがここまでしんどいなんてね。やっぱり、運動なんてするもんじゃない」

「いや、君は運動しなよ」


 ラルフが半眼でそう言うと、チェリルは大口を開けてアクビをした。


「何はともあれ、修羅場は乗り越えたし、もうボクの力も必要ないだろう。そろそろチェリルに体を返すことにしよう」


 そう言って彼女は目をつぶるとこてんとラルフに肩に身を預けてきた。

 服越しに温もりと柔らかさを感じ、少しドギマギしながらもラルフは目を細める。


「結局、貴女は誰だったんだ……?」

「きっと、君の予想している通りさ。明確に口には出さなかったけれど、隠している訳でもなかったしね。君のその鋭い直感なら、もう見抜けているはずだ」


 安心しきった様子で体を預ける彼女は、再度小さく欠伸をして小さく言葉をこぼす。


「チェリルのこと、任せるよ。ボクのせいで、この子は背負う必要のないものまで背負う羽目になってる。だから、君がしっかりと支えて……あげたまえ……」


 徐々に言葉が小さくなり、最後には目を閉じて安らかな寝息を立て始める。あまりの寝つきの良さに、ラルフは目を丸くしてしまった。


「……? チェリル? お、おぉい、アルティア。チェリルが寝ちゃったんだけど……」

『普段は表層に現れていなかった魂が、久しぶりに肉体を動かしたのだ……相当に疲労しているのだろう。そのまま大人しく寝かせてやるといい。彼女の言葉が正しければ、次に目を覚ました時には、もう普段通りのチェリルに戻っていることだろう』

「お、おう」


 ラルフは頷き、チェリルがアルティアからずり落ちないように場所を開けてやる。そして、その頭をポンポンと撫でた後、自分はアルティアの頭の方へと移動する。


「にしても、無事に脱出できて本当に良かった……生きた心地がしなかったよ」

『そうだな。チェリルがいてくれなければ、確実に捕まっていただろうな。しかし、ラルフも良くやった。最初の頃に比べて、見違えるほどに強くなったではないか』

「あはは、ありがとう。鍛錬してた甲斐があったってものさ」


 ラルフはそう言って顔を上げると水平線の彼方を見つめる。

 まだ太陽が出るには早く、まるで深淵に繋がっているかのような闇がわだかまっている。

 アルティアの頭の上に顎を置きながら、ラルフはぼんやりと自分の中にある違和感を口に出す。


「なぁ、アルティア……俺達の神装ってさ、人類の敵である終世獣と戦うためにあるんだよな」

『む? そうだな。少なくとも、私はそのために神装を生み出した』

「ならさ……」


 ラルフはそこで一度言葉を切ると、微かな躊躇いを挟んで問う。


「全ての終世獣を倒せば、この世界は争いのない世界になるのかな。皆が笑って暮らせる世界になるんだろうか」

『………………』

「俺は神装を手に入れてから何度か終世獣と戦ったよ。たださ……それ以上に……俺は神装者と戦ってきたんだ」


 終世獣を倒すためにこの世に生み出された『神装』。

 けれど、ラルフはフェイムダルト神装学院に来て、幾度となく同じ神装を持つ者と命を賭して戦ってきた。そして、それは今回も例外ではない。


「俺は何と戦えばいいんだろう。誰を倒せばいいんだろう。まるでこれじゃ、俺達の本当の敵は終世獣じゃなくて、人間自身なんじゃ――」

『人の持つ業……その行き先がどこなのか誰にも分からない。神光のリュミエールですら、その問いの答えを求めるが故に凶行に走ってしまったのだから』


 まるで、ラルフが決定的な一言を放つのを止めるかのように、アルティアが言葉をかぶせてくる。


『人とは不思議な種族だ。世界を変革することができるほどの英知を有しながらも、どうしようもなく不安定で、未熟極まりない。その不安定さをリュミエール、マーレ、レニスは世界の不穏分子と捉えた。対して私はその不安定さこそが可能性だと考えた』

「可能性……?」

『そうだ。我ら創生獣は完全なる個として成り立つ者。だが、故にその先がない。今、ここにある自分自身こそが完成体だからな。だが人は違う』


 アルティアの声はどこか郷愁を含んだように、柔らかいものだった。


『不安定だからこそ、未熟だからこそ、その先がある。どこまでも、どこまでも歩いてゆける。その途中で間違えることもあるだろう、何度も倒れることがあるだろう……それでも、人は進んでゆけると私は思うのだ。創生獣大戦の時……英雄クラウド・アティアスを中心にして、今まで争っていた者達が一致団結した姿を見た時、私の考えは確信に変わったものだ』

「…………」

『私にラルフの考えを強制することはできない。だがな……人の可能性を信じて欲しいとは思う。人が人の可能性を信じてやれないなど、悲しいだろう?』

「そう、だな」


 言葉を切り、ラルフはぼんやりと己の右手を見つめる。

 『可能性』――茫漠とした未来を切り開くための力。

 もちろん、ラルフは人に絶望したつもりはないし、全ての人間が愚かなのだと大上段の意見を持っている訳でもない。

 それでも、このままではいけないのではないかという危惧はある。

 きっと、このままでは例え世界から終世獣を駆逐したとしても……人は過去を繰り返し、神装を用いて互いに傷つけあうことになるだろう。


「可能性……人の、可能性、か」

『一朝一夕で解決する問題ではない、今はあまり難しく考えすぎるな。トゥインクルマナから補充した霊力があれば、フェイムダルト神装学院まではこの姿を維持できるだろう。それまでゆっくりと眠ると――』


 だが、アルティアが最後まで言葉を紡ぐよりも先に、『それ』はやってきた。


『……ッ!! しっかりつかまれ!』

「え? ……うおぉぉぉぉぉ!?」


 急旋回、急上昇……空気の壁を全身で強引にぶち抜くような飛び方に、アルティアの背に乗っていたラルフは転げ落ちそうになった。

 必死でチェリルを引き寄せ、アルティアに文句を言おうと思ったラルフだったが……先ほどまでアルティアがいた空間を、極大の霊力砲が通過して行ったのを見た瞬間、言葉を失った。

 恐らく、出力だけで言うなら今までラルフが見た霊術の中でも最大級。あれほど力強く飛翔していたアルティアが、空気の撹拌に巻き込まれてグラグラと体勢を崩すほどだ。

 霊術砲は海を割りながら猛スピードで直進していき……そして、『何か』に直撃したのか、巨大な水柱を吹き上げながら爆発四散した。

 鼓膜を直接殴るような轟音と共に、空高くまで打ち上げられた海水が雨となって降り注ぐ中……ラルフは唖然としてその光景を眺めていた。


「え、え……今の、何……?」

『ジャッジメント・ディバイン・レイ……』

「アルティア?」


 その一言を言った瞬間、アルティアが先ほどとは比較にならない速度で飛翔を開始する。


『ラルフ! チェリルを引き寄せて、頭を下げていろ! 急ぐぞ!』

「え、ちょ、一体何なのさ!?」


 もはや、頭を高く上げた瞬間、風に体を持っていかれるほどの速度。ぴったりとアルティアの背にへばりつくようにしながら、ラルフは声を張り上げる。


『さきほどの霊術は神光のリュミエールが使う固有霊術ジャッジメント・ディバイン・レイだ。方角からして恐らく学院……! あの学院のどこかに、リュミエールの転生体がいる!』

「フェイムダルト神装学院に?」

『そうだ! 乗り心地は悪くなるが……全速力で飛ぶぞ!』


 一晩掛かると言われていたフェイムダルト神装学院までの道のりは、全速力のアルティアの飛翔により1/10にまで短縮された。ほんの数時間後、ラルフの視界はフェイムダルト島と、そこに建てられた学院からこぼれる明かりを捉えたのであった。


本当に遅くなりました……申し訳ないです。いやはや、やっぱりプライベートの時間って大切なんだなーとしみじみ思います。

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