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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
七章 星誕祭~無限を冠する女王と浮遊大陸エア・クリア~
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星誕祭二日目――迫りくる近衛兵

 星誕祭が開催され、人々の話声で賑わうフェイムダルト神装学院だが、利用されていない校舎は普段に比べて静寂に満ちている。

 だが……突然の闖入者によって、その静寂は破られることになる。


「だぁりゃぁぁッ!!」


 力場を展開した拳と、霊力によって切れ味が強化された剣が激突し、火花が散る。

 眼前、シルフェリス近衛兵が用いるのはブロードソード型の神装だ。斬撃を主体とするこの手の剣型神装は間合いが特別広い訳でもないため、攻撃を行うために接近する必要がある。

 つまり、ラルフとは相性が良い神装なのだが……。


 ――くっ! さすが近衛兵……強い!


 剣撃と拳撃がぶつかり合って弾きあった瞬間、ラルフはその反動を上体の旋回に利用し、左の拳を繰り出す。学院の生徒相手ならば、確実に沈めることができるであろう重さと速さを兼ね備えた一撃は……けれど、決定打とはなりえない。

 返ってくる手ごたえは重い――相手が巧みに手元に引き寄せたブロードソードのナックルガード部分が、ラルフの拳を見事に防いだのだ。


「……シッ!」

「うぉっ!?」


 しかも相手は、拳がナックルガードにぶつかった瞬間、そこを支点にして手首を切り返し、ラルフの首筋に向けてカウンターの斬撃まで繰り出してくる。

 スウェーバックで何とか回避したものの、さすがに肝が冷えた。

 学舎の廊下という、限定された空間であるにもかかわらず、全く苦にした様子もなくブロードソードを取り回している。それだけでも、この近衛兵が卓越した実力を持っていると分かる。


「風と共に遊び、世界を巡る、聖風の渡り鳥よ。我らが風の行く手を遮る者を打倒する力を今こそ我に! エアロ・スワロー!」

「如何なるものをも阻む万象の盾、堅牢なるその身で立ち塞がり、怨敵より我らを護りたまえ! ミドガルズ!」


 ラルフと戦っている前衛の近衛兵の後ろ――杖型の神装を手にした近衛兵が、高速で詠唱を終え、杖の先端をラルフに向ける。

 詠唱の終了と同時に、顕現の瞬間すら見えないほどの速度でラルフに向かって風の弾丸が殺到する。だが、それが着弾するよりも先に、ラルフの背後に控えていたチェリルが展開した半透明の障壁がこれを阻んだ。

 本来ならば、発動前の霊術をブレイクすることができるチェリルだが……あまりにも発動が早すぎるため、反応が追いつかずこうして後手に追い込まれているのだ。


「ライトニング・スカー!」


 間髪入れず、近衛兵は、ティアが良く使う馴染み深い霊術を、一切詠唱することなく発動させる。瞬時に収束した霊力は、学院生達が使う霊術のソレとは段違いの密度だ……ラルフは、襲い掛かって来るであろう雷光に対し身構える。

 そして、放たれた雷光は狙い違わずラルフを護る障壁に炸裂――せず、その上、天井を破壊した。げ、と引きつった声をこぼしたラルフに向かって、剥離した天井の破片が落ちてくる。

 バックステップを踏んで後方に退避したラルフだったが、その瞬間を待っていたと言わんばかりに、前衛の近衛兵が風を纏って突貫してくる。

 霊力によって突撃力を増した一撃……さしものラルフも、後退の途中でこれを貰っては体勢を完全に崩され、致命打をもらってしまうことだろう。

 だが……この男はその劣勢を覆すだけの強打をもっている。


「舐めんなッ!! ブレイズ――」


 右腕に灯った灼熱の炎が、シャレにならない熱量と威力を内包していると気が付いたのだろう。前衛の近衛兵が推進力に使っていた風を前方に集め、防御を固めるが……。


「インパクトォォォォォォォォォォォッ!!」


 <フレイムハート>の炎はその程度で吹き消すことなどできない。

 手応えすら感じるほどに圧縮された風の壁を、ラルフの灼熱の拳が易々と食い破る。そして、ミスリルで錬成されたフルプレートの胸当て部分に、拳打が直撃した。

 耐霊力・耐物理の両面に優れたミスリルの鎧がひしゃげて宙を舞い、近衛兵の体が派手に吹っ飛ぶ。だが、その体が地面に激突するよりも先に、後衛の近衛兵がその体を受け止めた。


 ――好機!


 続けて後衛の近衛兵を倒すため、ラルフは地を蹴らんとしたが……それよりも先に、近衛兵は懐から取り出した黒い球体を地面に叩き付けた。

 パンッと小気味よい音が響くと同時、内包されていた煙がもうもうと立ち上る。


「くっそ、この程度!」

「ラルフ! それはたぶん、煙幕と狼煙の役目を兼ねてる! とりあえず引くよ!」


 口惜しくはあったがここはチェリルの言うことが正しいと判断したラルフは、潔く踵を返すと、チェリルを担ぎ上げて廊下を駆け抜ける。


「……あのさ、ボクの扱いが荷物同然なのはどうなのさ」

「しょうがないだろ!」


 跳躍して階段を十段近くすっ飛ばし、踊り場に着地したラルフは、弾かれたようにすぐさま跳躍――その瞬間、真下から踊り場を突き破って、先ほどまでラルフが立っていた場所に鋼のナイフが十本近くゾロッと生えていた。


「くっそ! 次から次へと……!」

「でもマズイな。上に追い詰められているね。さすが近衛兵っていうべきか……捕り物に慣れてるね。一糸乱れぬ見事な連携だ」

「褒めてる場合か!?」


 ただ、それは否定できない所であった。

 オルフィの傍から離れたラルフとチェリルだったが、予想以上に堅牢な包囲網を前にして、校舎に退避せざるを得なかったのである。二人を校舎に追い込もうとしている相手の狙いは理解していたのだが……さすがに、一般人も多くいる外で、神装を発現して派手にド突き合いを繰り広げるわけにもいかない。


「ビースティス大使館方面近づけないどころか、校舎から出るのも至難の――」


 ラルフは全速力で廊下を駆け抜けながら、窓越しに外を見て……ギョッと目を剥いた。

 恐らく、先ほどの交戦で、ある程度ラルフ達の居場所に当たりを付けていたのだろう。外で学舎を包囲している近衛兵達が、一斉に霊術の詠唱に入っている。

 そして、その狙いは廊下を走るラルフを過たず狙い定めている。


『一斉射が来るぞ、ラルフ!』

「あいつら、見境なしかよッ! チェリル、可能な限りブレイクを!」

「わ、分かっ……わぁぁぁぁぁぁぁ! 来た来た来た来たッ! 避けて避けてぇ!」


 ラルフは空き教室の扉を蹴り破ると、全身を投げ出すようにして中に退避した――そのタイミングを同じくして、全てを白一色に染め上げる暴力的な光と、激震、そして、音の濁流の三つに呑みこまれた。

 咄嗟にチェリルを胸元に庇ったラルフは、盛大に背中から壁に叩き付けられ、激痛に顔をしかめた。目を開けてみれば、窓はボロボロに砕け、廊下は所々焼け焦げている。


「マジかよ……」

「これでも多分、手加減してると思うよ。シルフェリスの近衛兵が本気で霊術を放ってたら、廊下ごと抉られてると思うし……ボクらを捕縛しようとしてるんだろうね」


 これはチェリルもラルフも知らないことだが……実は今、ラルフ達を追っている一部の近衛兵達もまた、大きな騒ぎになること嫌っているため、本気で霊術を撃てないでいるのだ。

 なぜならば、オルフィ・マクスウェルの口から『ラルフとチェリルは今回の件に一切関係なく、彼等に手荒な真似をすることは女王の名において禁ずる』と指示を受けているからだ。このことがばれようものなら、首が飛んでもおかしくはない。

 近衛兵達はオルフィの件とは関係のない思惑によって、ラルフ達を追っているのだ。


「く、でも動けないぞこれ……窓に近づいた瞬間、また狙い撃ちを貰うぞ」


 かといって、このままここで手をこまねいていれば、すぐに新手が追いついてくるだろう。教室という閉鎖空間で戦うことになることだけは避けたい。

 八方塞かと歯を噛みしめていると、ラルフの腕の中でチェリルが天井を見つめる。


「……ラルフ、上へ逃げよう」

「いやまぁ、それは同意だが、廊下に出られない以上、階段を使うのは難しいぞ」


 ラルフの言葉を受け、チェリルは掌を天井に向ける。


「ボクが今から立て続けに天井を破る。そこを通って上の階に行くんだ。ラルフの身体能力なら可能だろ?」

「校舎をぶっ壊すのか……というか、屋上まで行ったとしてもそれ以上逃げ場が無くなるぞ」

「全部シルフェリス近衛兵の仕業にしとけばいいよ。誰もボクらがやったなんて証拠は持ってないんだから。それに逃走経路についてはボクに考えがある。まぁ、任せときなよ」


 滅茶苦茶な理屈だが、今がなりふり構っていられないという点ではラルフも同意だった。ラルフはチェリルを横抱きで抱き上げると、天井を睨み付けた。


「よし……やってくれ!」

「こ、この体勢、微妙に恥ずかしいけど……わ、分かった!」


 チェリルはそう返事すると、両の掌を天井に向けて集中を高める。


「シャイニング・レイ!」


 高密度で練られた霊力の塊が、チェリルの掌に現れ、それが天井に向かって放たれる。単純であるが故に威力はあるのだろう。轟音と共に瓦礫が落ちてきて、天井が抜ける。

 瓦礫が完全に崩れ落ちたタイミングを見計らい、ラルフが軽く助走をして一気に上の階へと飛びあがる。

 それを繰り返すことで、割とあっけなく屋上まで行くことができた。

 屋上に繋がる天井は、階下の天井に比べてかなり厚く、割り砕くのに苦戦したが、追手が追いついてくる前に何とか辿り着くことができた。

 誰かが待ち伏せしているかと警戒したものの、特に誰も潜んでいる様子はなく、ラルフはむしろ拍子抜けした思いだった。


 ――ふむ、てっきり察知した外の連中から妨害が来ると思ったんだがな。


 外から見えずとも、天井をぶち抜くたびに大きな音をさせていたのだ……ガラス窓一枚越しなら、多少距離があっても異変に気づけそうなものだが。


「ま、結果オーライか」


 わざわざ屋上の縁に寄って外を確認するという危険を冒す必要もあるまい。


「しかし、驚くほど何もないな」


 今まで、特に用事もなかったことから一度としてフェイムダルト神装学院の校舎の屋上には行ったことのなかったラルフだが……ものの見事に何もない。

 チェリルが自信満々に考えがあると言っていたので、てっきり屋上に脱出するための道具か何かがあるのかと思ったのだが、見当違いだったようだ。


「チェリル、考えがあるって言ってたけど、これからどうするのさ」

「うん、ここから飛び降りるよ」

「………………は?」


 何でもないように答えたチェリルの言葉に、ラルフは気の抜けた返事をしたのであった。


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