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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
七章 星誕祭~無限を冠する女王と浮遊大陸エア・クリア~
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星誕祭二日目――共通点

 賑やかな雑踏の中、比較的すいている道を選び、ラルフは周囲を警戒しながら歩いてゆく。疑心暗鬼……とまではいかないが、これだけ人がいるのだ。どこから近衛兵のシルフェリスが飛び出してくるか分かったものではない。

 確かにオルフィは霊術『ハイドクラウド』を使って髪の色、目の色を変えておりパッと見では別人のようだが……それでも、何の拍子でばれるか分かったものではない。警戒を緩めて良いことには直結しない。


「え、じゃあチェリルさんってユグドラジュフォーミュラー数式を使って霊術を起動させているんですか。わぁ、すごいですね」

「うん! 皆が使ってる単純霊力変換法だと、結局、個々の霊力キャパシティーが物を言うことになるでしょ? 確かに、ボクも霊力キャパシティーはそこそこある方だと自負してるけど、それでも限界はあるもん。だから、その場その場に対応できるように、霊術の構成式に干渉しながら発動できるユグドラジュフォーミュラー数式を使った霊術起動法を使ってるんだ。こうすれば、霊力のロスを回避できるからさ!」


 鋭い視線で左右、前方に意識を配る。

 ラルフは相対した敵と戦うことに関しては無類の強さを発揮するが……今回のように、前後左右から襲い掛かってくる敵にはどうにも弱い。

 言ってしまえば、戦場での経験が浅い。

 闘技場で目の前に立つ相手を倒すのとはわけが違う。敵はいつ、どこで、どのように、どこから襲い掛かって来るのか、その一切が分からないのだ。

 戦場では勝利こそが全て。背後から襲い掛かろうが、毒を使おうが、飛び道具を使おうが、罠に嵌めようが……最終的にその場に生きて立っていたものこそが勝者なのだ。いかに高潔な矜持を胸に抱いていた所で、死んでしまえばそれは時と共に風化してゆくだけだ。


「でも、ユグドラジュフォーミュラー数式を使っての霊術起動法は、既存の構成式に干渉しなければならない都合上、即興力と緻密な制御が必要になってくるはずです。それを使いこなすなんて……チェリルさんは才能豊かなんですね」

「あっはっはっは! まぁ、そうともいうけどね! でも、無限に霊力を使えるフィーなら必要ないでしょ。適材適所だよ。フィーは細かいこと気にしないで、いかにして全力を出し切れるかを考えていればいいって思うよ!」

「いや、チョイ待てチェリル」


 くるっとラルフが体ごと振り返れば、そこには仲良く手を繋いでキョトンとした顔をしている二人組がいる。身長差があるためか、パッと見では仲の良い姉妹のように見える。


「無限に霊力を使えるとか言っちゃダメでしょ」

「あ、そか」


 今思い出したと言わんばかりに、ポンッとチェリルは手を打った。普段は割と用心深い性格をしているチェリルだが、こと霊術関連の話題になると饒舌になってしまう。

 そんなチェリルを嗜めるラルフに、オルフィが微笑みながら近寄ってくる。


「ラルフさん、一応、私の目と髪の色も変えていますし、周囲には認識疎外の結界をうっすらとではありますが張り巡らせています。よほど、目立った行為をしない限り、見つかることはありません」

「いやまぁ、オルフィさんがそうおっしゃるなら……」


 ラルフがそう言うと、オルフィは自分の唇の人差し指を当てる。


「ラルフさん。『オルフィ』ではなくわたくしのことは『フィー』とお呼びください。それに、敬語も不要ですよ。今のわたくしは、ただの『フィー』なのですから」

「は、はぁ……」


 ニコニコと満面の笑みを浮かべながら語りかけてくる女王サマ。

 何というのだろうか……お喋りするのが楽しいです! と全身で訴えているような感じがする。実際、チェリルと手を繋いで話している間、彼女の顔はずっと笑顔だ。


 ――長年、王宮で生活してたっていうし、同年代とこうして話をする機会なんてなかったんだろうなー。


 などと、勝手な想像をしたラルフは、自分だけピリピリしているのが馬鹿らしくなり、歩調を落としてオルフィの隣に並んだ。


「えっと……ちょっと聞いていいかな、フィー」

「ふふ、なんですか? ラルフさん」


 フィーと呼ばれ、何だか嬉しそうなオルフィに対し、ラルフは今まで聞いていなかった肝心なことを質問する。


「フィーが探している人の特徴を教えてよ。マナマリオスで年齢が三十~四十ってこと以外分からないしさ」

「あ、そうですね。ただ、何分幼い頃のことだったので……」


 ただ、マナマリオスという時点で髪は紫紺、目は蒼と決まっている。

 あとは体格だが……これもまた、小柄な者が多いマナマリオスでは決定的な特徴ではないだろう。あとは装飾品の類や、髪型だが、これも変えてしまった場合、特徴とはなりえない。

 それはオルフィも分かっているのだろう――必死に頭を悩ませている。


「特徴、特徴……名前がエクセナ・フィオ・ミリオラという事だけは分かっているのですが、一目で分かるような外見的な特徴はなかった気がします。あえていうなら、身長が普通のマナマリオスよりも小さくて、だぼだぼの白衣を着ていたことぐらいでしょうか」

「……エクセナ・フィオ・ミリオラ?」


 その名前がまさか目の前の彼女の口から出てくるとは思わなかった。

 同時に、ゴルド、フェリオ、レッカ、オルフィ――共通点などないと思われた四名が『エクセナ』という女性で一直線に繋がった瞬間でもあった。


 ――どういうことだ……。チェリルの口から出てきた四人の共通点が、今は行方不明のエクセナさん……。つまり、チェリルはエクセナさんと知り合いなのか?


 ラルフがちらりとチェリルの様子を窺うと、彼女は感心したように頷いていた。


「エクセナ・フィオ・ミリオラって言ったら、ボクが使っているユグドラジュフォーミュラー数式を創った研究者じゃないか。ボクに及ばないまでも、才能を持った人だったみたいだね」


 どうやら、知り合いではないらしい。


「チェリルはそのエクセナさんとは面識ないの?」

「ないよ。言っとくけど、ボクはマナマリオス本国では本格的な引きこもりだったんだよ。他の人と積極的にコミュニケーションを取ってるわけないじゃないか!」

「自慢げにいうな」

「あにゃにゃにゃにゃー!」


 チェリルの柔らかい両頬を左右に引き伸ばしながらラルフは考え込む。

 もしかして、チェリルの母親がエクセナなのではないかと一瞬思ったラルフだったが、見当違いだったようだ。

 ラルフの腕から逃れ、オルフィの元へ走ったチェリルが舌を出して威嚇するのを見ながら、ラルフは顔を上げる。


「フィー。俺も、その人の名前、聞いたことあるよ」

「ほ、本当ですか!」


 パッと表情を明るくするオルフィ。

 だが……。


「でも、確かその人は今、行方不明になっているって……」

「あ……」


 明るくなった表情は、すぐに失望へと落ちてゆく。

 さすがに、ここで追い討ちをかけるように『大量の血痕』という言葉をかぶせることはできなかった。表情を暗くするオルフィを励まそうと、ラルフは慌てて言葉を添える。


「あ、で、でもエクセナさんと学生時代に友人だった人が、ここの学院で教員として働いているらしいから、話を聞きに行ってみようよ!」

「そうなの……ですか?」

「うん、俺の先生で、エミリー先生っていうシルフェリスの女性なんだけど。確か、学生時代に知り合いだったって聞いたよ。どうかな、せっかくここまで来たんだから、話だけでも聞いたら?」


 ラルフの勧めに考え込んでいたオルフィだったが、何かを決意したかのように強く頷いた。


「分かりました。案内していただけますか、ラルフさん」

「うん、分かった」


 ラルフは頷くと、エミリーが働いているであろう北西の学院エリアに向けて移動を開始したのであった。


そろそろ登場人物も多くなってきたことだし、いったんまとめを作った方がいいんだろうかと悩み中。今章が終わったら、作ろうかどうしようか。

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