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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
七章 星誕祭~無限を冠する女王と浮遊大陸エア・クリア~
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幕間 エミリー・ウォルビル

「……天井を破って、上へと逃げているな」


 ラルフとチェリルが屋上へと猛進している頃、外の近衛兵達は正確に二人の現状を把握していた。霊術師の頭上の空間には、キラリと輝く鏡のような物体がぷかぷかと浮いている……これを霊術で作りだし、光を屈折させて校舎内部の様子を見たのである。

 ラルフなどの霊術に詳しくない者は、霊術=攻性用のぶっ放す技術、と思っている節があるが……実際はその応用の幅は広い。小手先と思われるかもしれないが、このように繊細な霊術の応用ができるのも、近衛兵達が卓越した技術を持っているためだ。


「何の目的があって屋上へ逃げているか目的は不明だが、追うぞ」


 その一言で、その場にいる十名のうち、八名が翼を大きくはためかせる。

 力あるシルフェリスは、霊術の補助によって空を飛ぶことができる。無論、ここにいる者達は例外なくそれぐらいは苦も無くやって見せる者達だ。

 必要最小限の人数をこの場に残し、屋上に先回りしてラルフ達の頭を抑えるため、飛び立とうとしたその時……怒りに引きつった声が掛けられた。


「もしもし。貴方達は生徒の学び舎に何をしているのでしょうか?」


 そう言って現れたのは、桃色の長髪をなびかせ、小さな丸眼鏡を掛けている女性――エミリー・ウォルビルであった。

 表情こそニコニコと笑みを作っているものの、全く目が笑っていない。

 彼女のことをよく知っている者ならば、エミリーがこういう顔をした瞬間、謝り倒すのだろうが――特にゴルドとか――あいにく、目の前の近衛兵達は彼女のことを全く知らなかった。


「…………」


 一瞬、視線をエミリーに向けたものの、まるで路傍の石を見るかのように興味を失うと、すぐさま飛び立とうとして――


「『『『落ちろ』』』」


 一斉に地面に叩き付けられた。

 一体どのような力が働いているのか……地面に叩き付けられた近衛兵八名は、不自然な体勢のまま未だに地面にひれ伏している。

 近衛兵達の技量をもってしても解除できない、力押しの単純な霊術。決してスマートとは言えないが、相手を力でねじ伏せられるのならば、これほど合理的な霊術もあるまい。

 仲間達が霊術で拘束されていると理解するやいなや、地上に待機していた二名は瞬く間に散開。エミリーを挟撃する位置に据え、風を纏って一気に接近する。

 一瞬の停滞もない流れるような動き。お手本のような見事なコンビネーションだが……あいにく、エミリーはそれすらも凌ぐ化け物達と共闘してきた猛者だ。


「『『『吹き飛べ』』』」


 呟くようなエミリーの言葉を合図に、近衛兵達の纏った風を貫通して無色透明な衝撃が直撃する。かなりの威力があったのだろう……虚空に向けて盛大に吹っ飛んだ二名は、けれど、空中で何とか体勢を整え――


「『『『落ちろ』』』」


 そのままデジャブのように地面に叩き付けられた。

 近衛兵達は全員、まるで化け物を見るかのような視線でエミリーを見上げる。それはそうだろう……彼等の霊術は、経験に裏打ちされた実戦に特化され抜いた物だ。

 霊術の面で天才と言われるチェリルに対し、質で敵わないと見るや、速度で彼女を封殺したのが良い例だろう。要するに、『相手を倒す』こと一点に突き詰めた霊術なのだ。

 だが、目の前のエミリーはそれすらも全て一様に薙ぎ払ってしまったのである。

 もはや、レベルが違うとかの話ではなく、次元が違う。


「ば、化け物め……!」

「あら、忘れたんですか。そうですよ。私は化け物……貴方達が創りだした妄執の産物」


 くすりとエミリーが笑った瞬間、近衛兵達を抑えつけていた圧力が一気に増す。

 ギシギシと頭蓋が、骨格が、悲鳴のような軋みを上げる中、エミリーが何気ない足取りで地に伏した近衛兵達に近づいてくる。


「外套の下に隠れた白銀ミスリルのフルプレートか。城の中心部を護る第三近衛兵達が身に着ける鎧ですね。近衛兵としての質も品位も下ですが、盲目的な忠誠心は持っているはず。それが王女を放っておいて、こんな所で油を売っているとは……一体何をしているのやら」


 エミリーはそう言ってため息を一つ。


「それじゃ、キリキリ吐いて下さいね。これでも私も結構忙しい身なんです。あんまり時間を掛けるようなら、直接記憶に干渉するつもりなので、そのつもりで」


 記憶や精神といった魂に直接関係する部分に干渉するという事は、下手をすれば、その精神を破壊する可能性もある極めて危険な行為だ。

 まぁ、エミリーの技量があればそんな下手は打たないのだが……それをわざわざ教えて安心させてやる必要もあるまい。


「さ、それじゃ、始めましょうか」


 そういって、エミリーは無害そうにポンッと手を打ったのであった……。


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